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令嬢は次の功績へと進みたい

「くっ! あの腹黒王子またサイン一個で済ませて……!」


 私は寝台に寝転がりスタンプカードと睨み合っていた。

 筆頭公爵家のご令嬢二人が孤児院で一カ月以上流行っていた病を一日で快癒させた。その奇跡のような美談は王都を駆け巡り、新聞でも大きく取り上げられた。

 世間で私とレインは女神のような扱いを受けているらしい。……とても面映ゆいわね。


 ――世間的にはかなり大きなニュースになったはずなのだけれど。


『だってレイン嬢も一緒だったんでしょう? 惜しいなぁ、一人でやってたらサインを十個あげたんだけどな。でも二人だったんだし、仕方ないよね?』


 と言ってヒーニアス王子は素知らぬ顔でサインを一つだけ寄越したのだ。

 レインと功績を分け合ったことに関してはまったく後悔していない。

 子供たちを助けたことに関しても、喜び以外の感情はない。快復を祝いに行ったら可愛い笑顔を浮かべて『ありがとう』と皆で言ってくれて、本当に天使かと思った。あまりに可愛すぎて一人一人抱きしめて回ったくらいだ。

 レインも笑顔で子供たちを抱きしめて回っていたけれど『こっちのお姉ちゃん、平たい』と男の子に言われブチ切れていた。レイン、大人げない。


 とにかく王子は許せない……!


 婚約破棄の直談判までサインの残りは九十八個。

 現在は六の月だ。そして余談であるが私の十六歳になる誕生月である。

 フランには毎年スルーされるけれど。毎年スルーされるけれど! フランに祝われない誕生日なんてないも同然なので、私は自分でもたまに忘れてしまう。

 とにかく今年の半分が終わろうとしているのだ、恐ろしいことに。

 あと二年半でスタンプを九十八個を集めなければならないの……?

 もっと大きな功績を立てないと! そして一気にスタンプカードを埋めないと。


「フラン! 次の功績を……」


 ……といつもの癖でフランを呼んでみたけれど、彼はこの部屋にはいない。


「……そっか。今日はアルバート様のところに」


 フランはなぜか週に一、二回程度アルバート様のところに出かけるようになってしまった。

 なんなの。私を仲間外れにして一体なにを育んでいるの?


『人の矜持に関わることですので』


 なんて言ってフランは教えてくれないし! まさか恋や愛を育んでいるんじゃないでしょうね! アルバート様のところへ出かけた後、フランはなぜか薄く汗をかいて戻ってくるし。そんなフランがすごい色気を発しすぎていて、私は四回ほど心肺停止した。

 ……フランが手刀で心肺蘇生をしてくれたから事なきを得たけれど。肋骨が折れるかと思ったわ。


「ずるい、私だってフランと汗だくになるようなことをしたい!!」


 癇癪を起しながら寝台から起き上がる私を、夕刊を持ってきてくれたらしいホルトが気の毒な人を見る目で見つめていた。

 ……止めてホルト。そんな目で見ないで。

 近頃私は朝夕の二回、新聞をチェックしている。なにか私でも解決できる事件がないかを確認するためだ。

 自分の将来のために人の不幸を探すような作業には嫌気が差すけれど、こればかりは仕方ない。


「ホルト、夕刊を持ってきてくれたのね。ありがとう」

「いいえ、マーガレット様」


 ホルトから夕刊を受け取ってそれを捲る。一面はヒーニアス王子がどこそこを訪問したとかそんな記事だ。……正直どうでもいい。


「私にできること……」


 ぶつぶつ言いながら新聞を見ていると、ある記事が目についた。


『王都の治安の悪い地区では浮浪児が増えており、餓死者も多い』


 という扱いの小さな記事。私はその記事を見ながら思案した。

 一見、華やかなりしな王都だけれど当然貧富の差はある。大通りを一歩外れたらスラムまがいの地区だってある……らしい。私は実際に見たことはない。

 炊き出しなんて小手先のことじゃ、きっと焼石に水だろう。しかし私財を使って孤児院を建て浮浪児たちを収容しても、私の現在の私財は貯めたお小遣い……『エインワース公爵家のもの』。少額の出費はともかく、ここまで大きい出費をお小遣いから賄ってしまうと王子は功績として認めてくれないだろう。


「……個人での財産が必要ね」


 まだまだ残りが多いリンゲル草の丸薬を売ればかなりの財産にはなるのだけれど。

 あれは現状、私が唯一持っている切り札なので売るわけにはいかない。


「個人の財産ですか、マーガレット様」


 ホルトがニコニコしながら話しかけてくる。なんだかとても機嫌がよさそうだ。


「ホルト、なにか心当たりが?」

「ええ、少し。先日行ったゾーリン山の近くに遺跡があることはご存じですか?」

「遺跡……?」


 私は首を傾げる。するとホルトは笑顔で話しを続けた。


「ええ、一見荒らし尽くされている遺跡ですけれど。魔王の隠し財産のようなものがあると、風の噂で」


 ゾーリン山には魔王がいた。ならばその周辺に魔王の隠し財産があってもおかしくはないのか。だけど……。


「風の噂……」

「一昨日、街に出た時に立ち話で聞いたようなものなので。信憑性は薄いですけど」


 ホルトは申し訳なさそうに眉を下げる。けれど私は『風の噂』にもすがりたい立場なのだ。情報はとてもありがたい。しかもまた近場での話である。行ってなにもなくても大きな損はない。

 王都近くでこもってくれた魔王に感謝ね。


「ありがとう、ホルト。フランが帰ってきたら遺跡に行ってもいいか相談してみるわ。なにもなくてもまた遠足だと思えばいいのだものね!」


 またお弁当を作ってレインとキャロも誘ってみようかな。知識欲が豊かなアベル様も話に乗ってくるかもしれない。


「でもホルト。大丈夫なの? あの山には辛いなにかが……あるようだったけれど」

「大丈夫です、マーガレット様」


 私の言葉にホルトはにこりと笑って応えた。無理をしていないといいのだけれど。あの山から帰ってから、ホルトはたまに甘えっ子になる。今は思い出せないあの山での嫌な記憶。それに当てられているのかもしれない。


 戻ってきたフランに遺跡の話をすると、ホルトの方を横目で見ながら『マッチポンプか……』呟き舌打ちをした。


 ……どういうこと?

間違いなく魔王さんのマッチポンプなのです。


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