表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リセットメガミ  作者: さっさん
File1: 女神は舞い降りる ~悪因悪果~
1/101

Report1: 転落

挿絵(By みてみん)

(Illustration: 雨月星一さん)


◇特設サイトOPEN!!

 https://www.freeasbirds.biz/?page_id=2961

 時刻は午前八時過ぎ。通勤中の電車の中。俺はイヤホンでお気に入りの音楽を聞きながら、勤めている会社までの道すがらだった。

 最寄り駅まであと二駅の所で、折りしも事件は起きた。


『この人痴漢です!!』


 満員の車内で、女子高生が叫んだ。顔には恥辱と決意と、恐怖……それらが混然となって表れているようだった。

 勇気を振り絞って男の手首を掴む。そうして天高く掲げられたのは――俺の右手だった。


「痴漢……!?」

「つ、捕まえろ!」

「次の駅で降りろ! いいな!?」


 “痴漢冤罪”。

 すぐさまその単語が頭に浮かんだ。軽蔑の眼差し、怒気を感じさせる眼差し。大勢の人間がこちらを見ている。

 そういやゴキブリを見た時の母も、あんな顔をしていたっけ。


 ざわめく車内。俺の思考を置いてけぼりにして、事態は急加速していく。その場で数名の男に腕や肩を捕まれた。

 さっきまで車内はギチギチだった。なのに、不思議と今では、俺を中心に円状を形成している。


「降りろ!!」


 電車が停車した。俺に向かって、見知らぬ男性が吐き捨てるように言う。

 人が車外に流れ出てゆく。その瞬間、俺は隙を突いて男の手を振り払った。そしてそのままホームへと転び出て、駆け出した。

 捕まりたくはなかった。


 下車したのは最寄駅の一つ前だ。

「そいつ、痴漢! 捕まえて!」という誰かの声を聞いて、今度は別の男が歪んだ正義を振りかざす。顔を殴られた。痛い。視界が一瞬ぐらついた。

 だがしかし、捕まってなるものかと必死に逃げた。

 降りた事のない駅だったが、ホームへと思しき階段を駆け上がる。改札を出ようと考えた。だが、騒ぎを聞きつけた駅員が前方から迫っていた。

 捕まったらきっと酷い目に遭わされる。きっと話なんか聞いてくれないだろう。

 連絡通路を渡って、俺は反対側のホームへと逃亡する。


 《間もなく二番線に電車が通過いたします。危険ですから、黄色い線の内側まで下がって――》


 電車接近のアナウンスが流れていた。しかし意識の遠くでぼんやりとしか聞いていなかった。

 振り返れば獣のような男達が追ってくる。生まれ持った正義感なのか、はたまた只の偽善なのか。強固な意志を目に宿らせて、追ってくる。


「あっ……!」

「ごめん!」


 誰かにぶつかった。少女だ。咄嗟に謝ったが、正直どうでも良かった。

 何処かの学校の制服を着ているから、今から登校する所なのだろう。


 チラりと振り返る。すると、女の子はぶつかった衝撃で足がもつれ、線路へと落ちそうになっているのが分かった。


 何かを考えていた訳ではない。冤罪だとか捕まりたくないとか、どうしようとか。漠然とそれらが渦巻いて、パニックになっていただけかもしれない。

 この子が死ぬ、俺のせいで。

 認識出来たのはそこまで。ただ、体が勝手に動いた。

 走っていた俺は急ブレーキを掛けると、今まさに落ちんとする少女の腕を掴み、力の限り引っ張る。ゆっくりと少女の体がホームへと戻っていくのが視認できた。

 そしてそれと引き換えに、自分の体が宙へと投げ出される浮遊感があった。

 直後、顔面に強い衝撃。ゴツゴツした、線路の砕石が視界に入る。


 女性の悲鳴。警笛。ブレーキ音。地響き。

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる人々。まさに(かなえ)の沸くが如し。

 大勢の人が何かを叫んでいるけれど、「電車止めて!」という男性の矢継ぎ早に発する声だけが辛うじて聞き取れた。

 最後に覚えているのは、眼前に迫り来る白い鉄の塊だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ