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令嬢はモブと街へ出る2

 馬車を街から離れたところに止め御者とフランが帰宅時間についての打ち合わせをしているのを、私は地面に腰を下ろしてぼんやりと眺めていた。

 風が吹いてフランの艶のあるサラサラとした黒髪が揺れる。その少し乱れた髪を直す手の形は整っていて私はそれに見入ってしまう。モブといっても乙女ゲームのモブだからか、フランの各パーツは均整が取れている。

 あの手でいつか彼から触ってもらえるといいなぁ。頬を優しく触って欲しい。頭も撫でて欲しいなぁ。

 ……私の願望のハードルが妙に低いのは普段塩対応をされているせいだと思う。

 いきなり抱きしめられたりしたらキャパオーバーで心停止してしまいそうだし。


「なにぼんやりしてるんですか。行きますよ」


 フランに声をかけられ私は慌てて立ち上がるとスカートのお尻を払った。

 注意して草むらの上には座ったけれど白のスカートだし土で汚れてないといいなぁ。


「いよいよデートね! フラン!」


 私の言葉にフランは心底嫌そうな顔をした。すごい、人って顔面だけでここまでの拒絶を表せるんだ。

 フランはいつも私に新しい発見をくれる。貴方は本当にすごい人ね、だから大好きよ。


「デートではありません……そうですね。一番近いのは犬の散歩です」


 フランは吐き捨てるようにそう言った。

 い……犬!?


「……わ……私フランの犬になっていいの?」


 フランの『愛玩動物』になれるなんてその響きだけでゾクゾクしてしまう。どうしよう、すごくテンションが上がってきた。

 責任をもって一生飼って欲しい。そう、飼い主にはペットの面倒を一生みるという重い責任が発生するのだ。


「……お嬢様、心底気持ち悪いです。貴女は私の横にたまたまいるだけの、ただの哀れで汚い野良犬です」

「ぁあん! 冷たい!」


 フランは身悶えしている私を置いてサクサクと道を進んでいく。普段歩き慣れない私はその速さについていくのに必死だ。

 お忍びスタイルなのでヒールがまったくないぺたんこ靴でよかったなぁ。じゃなかったら街に着くまでにたぶん靴擦れしていた。


「……」


 気がつくとフランの歩調が緩やかなものとなり、いつの間にか私の隣に並んでいた。

 彼はなんだかんだで優しいのだ。だからいつも冷たくされても嫌いになるなんてことは考えられない。

 フランの横顔を伺いみると気遣いなんてしてませんよ、とでも言いたげな無表情で。そんなところも好き! だなんて思ってしまう。

 嬉しくなってそっと手を繋ごうとしたらすごい勢いで叩き落とされた。容赦ない勢いだったのでめちゃくちゃ痛い。

 ……いつか振り向かせてやるから覚えてなさいよ!


 街に着くと門兵さんにフランが二言三言話しかけ、ちらりと門兵がこちらを見てから頷いた。そして取り立ててなにを言われるでもなく街の中へと通される。


「門兵さんとなにかお話してたの?」

「公爵家のご令嬢に不測の事態があったらいけませんからね。騎士隊に通達を出してこっそりと見回りを強化するようにお願いしたのですよ」

「そんな、大げさな……!」


 私が笑いながらそう言うとフランはじっとこちらを見つめた。彼の細い目が珍しく開かれ、青の瞳は真剣な輝きを放っている。


「貴女は、そういうお立場なのです。ご自覚くださいませマーガレット様」


 茶化すような響きは一切なく。フランは真剣な表情と声音でそう言った。

 彼のその様子に私は頬を引きつらせ、浮かんでいたへらりとした笑みを引っ込める。


「……わかったわ、フラン」

「それならいいのです」


 フランと並んで街への門を潜りながら私はため息をついた。

 ……筆頭公爵家のご令嬢。そんな立場欲しくなかったんだけどなぁ。もっと身分が低い貴族であればフランも気軽に結婚してくれたかもしれないのに。

 ……結婚……あれ? なにかが、引っかかる。

 ゲーム中のマーガレットは筆頭公爵家との結束を強めるため云々で、乙女ゲームのメインヒーローである王子の婚約者だったような……。


 ――王子の、婚約者?


 現在の私は王子の婚約者ではない。いつそうなるの?

 学園生活をしている時点ではすでに婚約者だったわよね。

 学園入学まであと一年。近いうちに打診があるってことか……全力でお断りしなきゃ。

 メインヒーローに興味は一切ない。王子がせめてモブフェイスならって思うけど残念ながらメインヒーロー様はお約束通りの超美形である。

 美形になんて用はない。私の心はモブofモブのフランのものなのだ。

 不敬罪で身分剥奪をされたりしたらフランに娶ってもらおう。うん、それがいい。


「――で、お嬢様はどこへ行きたいのですか?」

「アクセサリーのお店に行きたいわ。それでねフランに素敵なものを選んで欲しいの!」


 私の言葉にフランの細い目がさらに細められる。……糸みたいね、可愛い。


「どうして私が。自分で選んでくださいませ、お嬢様」

「私の誕生日が近いからよ! フランからプレゼントをもらった気分になりたいの! ちゃんとお金は自腹で出すから!! お願いします!!」


 私が涙目で叫ぶとフランは呆れたような顔をした後に、不承不承頷いてくれた。

 こちらを見る彼の視線になんだか哀れみが含まれていたのは見ないフリをするぞ!

王子の婚約者話を、お嬢様は蹴る気満々だ!

そんなメインヒーロー様の出番はまだまだ先でございますが(*´ω`*)

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