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令嬢はモブその2を獲得する1

少しだけ暴力表現、ご注意ください。

「さて、用事も済んだし帰りましょうか」

「やだ!!」


 ミッティ商会の建物を出たフランがそんなことを言いだしたので、私は脊髄反射で拒否をした。

 ようやくフランとデートに漕ぎ着けたのに、どうして即座に帰らなきゃならないのよ!


「……嫌なのですか? 私は今日の仕事を屋敷に残したままここにいるのですが」


 フランの細い目がすっと開きどんよりと濁った青が現れる。彼がご機嫌斜めな時の光が消えた青い瞳はとても恐ろしい。

 けれど、女には譲れない時があるのだ! そして戦わねばならぬ時も!

 私は自身の燃える紅い瞳でフランを睨み返した。


「嫌よ! フランともう少しだけ、一緒にいたい!」


 理由がなんだか駄々をこねる子供みたいねって思うけど。正直な気持ちだからしょうがない。


「屋敷でもおはようからおやすみまで、ほぼ一緒にいるでしょうに」

「屋敷とデートは違うの!」


 フランは涙目になりながら駄々をこねる私に手をすっと差し出し……容赦ないデコピンを額に炸裂させた。


「あだっ! フラン様のデコピンありがとうございます!!」

「礼は言わんでよろしい」


 フランがしてくれることならなんでもありがたいから、お礼をつい言ってしまうのよ。

 私は赤くなった額を撫でさすりながら彼を涙目で睨んだ。


「……せっかく、素敵なものを買ってもらったのに。もう少しこれを着けて歩きたい……」


 ぽてりとしたピンク色の唇を尖らせながら小さく呟いて、首から下がった綺麗なネックレスを私はぎゅっと握りしめた。

 そんな私にフランは大きくため息をついて、今度はデコピンではなく普通に手を差し出した。


「あと一件だけお嬢様の希望するところに行きましょう。それが終わったら、帰りますからね?」

「フラン! 大好き!」


 彼の言葉に私は満面の笑顔になる。

 毒舌だし不愛想だしなにを考えているのかいまいちわからないことも多いけど。

 だけどフランは結局優しくて素敵なのだ。

 私はハンカチで手のひらをしっかり拭うと彼の手をまた握った。


 今日行きたかった場所は、実はもう一つある。

 ……カップルに人気のカフェに、行きたいわけですよ。

 そうしたらほら、雰囲気に飲まれてこっちもカップルっぽい雰囲気になるかもしれないじゃないですか。フランにそんな希望を持っちゃいけないのはわかってるんですけどね。


 ――だけど一縷の希望に望みをかけずして、なにを恋と言うのだ。


「あのね、人気のカフェにね……」


 そう言いながら路地裏の真横を通った時。

 小さな悲鳴のような声が聞こえた。

 私はフランの手を離しそちらを急いで覗き込む。誰かが襲われていたら騎士団を呼ぶくらいのことはできるはずだ。

 火の魔法も一応は使えるし……。


「お嬢様!」


 そんな私にフランは抗議の声を上げた。

 路地裏では一人の少年が……大きな体の男性に激しい暴行を加えられていた。

 酷い、あんなに小さな体なのに。あんなの騎士団が来るまで待てないわ。


「フラン、お願い。助けられるなら助けてあげて! それが無理なら私が火の魔法でババーン! と助けるわ!」

「お嬢様は魔法の制御が下手でしょうに。無駄に魔力量だけは多いんですから、あの子ごと黒焦げですよ。それにしても……あれは酷い」


 そう言ってため息をつきながらもフランは路地裏へと向かってくれる。


「そこのお兄さん」

「ぁあ?」


 フランはそう言って男に一声かけると……。

 男が凄む間も与えず右の頬に拳を一発、腹に蹴りを一発華麗に入れた。

 少年に暴行を加えていた男は悲鳴を上げる暇もなくその場に崩れ落ちる。

 そんな男をフランはテキパキと容赦なく路地裏のゴミ箱に押し込んだ。

 ひゃあ……! フラン、かっこいい……!

 っと、フランに見惚れてる場合じゃないわね。


「大丈夫!?」

「……う……」


 暴行を加えられていた少年に駆け寄り抱き起こすと彼の意識は朦朧としていた。

 体は汚れにまみれボロボロで、男に殴られたのであろう顔には酷い痣……。

 服にところどころ滲んでいるのは血ね。

 浅黒い肌に、銀色の髪……そしてナイスモブフェイス。くっ、なんてことなの。

 いや、彼に見入ってる場合じゃないんだけど。


「大丈夫? 家族は?」

「……家族、は。誰も」


 彼は唸るように言う。そんな……孤児なの、かしら。


「俺には、誰も……」


 うわ言のように言う彼の緑色の瞳から涙が零れ落ち、褐色の頬を伝った。

 ああ……。


「フラン、彼を屋敷に連れていくわ。うちの侍医に見せましょう?」


 お金を渡して町医者に任せてしまうということも考えたけど……。

 うちの侍医の方が確実に腕が良いし、近くで回復を見守ることができるから安心だ。


「お嬢様……」


 フランの口から非難を含んだ声が漏れた。


「私が全ての責任を取るから、お願い」


 彼をしっかりと見つめ懇願する。

 視線が絡み合い……先に逸らしたのはフランだった。


「まったく、こういう時のお嬢様は昔から言う事を聞かないのですから。拾ったら最後まで責任を持つ、それが条件です」

「大丈夫! 持つわ!」

「いつも返事だけはいいんですから……。前に子犬を拾った時も結局面倒は私がみてお嬢様は可愛がるばかりで……」


 くっ……昔のことをネチネチと……!


「まぁ、いいですけど」


 呆れたような顔をしつつもフランは少年を軽々と抱え上げた。

 フランって意外に力持ちよね。

 私たちはそのまま御者さんとの待ち合わせ場所に向かい、傷ついた少年と共に屋敷への帰途についたのだった。

お嬢様はモブフェイスその2を、ゲットした!

そんなこんなで新キャラ登場でございます。

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