表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/98

令嬢はまたお手軽な冒険に出る8

 フランとしっかり手を繋いだままで私は遺跡を歩いた。この幸せな時間が終わらなければいいのにな、なんて少女漫画のようなことを考えていたのだけれど……


「皆様、ここです!」


 アベル様の溌剌とした声が幸せな時間の終了を告げた。

 フランはその声を聞くと案の定、すぐに手を離してしまう。

 もうちょっと繋いでいて欲しいなぁ、なんて思いながらねだるように彼を見ると。その片手は手刀の形になっており、フランはいい笑顔を浮かべていた。……うう、歩く時以外は繋がないってことですね。わかりやすい意思表示ありがとうございます。


 アベル様が指し示した扉は、なんの変哲も無い木の扉だった。


「踏破され尽くした遺跡ですが……。万が一罠があってもいけませんので、私が開けますね」

「大丈夫なのか?」


 フランが前に進み出るとハミルトン様が心配そうに声をかける。そんなハミルトン様にフランはふっと優しい笑みを返した。そ、その笑顔! 私にも頂きたいんですけど!


「お気遣いありがとうございます。ですが私は従者ですので、皆様の盾になるのが仕事です」

「私も一緒に開ける! 死なばもろともよ!」


 その言葉を聞いて私は思わず叫んだ。フランだけ罠にかけるわけにはいかない!


「バカが。貴女が一番傷ついてはならないお人でしょうに。未来の王太子妃としての自覚を持て、このバカが」


 ……バカって二回も言った。

 フランは腕にすがりつこうとした私の頭に軽く手刀を落としてから、レインの方へと放り投げる。レインはそれを上手く受け止めて私に抱きつくと、頬をぐりぐりと押し付けてきた。


「ふふふ、お姉様。罠で腹黒糸目がいなくなればお姉様は私のもの……」

「レイン、物騒なことを言わないで!」

「……開けますね」


 大きなため息と共に、扉が開かれる気配がした。

 目を向けると……フランの向こう側には真っ白な部屋が広がっていた。白く継ぎ目の無い天井、同じく白く継ぎ目の無い床……。採光のための窓も備え付けの灯りも無いのに部屋は外のように明るく、家具の類はまったくない。

 多くの冒険者が踏み入ったはずなのに、この部屋はなぜか一切汚れていなかった。


「これは、何のための部屋なんでしょうね」


 アベル様が部屋を覗き込んで不思議そうな顔をする。その背中に張り付くようにしてキャロライナも部屋を覗き込んでいた。


「病院や実験室、みたい」


 私は思わずつぶやきを漏らした。こちらでの実験は普通の部屋に本や器具を入れて白衣も着ずに行うものだし、病院も同じくである。病院や実験室というイメージはあくまで私の前世由来の感覚だ。


「こんな白い病院や実験室なんて、見たこともないが……」


 ハミルトン様はそう言いながら部屋へと足を踏み入れた。

 私たちもハミルトン様に続いて部屋に入る。どう見回しても、白、白、白。

 このなにもない部屋に、魔王の財宝が隠されている……なんてことはあるんだろうか。

 その時、フランにホルトが歩み寄りなにかを耳打ちするのが見えた。耳打ちをされたフランは不機嫌そうに眉をひそめる。一体、なにを話してるんだろう。


「ひとまず、なにかないか探してみましょうか。隠し部屋があるかもしれませんし!」


 アベル様の一声を合図に、皆は部屋を各々探索し始めた。

 私も探すぞ! と意気込んだのだけれど。フランの様子が気になって、ついつい彼の様子を窺ってしまう。

 彼は空中に指を這わせてなにかを撫でるような動きをしている。あれは……魔力の動きを追ってるんだ。フランの指先に光の粒子が纏わりついて、薄くたなびくように空に線を描く。フランはその光の動きをしばらく追った後に、部屋の一角に座り込んだ。その手は床に触れ、なにかを探しているようだ。

 私はこっそりフランの背後に近づいた。私の気配に気づいたフランは不快そうな顔でこちらを見上げる。そしてシッシッと野良犬を追い払うような手の動きをした。


「フラン」

「邪魔です、お嬢様」

「フラン、フラン、フラン」

「邪魔だと言ってるでしょう」


 フランは床に視線を戻すとこちらを見ようともしなくなった。うう、でも貴方がなにをしてるか気になるじゃない。

 フランを観察すると、しゃがんでいるのでつむじがよく見える。さらに見つめていると、さらりと黒髪が前に流れて綺麗な白いうなじがその姿を現した。私は思わずゴクリと生唾を飲んでしまう。


「……お嬢様、視線が卑猥です」


 ――バレてる。

 でも仕方ないじゃない、フランの存在が尊いのがいけないの!


 フランは床のある一角に触れると魔力をそこに這わせる。フランの魔法のコントロールは繊細で巧みだ。私は思わず感嘆の息を漏らした。フランは意外となんでもできるんだよなぁ。そんな一面を見るたびに、惚れ直してしまうじゃない。


「魔法術式の鍵がかかっていますね。これは私では解除できそうにありませんし……」


 鍵? ということは、その床になにかがあるの!?

 フランは少し思案する様子を見せた後に……拳で、軽めに床を叩いた。

 軽い挙動に反する『バゴッ!』という大きな音がして、床に丸い穴が空く。

 その音を聞いて、皆もフランに注目した。


 というかフラン! 貴方そんなに馬鹿力だったの!?

 毎日貴方の手刀を受けてるのだけど、大丈夫なのかな! うう、気づかないうちに頭がへこんでそうだわ……


 フランは空いた穴に手を突っ込んでなにかを探る。

 すると――軋んだ音を立てながら、床の一部が跳ね上がった。

久しぶりの更新になりました。

本格的な探索開始でございます(ㆁωㆁ*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 軽めに、と書いてあるのに壊れるなんて… きっと、フランはいつもマーガレットの頭を叩く時物凄い手加減してるんだな(笑)いや、それともマーガレットが石頭なのか!? とにかく、力で解決は笑った(…
[良い点] >「フラン」 >「邪魔です、お嬢様」 >「フラン、フラン、フラン」 >「邪魔だと言ってるでしょう」 かわいいwww かまってちゃんw そしてどうにもならないときにとりあえず叩いてみるフ…
[一言] フランさん尊い…。 とりあえず、叩く前に意思表示してくれて優しい。 そしてここでハドルストーンの力の片鱗を、マガさんは知ったのですね。 マガさんが頭へこんでないかなって考えちゃうの、私も妙に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ