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竜殺しと近衛騎士1(アルバート視点)

仕事が立て込んでおりまして更新が遅れ申し訳ありません。

2話くらいアルバート視点が続きます。

 運命と出会った。驚くほどに美しく驚くほどに無垢なあの人に。彼女は王子の婚約者で決して恋などしてはいけない人だ。けれどその美しい人が許すなら連れて一緒に逃げたいと思うくらいに、俺の気持ちは燃え上がっていった。


 ……しかし彼女はフラン・ハドルストーンという田舎騎士に恋をしていた。


「マーガレット様」


 今日も俺はマーガレット様の授業が終わる時間を見計らい彼女の教室に会いに行った。手には薔薇の花束……我ながら気障だと思うのだが少しでも彼女の気を引きたいのだ。

 授業が終わったばかりだからか、妹君は側にいるがハドルストーンの姿は今はない。絶好の機会だと俺は嬉しくなった。


「……アルバート様?」


 マーガレット様は俺に気づくと少し困ったような表情をして首を傾げる。その様子に心が小さな痛みを訴えた。ヒーニアス王子の婚約者であるにも関わらず、従者に叶わぬ想いを寄せるマーガレット様。そしてそのマーガレット様に想いを寄せる俺。なんて不毛な感情の連鎖なのだろう。

 フラン・ハドルストーンがマーガレット様にどのような想いを抱いているのかは、彼と親しくない俺にはよくわからない。けれど彼が『彼女を連れて逃げる』というような強い気持ちを持っていないことは、普段のマーガレット様への素っ気ない態度で察せられた。

 それならば……俺にも付け入る隙があるのではないか。懸命に気持ちを伝えれば彼女の心も俺に向いてくれるかもしれない。

 そんな希望に縋ってマーガレット様に元へと行く……そんな日々が続いている。


「綺麗な薔薇が咲いていたので、貴女にと」

「そんなわざわざ……!」


 彼女の髪の色のような真っ赤な薔薇を手渡すとマーガレット様は困ったような表情を深める。けれど薔薇の香りを吸い込むと、淡い微笑みを浮かべてくれた。それだけで俺の気持ちは舞い上がりそうになる。


「いい香り。どこの薔薇なのですか?」

「ホーン家の屋敷に庭園がありまして」

「素敵ですね。ホーン家には薔薇園があるのね。……そういえばゲームのスチルでもあったなぁ」


 後半の呟きの意味はわからなかったがマーガレット様は喜んでくれたようだ。俺は嬉しくなり思わず笑みを漏らしてしまった。


「貴方も飽きないわねぇ」


 呆れたような声でそう言うのはレイン様だ。彼女は美しく繊細な見た目に反して……その、かなり気が強い。マーガレット様のように儚げな女性を好む自分としては少し苦手な部類なのだが。いつもマーガレット様の心配ばかりしていて悪い方ではないのだと思う。

 俺のような得体の知れない男がこんな高貴な方に近づくのだ。妹君には警戒はされて当然だ。


「申し訳ありませんレイン様。お美しいマーガレット様に、会いたい気持ちをつい抑えられず」

「ふふん! その気持ちならわかるわ! 私も毎日お姉様にお会いするのが楽しみだもの!」


 レイン様はその小さな胸を張って得意げに言う。彼女は本当にマーガレット様がお好きなのだ。


「二人とも。お世辞を言ってもなにも出ないわよ?」


 華奢な首を傾げながらマーガレット様は恥ずかしそうに笑う。ああ、なんて可憐な表情なのだ。レイン様もご一緒でいいからこのままホーン家の庭にお誘いできないだろうか。もっと個人的な語らいを彼女としたい。

 そんな俺の思惑は今最も聞きたくない声によって破られた。


「お嬢様、今日も図書館に行くのでは?」


 フラン・ハドルストーン。あの男は音もなく忍び寄り、マーガレット様の頭をいつもの無表情のまま軽く小突いた。


「フラン!」


 俺が渡した薔薇が霞むような美しく明るい笑顔をマーガレット様が見せる。彼に恋していると……心の底から感じさせる無邪気な笑顔だ。なぜその笑顔は俺のものではないのだろうか。心にじわり、と広がる黒い気持ちを俺は少し頭を振って振り払った。

 彼女が持っていた薔薇は褐色の肌のもう一人の従僕へと手渡される。そしてマーガレット様は薔薇にも俺にも見向きもせずに、ハドルストーンを一心に見つめていた。


「そうね、図書館に行かないと。アルバート様、失礼しますね」


 そう言って彼女はふわりと笑う。それは美しいけれどあの従僕に向けられるものとはまったく違う笑顔だった。


「では、失礼いたします」


 ハドルストーンは慇懃な態度で俺に一礼するともう一人の従僕とともに、マーガレット様とレイン様を連れて教室を出て行った。


 ……どうすれば、マーガレット様に俺を意識してもらえるのだろう。


 騎士としての功を重ねれば少しは関心を持ってくれるのだろうか。そんなことを考えていた俺の元に、王都近くに出没した竜の討伐隊の第二陣を編成するとの報が入ったのは翌日のことだった。

 竜は多い時は百人規模の部隊を編成し討伐するような危険な生き物だ。しかし宝石と同価値として扱われる美しい鱗や、防具に使える強靭な皮、薬効があると言われる血肉……そのすべては莫大な財産となる。危険の代わりに富を与えてくれる、それが竜だ。竜の討伐は王都で大きなニュースとなるだろう。

 ――俺も討伐隊に参加しよう。本来ならば王子の近衛騎士の俺が参加をするのは筋違いなのだろうが、マーガレット様に関心を持っていただくきっかけが俺はどうしても欲しかった。

 竜、と聞くとどうしてもあの男……フラン・ハドルストーンの姿が脳裏に浮かんでしまう。

 辺境で竜を狩りながら生きているという噂の『竜殺し』の一族。田舎者を揶揄するためのあだ名だと思っている人々も多いが、ハドルストーン伯爵家が数多くの竜を倒しているのは事実らしい。

 ハドルストーン伯爵家は辺境を守るための大部隊を持っている。それを使って効率よく竜を討伐しているのだろうと俺は考えていた。

 しかし……先日ヒーニアス王子にフラン・ハドルストーンのことを訊ねると。


『ハドルストーンの者の力は異常だよ。フランは単騎で数体の竜を屠ったこともある』


 と、王子はさらりと言ったのだ。

 それが本当なら恐るべき力だ。百人の兵で仕留めるものを単騎で、しかも数体仕留めるなど人間の所業ではない。あまりに現実離れしすぎた話で俺はそれが信じられずにいた。


 ――しかし俺は……あの光景を目の当たりにしてしまったのだ。

ハドルストーン家に関してはアルバートのような認識の人々ばかりです。

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