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令嬢は騎士とまた遭遇する3

「ハドルストーンを……愛している?」


 アルバート様の口から、掠れた声が漏れた。彼の表情は親友に闇討ちでも受けたかのような……愕然としたものとなっている。

 私がフランを愛していたとして、そんなに彼がショックを受けることかしら。


「お嬢様……貴女はなにを……!」

「だって本当のことじゃない!」


 フランに両手で頭を掴まれ、万力のような力で締められる。い……痛い! 痛いわ!!

 細身なのにフランは意外と馬鹿力だ。

 でもこれって、頭ナデナデに限りなく近い状況なんじゃないかな。フランに頭を触られているわけだし、大差ないわ。そう考えると頬が思わず緩んでしまう。


「え……えへぇ。えへへへ」

「頭を締めつけられながら、だらしなく笑うんじゃない。この変態が!」


 フランは頭から手を離し蔑むように言うと、街を這いずるドブネズミにすら向けないであろう嫌悪がこもった冷たい視線で私を射抜いた。

 ああ……その氷のような目でもっと見て。印象に残らない綺麗な存在よりも、貴方の記憶に残る汚い存在の方がずっといい。


「……フラン、愛してるわ」

「お嬢様、申し訳ありませんが変態と愛し合う気はございませんので」


 ……うう、仕方ないじゃない。貴方が長年冷たいから拗らせてこうなってしまったのよ。私をこんな変態にした責任はきっちり取って欲しいわ。


「私をこんな風に汚した責任はちゃんと取って欲しい……」

「け……汚した!? ハドルストーン、貴様!!」

「お姉様!? その腹黒糸目のお手付きになってしまったのですか!?」


 アルバート様が柳眉を逆立て激昂し、レインも顔を真っ赤にして叫ぶ。

 ……少し妙な言い方になってしまったかしら。そうだとしても彼に激怒されるいわれはないと思うのだけど。

 そしてレイン。そんな事実があったら、貴方も誘って一週間祝いの宴を開き歓喜の舞を踊っているわ。


「レイン様落ち着いてください! そんなことがあったとしたらお嬢様が俺たちに内緒にできるはずがないでしょう!」


 ホルトがフランに殴りかからんばかりのレインの腰に抱きついて必死で止めている。

 ……彼は一見ぽわんとしているけれど、案外私の性格をよく把握しているような気が。


「このバカ……! レイン様も人前で紛らわしいことを。こんな害獣に誰が触りますか!」


 ――フランの魂の底からの怒りのこもった叫びが炸裂した。

 害獣なんて酷いなぁ。でもハクビシンになって、フランの部屋の天井に住み着く生活もそれはそれで悪くないかもしれない。

 ……フランの部屋の、天井かぁ。どうにかして忍び込めないかな。私はフランの寝顔が見たい。バレたら殺されるかもしれないけど。


「もぉ、皆落ち着きなさいな~」


 キャロライナはおっとりとした声音で言うと、パンパンと小さな両手を叩き乾いた音を立てた。

 それは落ち着いた声で張り上げているわけでもないのに。……その逆らえない響きに皆はなぜか動きを止めてしまう。そしてキャロライナの方を注視した。


「マギーの発言が紛らわしいだけよ、アルバート・ホーン様。愛しているといっても彼女の片想いだからなぁんにも起きていないの。可哀想なことになぁぁぁんにも」


 ……親友がおっとりと私のことを刺してくるんですが。


「オルコット侯爵家のキャロライナ様ですね、ご挨拶が遅れ申し訳ありません。俺のことを知っているのですか」

「ふふ。近衛騎士の中でも有望株で見目も良い貴方を、知らない年頃の令嬢なんていないんじゃないかしら」


 そう言ってキャロライナはコロコロと鈴を転がすように笑うと、その大きな瞳を細めてしなを作った。その仕草は年頃のご令嬢に言う言葉ではないけれど歳を経た『狸』のような狡猾さを窺わせる。

 アルバート様はその言葉に苦笑いをしながら肩を少しすくめるような仕草をした。


「……片想い、ですか。マーガレット様のような方がなぜ、こんな……」


 彼はフランのお顔に目を向けた後に、言葉の尻尾を苦いものでも飲み込むような顔でぐっと飲みこむ。『地味な』とでも言おうとしたんだろうか。


「マギーはああいう群衆の中で見つけられないような、地味なお顔が大好きだから」


 ふふふ、とキャロライナは笑って。フランの横に移動するとその腕にそっと腕を絡めた。


「このまとまりすぎていて没個性的なお顔が、マギーはだぁいすきなんですって」


 彼女はフランの腕に頬をすり寄せる。フランはそれを無表情で受け入れ、振り払おうともしない。

 ……やだ、いくら親友のキャロでもフランにべったりするのはダメ!


「キャロ、フランにべったりしないで! フランもどうして私みたいに振り払わないの!」

「……キャロライナ様はか弱いご令嬢ですから」

「私もか弱いご令嬢よ!」


 子供のように地団太を踏む私をアルバート様が呆然とした表情で見ているような気がするけれど。そんなこと気にしてはいられない。


「ふふふ。マギーをからかうのは楽しいわぁ!」


 彼女は可愛らしい笑い声を上げると、フランの頬をつんと指で一突きした後に彼から離れた。

 ずるい! 私もフランの頬をつんつんしたい……!

 キャロはアルバート様と向かい合ってお顔を覗き込み、慈母のような微笑みを浮かべる。


「マギーの様子を見てわかったでしょう。これは負け戦よ、アルバート様。そもそもが、彼女は王子の婚約者だし……ね? 諦めなさい」


 ……キャロライナは背伸びするとアルバート様の耳になにかを囁いたようだった。


「……例えそうだとしても。俺は……」


 黒の瞳を仄暗く煌めかせながらアルバート様がこちらに視線を向ける。

 それを見つめ返すと彼は切なげな顔をして小さく唇を噛みしめた。


「……マーガレット様。また」


 彼は踵を返すと大きな背中を少し丸めながら去って行く。……どうしてあんな哀愁の漂う背中になっているのかしら。


 ――一体なんだったんだろう。まぁ、それはともかく!


「フラン、私もほっぺに……」

「触るな害獣」


 フランの白い頬に触れようとした手は容赦なく払い落とされてしまった。

 酷いわフラン……!! 折れてしまったらどうするの……!


 そんな私たちの様子をキャロは本当に楽しそうな笑みを浮かべて見つめていた。

次回はキャロライナとマーガレットの出会いのお話的な閑話が入る予定です。

キャロライナのお家のことにもようやく触れる感じです。

その後に最後の死に場所巡りとなります。


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