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令嬢はまたお手軽な冒険に出る10

 フランの小指をにぎにぎしながら階段を下りる。フランに迷惑そうな視線を向けられている気がするけど、たぶん気のせいよね。


「……暗いですね」


 アベル様が少し震える声を出す。


「大丈夫よ、アベルちゃん。私が手を握っていてあげるから~」


 そんなアベル様の手は、キャロがしっかりと握っているらしい。キャロは相変わらず、のほほんとしているようで男らしい。


「ハミーちゃん様、震えてますね。手、繋ぎましょうか?」


 レインが、ハミルトン様にそんな提案をしている。


「べ、別に私は震えてなんて!」

「暗がり、苦手なんですか?」

「怖くないと言っているでしょう! ええい、勝手に手を繋がないでください! 怖くないんですから!」


 ハミルトン様、震えてるんですか?

 おかんだったり、暗いところが怖かったり、ハミルトン様はヒロインなのか? ってくらい、属性が盛り盛りだな……。ゲームではツンな部分とデレのギャップばかりが強調されていたけれど、こういう面ももっと描いてよかったんじゃ。そしてうちの義妹、男らしいな。


「階段、長いですね」


 ぽつりとホルトがつぶやく。階段は歩いても歩いても先が見えない。まるでこのまま、地底の死者の国にでも続いているようだ。そんな想像をして、私は身を震わせる。

 するとフランが……手をちゃんと繋いでくれた。


「フラン……」

「この長い階段も、いずれ終わります」


 そっけなく言う、フランの手は温かい。幸せだなぁ。だけどもっと幸せになれるように、頑張らないと。

 私は空白ばかりのポイントカードに、遠い目で思いを馳せた。

 そうしてさらに歩いていると――


「扉、ですね」


 フランが前を見てぽつりと言った。つられて前を見ると、階段が終わり、そこは少し開けた広場になっていた。そして岩壁に嵌っていることが違和感でしかない、つるりとした美しい白木の扉がある。フランは私の手を離すと、扉やそのノブに触れた。そして、思案する表情になった。


「魔法の鍵がかかっていますね。……皆様、少し離れてください」


 フランの言葉を聞いて、私たちは少し距離を取る。それを確認したフランは足を軽く上げ……


「はっ!」


 扉に華麗な蹴りを入れた。扉は悲鳴のような音を立て、無惨にひしゃげながら内側へと倒れ込む。だからフラン、どうしてそんなに力持ちなの!?


「……どうして、破壊を」


 ハミルトン様が呆然とした声を上げる。そんな彼に、フランはにこりと微笑んだ。


「魔法の鍵を四苦八苦しながら開けるのも、面倒でしたし。閉じると再び鍵がかかる魔法もかけられていたので、開けっ放しにした方が都合がいいと思いました」


 フランの対処は合理的なんだろうけれど、なんとも大胆だ。そんなちょっと雑なところも好きなんだけど!


「少し、先に見てきます」


 フランはそう言うとカンテラで照らしながら、止まる間もなく部屋へと入っていった。


「さすが、マーガレット嬢の側仕えだな」


 ハミルトン様が、壊れて転がった扉を眺めながらしみじみと言う。


「それって雑な令嬢には、雑な従者って意味ですか?」


 私が眉間に皺を寄せながら言うと、ハミルトン様はぷっと吹き出した。


「違う、信じられないくらいに腕が立つって意味だ。魔法の鍵がかかった扉は、ふつうなら破壊することなんてできない。サーリヤがかけた術ならなおのことだ」


 そうか、フランはハミルトン様は関心するくらいにすごいのか。私は自分が褒められたわけでもないのに嬉しくなって、ふふんと胸を張った。


「フランは、騎士家の出身ですからね!」

「へぇ、どこの家なんだ?」

「ハドルストーン伯爵家ですよ、ハミルトン様」


 カンテラを持って側に来ていたホルトが、にこりと笑いながらフランの家名をハミルトン様に告げる。

 フランのおうちは辺境だし、王都の貴族は名前を知らないんじゃないかしら? 私も恥ずかしながら、フランがエインワース公爵家に来るまで知らなかったもの。


「ハドルストーン……」


 ハミルトン様が目が丸くなる。彼は顎に指を当てて少し考える仕草を見せた後に「そうか、眉唾ではないのか」と好奇心の滲む口調で小さくつぶやいた。……どうしたのかしら。


「危険は無さそうなので、皆様もどうぞ」


 部屋の中からフランの呼ぶ声がした。

 私の意識はハミルトン様から逸れ、ハミルトン様も思考を打ち切ったようだった。


「わぁ」


 私たちは感嘆の声を上げる。

 足を踏み入れた部屋は……謎の機械で満たされていた。そうとしか、言いようがなかったのだ。

 大小様々な形の鉄パイプが部屋中を這い、それは部屋の中央にある卵型の容器に連結されていた。容器の中は濁った液体が浸しているように見える。これは……なにかの魔道具なんだろうか。


「これのパイプはすべて、上質なミスリル銀ね。これだけで一財産になるわねぇ」


 キャロライナがぽつりと言った。ミスリル銀は高価な剣や甲冑などに使われる稀少な鉱物だ。鉄よりも軽く、鉄よりも丈夫で、剣にすると切れ味も良い。それがこんなにふんだんにあるなんて……でも、持って帰るのは難しそう。


「下の弟妹の学費……生活費……」


 アベル様はパイプを見ながらぶつぶつとつぶやいている。なんとも切実なつぶやきだ。


「何本持って帰れますかね」


 レインはパイプを片手で撫でながら、もう片手で握り拳を固めている。ねぇ、待って。貴女ヒロインよね!? どうして素手でパイプをぶち破る気満々なの!


「レイン嬢。……膨大な魔力が内側で流れている、危険だから止めたまえ」


 パイプに手を当てながら、ハミルトン様が制止の声を発した。

 その表情はどんどん輝きを増していく。知的好奇心が溢れて止まらない――そんな生き生きとした表情だ。


「これが魔王の遺産なのか? それとも……サーリヤの未発見の研究か?」


 ハミルトン様は感動の声を上げながら卵型の容器に近づく。私もそれについて行き、フランとホルトも後ろに付き従う。


「これは、触れても大丈夫なのか?」


 フランが眉間に皺を寄せながら怪訝そうに容器を見る。容器は縦二メートル、横一メートルといった大きさだ。近くで見ると結構大きいな。


「……大丈夫なんじゃないですかね。俺が先に触れてみますね」


 ホルトはにこりと笑うと、容器に手を伸ばす。その動きをフランは……止めなかった。

 こういう時にはいの一番に止めそうなのに。それを少し不思議に思う。


『……汝の次の主は、マーガレット・エインワースだ。彼女への忠誠を示せ』


 ホルトは卵に触れると――聞いたこともない言語でなにかをつぶやいた。

 そんなホルトを見てフランが薄く目を開き、ハミルトン様は驚いたようにホルトに視線を向ける。


「今のは古代魔法言語か? 君は、なにを言ったんだ」

「なんのことですか?」


 ホルトはきょとんとした無垢そのものの表情でハミルトン様に返したけれど、いや、なにか言ったよね、確実に!


 その時――卵がまばゆい光を発した。

なにかが卵から出てくるようです(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大好きな設定で何度も読み返してしまいました! これからの更新も楽しみにしております! 陰ながら応援しております!
[一言] ジミ顔だからこその良さ!! 初感想ですみません(;´∀`) 実は私もイケメン顔よりも、ジミ顔で優しい感じが好きなので、このお話を読んだ時にコレは…!? と感動(笑) それぞれイケメンの定義は…
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