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令嬢はモブその2を獲得する3

 その後、私は先生の言った通り高熱を出した少年を付きっきりで看病した。

 汗をかいたら汗を拭き取り、解熱の薬湯を飲ませ、定期的に水分を口に含ませる。

 何度も額に手を当てて確認するけれど彼の熱はなかなか下がらない。

 この細い体だ、今まで満足にご飯も食べていなかったんじゃないかな。彼の回復力が少し心配になってしまう。

 それにしてもこの子、本当に素敵なモブフェイスだな。ゲームの中には出てきてたっけ?

 銀髪に褐色という下手をすればヒーロー側の配色なのに、地味可愛くまとまった顔立ちがモブ感を醸し出していて……なんて看病をしている時に不謹慎ね。


「おねーさまぁ。大丈夫ですか?」


 珍しくそっと扉を開けてレインが可愛い顔を出した。


「私は大丈夫なのだけど、この子の熱がね……」


 そう言いながら少年の額を濡れた布で拭う。私が水属性の魔法が使えれば、お水をもっと冷たくしたりできるのになぁ。

 この世界では皆が魔法を使えるのだけど、得意属性一種類とおまけでもう一種類が使えたら御の字……というのが常人である。

 私が使えるのは火属性……紅玉の瞳に、真紅の髪のイメージまんまよね。火属性が得意属性の場合は、相克する水属性を使えるということは通常あり得ない。

 通常、というのは稀に才能溢れる人が相克する属性を使いこなすことがあるからだ。


「お姉様、レインにお任せください!」


 そう言ってレインはふふん、と胸を元気に反らす。可愛いなぁ。ゲーム中の儚げなヒロインも可愛かったけれど、元気なヒロインもこれはこれでものすごく可愛い。

 私もなんだかんだで、シスコンなのだ。


「『光の乙女』の力でちょちょいー……は難しいですけど、回復力を高めるくらいはできるので」


 レインはベッドに近づくと少年の額に手を翳した。そしてその手からは淡い燐光が発せられる。

 ……これが、この世で使えるのはレイン一人だという光魔法。私も実際この目で見るのは初めてだけど、とても綺麗なものなのね……。

 だけどレインはしばらくして眉を顰める。


「あ、この人には効かないかも……」


 そして小さくそう呟いた。


「効かない? どうして……」

「この人多分、得意属性が『闇』なんです。体の中で光魔法の効果を殺してるみたい」


 光のようにこの世にただ一人、ではないにしても闇魔法も使える人が少ない珍しい属性だ。こんな珍しい属性持ちが我が家に二人揃うなんてなかなか稀有な経験ね。


「じゃあ、この子自身の回復力で頑張ってもらうしかないのね……」


 私はそっと少年の手を取って優しく握りしめた。その手は熱を持ち、信じられないくらいに熱い。


「……ずるいなぁ。お姉様に手を握ってもらえるなんて。私も熱でも出そうかなぁ」


 レインがなんだか不穏なことを言っている。止めて、普通に心配になってしまうから!


「レインがお熱を出したら心配してしまうから、ダメ。手なんていくらでも握ってあげるから」

「本当? 嬉しい、お姉様!」


 そう言うとレインは、ぱーっと花が咲くように微笑んだ。うっわぁ、可愛い! ヒロイン様ー!! って拝みたくなっちゃうわ。

 いいなぁ、私もレインみたいな清楚系だったらフランが好きになってくれたのかな。いえ、セクシー系でも諦めませんけどね!

 その後レインは私と一緒に甲斐甲斐しく少年の世話を焼いて、一緒にメイドが持ってきてくれたご飯を食べ、夜になったら少し眠そうにしながら去っていった。

 自分のお勉強も大変だろうにわざわざ来てくれたのよね。……義妹は優しいし可愛い。

 しばらくしてレインと入れ替わるようにフランも部屋を訪ねてくれた。


「……お嬢様、無理はしていませんか?」


 フランがココアを手渡しながら心配そうな声音で言う。彼が心配してくれるなんて嬉しいなぁ。どうしよう、顔がにやけてしまう。


「フランが来てくれたから、元気になったわ!」


 実は少しだけ疲れていたけど、フランの顔を見たらすぐに元気が湧いた。恋の力って本当にすごい。

 受け取ったココアを一口飲むとその温かさと甘さで、どこか緊張していた気持ちが緩んだ気がする。気づかないうちに気を張ってたんだなぁ……。


「彼の具合はどうですか?」

「少しずつ熱は下がってきているわ。だから今夜はこのまま、ここで様子を見るつもり」

「……疲れたらちゃんと寝るんですよ。そこの長椅子で眠れるように準備しますので」


 そう言ってフランは別の部屋から上掛けやクッションを持ってくると、部屋にある長椅子を眠れるように整えてくれた。

 部屋に戻れと言わないのは私が一度言い出したらきかないことを、よく知っているからだろう。

 ……それにしてもフランが整えてくれた寝床で寝るなんて、結婚したと言っても過言ではないわね。


「……またロクでもないことを考えているでしょう」

「フランはなんでもお見通しね? それも愛の力ってヤツかしら」

「おやすみなさいませ、お嬢様」


 ……ああ、スルーされてしまった。これが噂の愛情の裏返しか。愛が深すぎるわ、フラン。

 部屋から出て行くフランを見送ってベッドへと向き直る。少年の額に手を当てると明らかに熱は下がっていて私はほっとした。


「元気になってね」


 そう囁いて少し固めの銀髪を撫でる。そうしているうちに、私の意識はとろりと落ちていった。


 ――さらさらと、髪を撫でられている気配がする。

 フランかな、フランだったらいいな。そう思うとくふふ、と笑みが漏れてしまう。


 ゆっくりと目を開けるとそこに見えたのは褐色の肌と綺麗な緑色の瞳。そして可愛らしい、だけど地味なお顔。

 あの子が、私の頭を撫でていたんだ。私、ベッドにうつ伏せで寝てしまっていたのね。

 彼は私が起きたことに気づき、頭を撫でていた手をびくりと引っ込めた。


「……おはよう、もう大丈夫?」


 にこりと笑ってそう問いかけると、彼は顔を赤くしながら何度も頷いた。

モブ2が目を覚ましました\( 'ω')/

モブ2は栗鼠系のお顔の地味可愛いモブです。

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