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令嬢はまたお手軽な冒険に出る3

久しぶりのあの人なのです。

「マーガレット嬢、そんな奇妙な格好でどこに行くのだ?」


 魔王の財宝探し当日。

 馬車の繋ぎ場でフランとホルトと一緒に皆を待っていると、ハミルトン様に出くわした。

 今の私は先日山に登ったような、簡素なドレスの下にトラウザーズを穿いて、丈夫な手袋を着け、ナップザックを背負っているという……令嬢としてはかなり奇抜な格好である。

 それをマントで一応隠してはいるものの、背中が膨らんだ奇妙なシルエットや、令嬢らしからぬ分厚い底の革靴は隠しようがない。

 ハミルトン様はオレンジ色の瞳を眇めながら怪訝そうに私の姿を眺めた後に、首を傾げた。


「お嬢様がサーリヤの遺跡を見たいと言うので。お友達とお出かけするのですよ」


 フランが一歩前に出て、ハミルトン様に説明をする。うん、嘘ではない。本当の目的は告げていないけどね!


 クラスメイトとしてしばらく一緒に過ごして、ハミルトン様はたまによくわからないことを言うけれど警戒すべき人ではない……という結論に私は至っている。

 フランやレインも同意見のようで、彼に対しては当たりが柔らかい。

 ……というかアルバート様や王子に対して、皆の当たりが強すぎるのかな。最近フランはアルバート様に対しては、そうでもないみたいだけど。

 ハミルトン様とは、時々粗忽なことをやって叱られつつも、私も普通に交流している。もはやクラスのお友達と言ってもいいわね。


「サーリヤの遺跡! そんなところに行くのか!」


 ハミルトン様の瞳がキラキラと光る。


「私も着いて行ってもいいだろうか。前々から興味はあったんだが、行く機会に恵まれなくてね」


 そしてすごく、食いつかれてしまった。

 そういえばこの人『知的枠』だったなぁ。興味津々という様子でこちらに詰め寄る彼を見て、私は少し焦ってしまう。


「えー。ハミルトン様も来たいのですか?」

「『えー』とはなんだ!」


 私があからさまに不服そうな声を出すと、ハミルトン様は柳眉を逆立てた。

 彼に怒られるのは日常茶飯事なので、怖くは全然ないんだけどね。

 ……私なんでそんなに怒られてるのかな。いや、粗忽だからか。


「君はそんなに私と出かけるのが嫌なのか? 一応、その。君とは、と、友だと私は思っていたんだが……」


 ハミルトン様はしばらく私と睨み合った後に、視線を逸らすとしょんぼりと肩を落とした。

 わ、私だってハミルトン様はお友達だと思っているけど!


「……残念だ」

「うっ……」


 これは本気で落ち込んでいるなぁ。こんな美形の憂いを帯びたしょんぼり顔は、クラスメイトの令嬢たちが見たら失神ものだろう。

 だけどなぁ。同行させると『魔王の隠し財宝』を、私が探しているというのがバレてしまう。万が一見つかった時には、内々で処理をしてしまいたいのだ。変な騒ぎになって、所有権がどうのとかいう話になるのも嫌だし。そんなことになれば、最悪あの腹黒王子に没収されてしまいかねない。


 ……だけどこの落ち込みっぷりは、少し気の毒だ……


「ハミルトン様は、お口は固いですか?」


 私はつい、ハミルトン様に問いかけてしまった。するとフランがいらぬことをという目でこちらを見る。だ、だってあまりに落ち込んでるから!


「……! 遺跡になにかあるのか!」


 落ち込んでいたのはどこへやら。ハミルトン様の眼鏡が好奇心でキラリときらめく。この人は知識に関することには、こんなに顔を輝かせる人なんだなぁ。ゲームではそうだと知っていても、実際に見るとなかなかに感慨深い。


「流言飛語の類で確証はございません。とはいえ守秘をお約束してくださらないと、これ以上は話せませんし同行も許可が難しいです」


 フランが肩を竦めながら仕方なしといった調子で言った。


「ふむ。それは国を害するものではないのだな? そうなのであれば見逃せない」


 ハミルトン様はそう言いながら眼鏡のフレームを綺麗な指で押し上げる。


「国を害するなど。そんな危険なものではありません」


 私はそう言ってにこりと微笑んでみせた。

 国を害するようなものじゃない。たぶん、おそらく。きっと。ただのお宝のはずだ。

 それを見つけて私の婚約破棄のためのアレコレをするための軍資金にしたい、それだけなの!

 ……王家とエインワース公爵家の婚約破棄が国に害だと言われてしまえば、ぐうの音も出ないのでこれは黙っておこう。


「であれば他言はしない。ヒューズ公爵家の嫡男として誓おう。それで、なにがあるんだ?」


 ハミルトン様は少し悩んだ様子をみせたけれど好奇心には勝てなかったようで、キラキラとした目を私に向けた。


「魔王の隠し財宝があるとの噂がありまして、それを探しに行くのです」

「それは興味深い! サーリヤの研究成果でないのが残念だが、魔王の財にも興味があるな。マーガレット嬢はそれをどうするつもりなんだ?」

「……万が一見つかったら、売ってお小遣いにしようかと」


 私の言葉を聞いてハミルトン様はぽかん、とした顔をする。そしてなぜか同情するようにポン、と肩を叩かれた。


「エインワース公爵家はそんな噂にすがるほど貧しいのか? ……なんだ、その、頑張りたまえ。宝のことやエインワース公爵家の内証が苦しいことは、きちんと内緒にしておく」


 違う! 違うんだけど!


 ……でも結果的には都合のいい誤解をしてくれたから、まぁ。いいのかな……?

 我が家的にはとっても不名誉だけど!

ツンデレ眼鏡が、仲間に加わった!

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