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令嬢は図書館でモブその4と出会う2

 私は話しかけてきた男子生徒の顔をじっと見つめた。予想外の人物に声をかけられ、驚いてしまったのだ。

 ……近くで見ても本当に可愛いモブ男子ね。

 紫色の髪は遠目からは紫一色に見えたけれど上の方は少し色が淡くなっており、白から紫へのグラデーションのようになっている。長い前髪から僅かに覗く瞳は、髪と同じ紫色だ。


「そうなの、正直困っていたの」


 私はそう言って彼に微笑みかけた。

 彼の座っていた机に目を向ける。その机には恐らく30冊近い本が積まれていた。あれだけの本の量を読むほど勉強熱心な彼なのだ、私が知らないことをきっと色々知っているはず。

 悩んでいる私にわざわざ声をかけてくれたのだし、せっかくだから相談してみるのもいいかもしれない。


「ねぇ、私のお話を聞いてくれない? 私はマーガレット・エインワースよ」

「えっ……あの筆頭公爵家のご令嬢で王子の婚約者の……!? 気軽に声をかけて申し訳ありませんでしたぁああ!!」


 そう叫ぶと彼は図書館の毛足の長い絨毯の上で土下座した。ちょっと、そんなことしないでよ!? 他の生徒がいなくて本当によかった。


「だ、大丈夫だから! 私、ほら、怖くないから! 顔をあげて?!」

「そうですよ。お嬢様は適当でぞんざいに扱っても怒りませんから。お顔を上げてください」


 慌てて彼に面を上げさせようとする私を、フランも援護する。……私の悪口に聞こえるけどきっと気のせいだ。

 彼は土下座から正座に変わると、ぷるぷると震えながらこちらの様子を窺っている。子兎みたいで可愛いなぁ。ホルトも小動物っぽいけど、あちらはポメラニアンのようなもっと人に懐く動物のイメージがある。


「貴方、お名前は? 同じ一年生よね」


 彼の制服は私と同じく真新しい。なのでそう訊ねると彼はコクコクと頭を上下に振った。


「アベル・カーペンターです。木っ端男爵家の長男ですぅ……」


 アベル様は正座のまま、まだブルブルと震えている。


「フラン、彼を椅子に座らせて」

「……はい」


 フランは他の机から一人掛けの椅子を持ってくると、震えながらイヤイヤと首を横に振る彼を抱えて無理やり座らせた。


「あああ……僕なんて床で十分なんです。マーガレット様と同じ机につくなんて……! 無礼があって一族郎党処刑されたらと思うと……ううう」


 ――アベル様はどうやら、相当なマイナス思考らしい。

 ひとまず落ち着かせようと、私は彼の方へ移動し手をそっと握った。興奮している時のレインにこれをすると落ち着くのだ。


「ひぇえええ! お許しください!」


 ……しかしアベル様には逆効果だったようだ。

 彼は震え上がり、前髪から覗く瞳は明らかに泣く寸前という様子で潤んでいる。

 その様子に私も思わず涙目になってしまった。こんなに人に怖がられたのなんて生まれて初めてなのよ……! しかもこんなに可愛いモブ男子に。すごくショックだ。

 救いを求めてフランを見ると彼は無表情で……いや、微妙に口角が上がってる。面白がってるでしょう、フラン! そして助ける気は一切なさそうね。


「落ち着いて、落ち着いて、ねっ! 私の悩みを聞いてくれるのでしょう?」

「は……はいぃいい……」


 彼はぐすりと鼻を鳴らしながらも、ようやく落ち着いてくれたようだった。

 そして握られた手を見つめ、私の顔を見て、頬を真っ赤に染めた。


「あの、手を……」

「ごめんなさいね。妹にこうするといつも落ち着くものだから、つい」


 安心させるように微笑んでみせて、私は自分の長椅子へと戻る。


「あのね……ざっくりとした説明になってしまうのだけど」


 悪い方ではなさそうだけれど、知り合ったばかりの人に『王子と婚約破棄がしたいから、なにか手柄を立てなければならない』とはさすがに言いづらい。


「学園を卒業するまでの間に、私は自分の力で人がまだ成し得ていないことをやりたいの。けれどどの分野も、先駆者がもういらっしゃるわけじゃない。それで悩んでいて」

「公爵家のご令嬢が……人の成し得ていないことを、ですか」


 それを聞いてアベル様はぽかん、とした顔をした。……『それが王子との婚約破棄の条件なのよ』、なんて言ったら彼はどんなお顔になるのかしら。好奇心が疼くけれど私はそれを言うのを我慢した。

 ……フランが『いらないことは言うなよ』って目でこちらを睨んでますしね。


「……私の夢のために、必要なことなのよ」


 そう、フランと結婚するという夢のために、必要なことなの!

 フランとの結婚生活ってどんな感じなんだろうなぁ。ふ、夫婦なら一緒に寝台で寝たり、するわけよね!? そんなのずっと抱きしめて匂いを嗅いでしまうわ。フランが嗅ぎ放題だなんて、なんて素敵な生活なの!

 フランとの結婚生活を想像し、にんまりとしている私の様子をアベル様は観察しているようだった。そんな彼を見つめ返すと髪の毛の下の瞳が揺れたような気がした。


「……もしかしたら、お力になれるかもしれません」

「本当に!?」


 アベル様の呟きに私は明るい顔で彼を見る。だけど彼は少しバツが悪そうに顔を背けてしまった。


「だけど、その……。非常に言いづらいのですけど、条件を……付けてもよいでしょうか?」


 震える声で絞り出すように言った彼の言葉にフランが眉を顰め、なにかを口にしようとする。私はそれを片手上げてそっと止め、アベル様に頷くと先を促した。


「お力になります。だから、ぼ……僕を、買ってくれませんか? マーガレット様……」


 体をぶるぶると震わせながら……アベル様はとんでもないことを口にした。

モブからのお願いにマーガレットさんはどうするのか……(*´ω`*)

そんな感じで次回へ続きまする!

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