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令嬢はモブと街へ出る1

「フラン、お買い物に行きたいから街へ連れていって。ちなみにお父様から許可はもう取っているわ」

「……どうしてですか、めんどくさい。そして旦那様は相変わらず娘にクソ甘いですね」


 胸の前で手を組んで可愛くおねだりした私に返ってきたのは、フランからの非情な返答だった。

 確かに、めんどくさいとは思うわよ? 私一応筆頭公爵家のご令嬢ですし。このあたりの治安は比較的よいとはいえ、フランは警護も兼ねる気を張るお出かけになってしまうものね。

 フランは騎士家の出身でとても腕が立つとお父様に聞いているけれど、それでも重い責任が伴うお出かけは嫌だろう。

 だけどめんどくさいってハッキリ言わなくても! フランの歯の衣はいつもどこかへ吹っ飛んでいる。

 ……こうなれば、最終手段を使うしかない。


「……お父様にもう少し給与を上げるように交渉してみようかなぁ」

「行きましょうか、お嬢様! 避けられる危険は避けたいので、平民に見える服をメイドに用意してもらってお忍びで行きましょうね」


 ……昨今見たことないくらいのすんごい爽やかな笑顔で速攻で承諾された。

 めちゃくちゃ複雑な気分よ。美少女のおねだりに給与アップが余裕の勝利だなんて。

 だけど生活のことを考えるとそれも当然なのかなぁ。美少女のおねだりはフランにとって一銭にもならないものね。

 くっ、将来絶対に給与アップに勝ってみせるんだから!……志が低い自覚はあるわ。

 そこからのフランの手際はとてもよく。

 メイドを呼んでテキパキと私のお出かけの準備を整えてくれたのだった。


 馬車に乗り、街への道を進む。

 公爵家の馬車は豪奢で大きく目立ちすぎるので街のだいぶ手前で降ろしてもらう予定だ。

 乗り物からお嬢様だってバレて人さらいにでも目をつけられたら元も子もないものね。

 今日の私はこの人生では初の何重ものパニエでスカートが膨らんでいない白のワンピースを着ている。

 うわー庶民のお洋服、身軽! 前世ではいつもこんなに軽い服を着てたのが今となっては信じられない。パニエってものすごく重いし歩く時に邪魔になるのよね。


「ねぇねぇフラン。このお洋服似合う?」


 私は馬車に揺られながらフランに五度目くらいの質問をした。


「いつもの服よりも似合っているんじゃないですか。身の丈に合っている感じで」


 彼はなんの感情も見えない表情で五度とも同じ言葉を返してくる。

 フラン……私もうちょっとちゃんとした感想が聞きたい。

 だけど似合ってるって言ってくれたのよね。そこだけ都合よく切り取ってしまうわ! 嬉しい、フランが似合ってるって言ってくれた!


「……ふふ! 嬉しい!」

「お嬢様、貴女今また無駄にポジティブなことを考えているでしょう。愚かですね」

「恋は人を愚かにさせるの。そして強くもね!」


 ため息をつくフランに私はウインクしてみせた。

 ……ウインクが下手だから両目とも瞑ってしまっているけれど。決まらない。


「お嬢様の鋼のメンタルはいったいどこからやってくるんですか」

「鋼のメンタルじゃなければフランに片想いなんてやってられないわ。今日はまだ言ってなかったわね。大好きよ、結婚してください!」

「……はぁ。メンタルの強い変態なんて始末に負えない」


 私の言葉にフランは再びため息をつき、のどかな田園風景が流れていく窓の外に目を向けた。


「……似合ってますよ。髪が真っ赤なので白い服はよく映えているかと。マーガレット様は無駄に容姿はいいですしね」

「……え」


 ぽつりと発せられたフランの言葉に、私は思わずきょとんとしてしまった。

 あれ……あれ? 似合ってる? 容姿がいい?


 ――もしかして私普通に褒められてない?


 えっ、こういう時どんな反応をすればいいの。フランが普通に褒めてくれるなんていつ以来なんだろう。

 頬が熱い。たぶん私の顔はトマトのように真っ赤になっている。

 こんなことには慣れてなさすぎて、俯いてぎゅっとスカートを握ることしかできない。ああ、『ありがとう』を言うとかもっとちゃんとした反応をしたいのに。

 じわっと汗までかいてきたわ。


「……お嬢様?」


 私が沈黙していることに疑問を持ったのだろう、フランがこちらを見て――固まった。


「くそっ。その反応は予想していなかったな……」

「ふぇ?」

「いいえ、なんでも」


 フランが驚いた顔でなにかを呟いたけれど、訊き返すとすぐに取り繕われてしまった。

 ……なんて言ったんだろう。

 フランの糸目は表情が読みづらいから、こういう時に表情から言ったことを推察できないのが不便だ。


「フラン、お顔が熱いからお水ちょうだい……」

「はいはい、零さないようにしてくださいね」


 そう言いながらフランが水筒を取り出すと蓋に汲んだお水をこちらに渡してくれる。

 初対面の時にも思ったけれどやっぱりモブなのに白くて綺麗な手だ。この手、すごく好きだなぁ。フランの全部がもちろん大好きなんだけど。

 もらったお水を口にすると少しずつ気分が落ち着いてきた。よーし、これで戦えるぞ。


「褒めてくれて、嬉しいでしゅ」


 ……噛んだ。

 まだメンタルが正常に戻っていなかったらしい。

 ああ、顔がまた赤くなってしまう。フランが、素直に褒めたりするからだわ!


「……ふっ」


 そんな私を見て、フランが柔らかく笑った。すぐに真顔に戻ってしまったけれど確実に笑ったわ。

 どうしよう、今日はいい日だなぁ。まだ馬車の中で街にすら着いていないけど。


「お嬢様、街が見えてきましたよ」


 フランの声を聞いて窓の外を見ると遠くに街を囲む壁とその門が見えた。

 街は安全のために高い壁に囲まれていて兵士が門前を守っているのだ。


「お買い物、楽しみだわ!」


 私は思わずにんまりとしてしまう。

 そう、お買い物にかこつけたフランとのデートが始まるのですよ!

デート回(無理やり)の始まりです(*´ω`*)

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