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令嬢はツンデレ眼鏡と邂逅する

マーガレットのお胸の話ばかりの回です。

 ハミルトン・ヒューズ公爵家子息。


 ゲーム中の『マーガレット』を毒殺するその人は私をじっと見つめ……ゆっくりとした足取りでなぜかこちらへと向かって来た。

 ど……どうしてこちらに来るの!?

 警戒しつつ彼の挙動に備えていると、ハミルトン様は腕を組みながらなんだか尊大な態度で私たちの席の前に立った。

 長い緑の髪が揺れ、細い眼鏡の奥のオレンジ色の瞳が剣呑な光を灯しながら細まる。

 ヒーニアス王子ほどではないにせよ彼も整った美しい顔をしている。つまり、私はまったく興味が湧かない。うん。


「……なにか御用なの? ハミルトン様」


 恐る恐る訊ねてみると、彼は小さく鼻を鳴らした。


「筆頭公爵家の権力を笠に着て早速生徒たちに圧力か? マーガレット嬢」


 先ほどの光景がどうやったらそう見えるのよ!? 私は啞然とした表情で彼を見つめてしまう。

 ゲーム中でのハミルトン様は『神経質で潔癖症』……そして『(無駄に)正義感が強い』人だった。そんな彼の琴線に先ほどの光景が引っかかったのだろうけど、私にしてみれば腑に落ちないにもほどがある。陰口を叩く方が明らかに悪いじゃない!

 ……それに実際に圧力をかけたのはキャロライナなんですけどね。そんな彼女はハミルトン様の存在など気にもせず、こっそりと持ち込んだらしいマカロンを頬張りながら鼻歌を歌っている。大物だなぁ……。


「先ほどの光景が貴方にはどう見えたの? ハミルトン様。可愛い妹を悪意から庇うことのなにが悪いのかしら?」


 そう言いながらレインを抱きしめると彼女は至福といった表情で胸の谷間に顔を埋め、ぐりぐりと鼻先を押しつけてくる。く……くすぐったいわね! それと匂いを嗅がないで!


「いいなぁ、マギーのお胸。私も次にすりすりさせてねぇ~」


 キャロライナが四つ目くらいのマカロンをもぐもぐしながらおっとりと言った。痩せているのに彼女はよく食べる。太りやすい私からすると羨ましい話だ。


「駄目です、キャロライナ様。お姉様の偉大なるお胸は私のものです!」


 ――私のお胸はフランのものよ、レイン。

 ええ、全然興味を持たれていないけれどフランのものなの!!……言ってて悲しくなってきたわね。ちょっとくらい興味を持ってくれていいと思うんだけどなぁ。

 今度背後から抱きついて押しつけてみようかな……それでも反応が無かったら悲しいけれど。前世の私は貧乳だったから使えなかった必殺技だ。せっかく巨乳に生まれたのだし一度くらいは使ってみたい。


「な……なんて破廉恥な!」


 ハミルトン様は胸に埋もれながらだらしなく笑みを浮かべるレインを眺めながら、苦虫を噛み潰したような顔をした。ゲームの立ち絵では見たことが無いくらいに苦いお顔だ……少なくともヒロインに対する攻略対象の表情じゃないわね。


「貴方なんなんですか。貴方もお姉様のお胸を触りたいんですか? 触らせませんからね! 断じて! むしろ見るのも許しませんから!!」


 レインが胸に埋もれたまま半眼でハミルトン様を鋭く睨み糾弾するように言うと、彼の白いかんばせは見事に真っ赤に染まった。


「触りたいわけがないだろう! そんなだらしのない胸!!」

「だ……だらしないですって!?」


 あまりの言われように私は思わず叫んでしまう。

 どうして初対面の男性に胸がだらしないなんて言われなきゃいけないのよ! ああ……でも胸がだらしないから、フランが興味を示してくれないのかな。もしかして他の女の子はもっと張りがある素敵なお胸なの!?

 ……これは貴重な機会だし男性の意見を求めるべきなのだろうか。


「……ハミルトン様……。私のお胸は男性から見てそんなに魅力がないですか?」

「なっ!! なぜそんなことを私に訊くんだ!!!」


 レインの体をそっと離し、ハミルトン様に訊ねてみると彼は明らかに慌てふためき始めた。

 目を丸くし顔を赤らめて一歩後ろへと後退する。その視線はうろうろと私の胸の辺りを彷徨っていた。


「大きさが足りないのですか? それとも大きすぎるのですか? 張りが足りないのですか? もしかして垂れて……!?」


 胸を下から両手で持ち上げてみる。……ものすごく垂れているわけではないと思うんだけど。でもあくまで主観だからなぁ。

 ハミルトン様は顔を真っ赤にしたまま言葉に詰まりなにも言ってくれない。やっぱり見るに堪えない胸なんだろうか。


「マギーのお胸は幸せがいっぱい詰まっている素敵なお胸よ?」

「そうですよ、お姉様。お姉様のお胸は至高の品です」


 ……私の友人と妹はいつも優しい。だけど今は正直な意見が欲しいの。


「ああ、もう!!」


 ハミルトン様は苛立ったように叫ぶと、制服の上から羽織っていたストールを外し私の顔に投げつけた。

 私は彼から投げつけられたストールを顔から剥ぎ取り呆然とする。手袋を投げつけられるのは決闘の合図と聞くけれど……これもそうだったりするのかな。

 自慢じゃないけど私運動神経は人一倍ないわよ? 決闘なんかしたら即座に死ぬ自信があるわ。


「……ハミルトン様?」

「みっともない胸はそれで隠しておけ! わかったな!!」


 彼はそう言うと時々机などに足をぶつけよろめきながら自分の席へと戻っていく。

 ……一体なんだったのかしら。そして結局私の胸の評価は聞けなかったなぁ。


「思春期ねぇ……」


 キャロライナがのんびりとマカロンを頬張りつつ呟いた。

 ……思春期だと、人にストールをぶつけるの?

 せっかくだしと投げつけられたストールを巻いて胸を隠す私に、ハミルトン様はチラチラと視線を投げてきた。もしかしてストールの巻き方がなにか間違っているんだろうか。


 ――ハミルトン様との関係は良好とは言い難いスタートになってしまったなぁ。


 毒殺、されないといいんだけど。

そんなこんなでツンデレ眼鏡と遭遇しました。

仕事が忙しく久しぶりの更新で申し訳ありません!

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