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令嬢は再び死に場所を目指す1

「お嬢様、午後はどうされますか?」


 アルバート様との謎のひと悶着があり。

 寮の部屋に戻り紅茶を飲みつつ一息ついているとフランがそう声をかけてきた。

 ホルトはレインのお部屋に行って彼女の身の回りの面倒をみてくれている。


 午後、かぁ……。


 ……昨日行けなかった『ゲーム中の私が死んだ』の最後の場所、学園にある高い塔。そこに私は行かなければならない。


「……昨日のお出かけの残りに、付き合ってくれる?」


 フランは付き合ってくれると言ってはいたけれど。気が変わったり……してないよね。


「お約束、しましたからね。付き合いますよ」


 彼の言葉を聞いて私は心の底からほっとした。

 ゲーム中とはいえ自分が死んだ場所なんて行って楽しいところではない。けれど禊として……死なないという覚悟を決めるためにやると決めたのだから、最後まできちんと完遂したい。

 ――それがフランと一緒なら……とても心強い。


「ありがとう、フラン……」


 安堵したらなんだか泣きそうになってしまって。お礼を言いながら潤んでしまう目で彼を見つめると、フランはなぜか気まずそうに目を逸らした。

 長椅子から立ち上がり、思いきり伸びをする。これが終わったら、きっと新たな気持ちで学園生活が送れるはずだ。

 気合いを入れつつ部屋を出る私の背後に、フランはいつも通り影のように付き従った。

 彼は私の行動に疑問を持っているだろう。けれどこうやってなにも訊かずについてきてくれる。

 ……やっぱりフランは、優しいのだ。


 目的地は校舎のさらに奥に見える白亜の塔だ。寮を出て校舎と向かい合うとすぐに目に入るそれは、十階建てのビルくらいの高さだろうか。

 ゲームをしている最中は疑問に思わなかったけれど……あれは一体なんのための施設なのだろう。


「あそこに、行くわ」


 そう言って足を踏み出した私に、フランはなにも言わなかった。


 ――塔までの道のりは思ったよりも遠かった。


 校舎を抜け塔までの道程を見た私は少しげんなりとしてしまう。

 校舎を越えたらすぐ側にあるように見えるのは塔が高く大きく高いから起きる目の錯覚で、校舎と塔の間には西の森ほどの広さでは無さそうだけれど、木々が鬱蒼と茂る森が間に挟まっていた。

 森の入り口に立ちげんなりとした顔になる私の横にフランが並んだ。

 そして……。


「……お嬢様。手を」


 昨日と同じように綺麗な形の手をこちらへ差し出した。


「……いいの?」

「昨日のように転んで怪我をされても困りますから」

「き……昨日のは犬のせいよ! 知ってるでしょう!?」


 フランは相変わらず憎まれ口ばかりだ。

 だけど口ではそう言いながらもこうやって……私に手を差し伸べてくれる。

 それがとても嬉しくて私は緩む表情筋に逆らえず非常にだらしのない笑顔で、彼の手に自分の手を重ねた。そんな私にフランは呆れた顔をし大きくため息をついた。


「相変わらずしまりのない顔ですね」

「……だって。二日も連続でフランと手を繋げるなんて初めてなのよ! これは奇跡よ! 嬉しくって仕方がないんだもの……」


 そう言いながら少し強い力で彼の手を握る。今日は手袋越しだから彼の体温は伝わってこないけれど。あまり贅沢は言っちゃいけないわよね。

 へらへらと笑いながらフランを見つめると、眉を顰められそっぽを向かれてしまった。

 ……けれど彼は……そっぽを向いたまま優しい力で私の手を握り返してくれた。


「――ッ……」


 ちゃんと握らないと歩きづらいものね、当然だ。

 けれど彼に手を握られているというその事実に、顔が真っ赤になり動悸が止まらなくなってしまう。

 そのままフランに手を引かれ私は森へと入った。

 彼は常に少し前を歩き、危ない段差があれば教えてくれたり、障害物を足で避けてくれたりする。そのおかげで私は快適に森を歩くことができた。


「……フラン、優しい」

「従者として当然のことをしているだけです」


 彼の口調と態度はあくまで素っ気ない。従者、かぁ。

 フランはいつになったら……私を一人の女の子として、見てくれるんだろう。


 ――フランが、好きだ。どうしようもないくらいに好きだ。


 私は死なない、なにか功績を立てて婚約も絶対に解消する。そして……。


「フラン、大好き。将来私と結婚してね」


 囁く私の言葉に彼は返事をせずに、歩行の邪魔になりそうな足元の石を強く遠くに蹴飛ばした。


 そうして歩いていると突然視界が広がった。……森を、抜けたのだ。

 目の前には大きな塔が聳えその荘厳さに私は言葉を失ってしまう。

 白い象牙のような質感の塔は天高く聳え、その表面には精緻な紋様が走っている。それはまるで神の住居かのような凛とした佇まいだ。

 正面には重い質感の大きな木の扉が見え、それは少しだけ内側に開いていた。


「では、行きましょうか」


 そう言うとフランは繋いでいた手を離してしまう。それが寂しくて彼の服の裾を思わず掴むと、細い目をさらに細めて困ったような顔をされてしまった。


「か……階段、歩くの辛いから。引っ張って欲しいなぁ……なんて」


 ……本当はフランと手を離したくないだけなんだけど。しどろもどろに言う私の顔をフランはしばらく見つめた後に……。


 仕方なさそうに、また手を繋いでくれた。

そんなこんなで死に場所巡り再開です。

ちょっと甘口なフランさんです(*´ω`*)


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