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令嬢は入学式に出る3

 キャロライナに急かされながら講堂に入り、レインとキャロライナと並んで席に着く。従者であるフランとホルトは広い講堂の壁際へと下がっていった……ああ、寂しい。

 ヒーニアス王子は教員に貴賓席のような場所に連れていかれ、今は優雅に紅茶を嗜んでいるご様子だ。

 周囲を見回すと各家の子息子女がすでに席についており空席は僅かだった。……本当に時間ギリギリだったようね。

 入学式にはお茶会や舞踏会で見たことがある面々も当たり前だけれど数多く出席している。その中でも仲がいい数人を見つけ軽く手を振ると、あちらも微笑みながら手を振り返してくれた。

 権力に近づいてくる人や噂話が好きな人とのお付き合いは避けているので、私のお友達はそれほど多くない。けれど仲がいいのは厳選したいい子たちばかりなので私は満足なのだ。


「ふわぁ~……眠いわねぇ。マギー……」

「むにゃむにゃ……おねぇさまぁ」


 入学式が始まってしばらく経ち。

 学園長の話が長いなぁ、なんて思いながらも眠気に耐えているとサイドの二人がとうとう眠気に耐えられなくなり私にもたれかかって眠り始めた。

 右に超美少女の寝顔、左にモブ系美少女の寝顔……。私が男だったら大興奮だったわね、危なかった! というか二人とも本気寝だなぁ。

 四十代後半くらいの白髪混じりの髪を後ろに撫でつけた学園長は、二人が寝ていることに気づいているようでチラチラとこちらへ視線を向ける。

 怒られるかな思いながらへらりと笑ってごまかしてみたけれど、私が筆頭公爵家の娘だからだろう。学園長は取り立ててなにも言わない……けれど怒ってるな、あの表情は。


「……今年は王太子と『光の乙女』が入学される。これは学園にとって奇跡であり身に余る光栄だ」


 『光の乙女』という部分で学園長がレインへ視線を向けた。

 自然と周囲からの注目もこちらへと集まる……そう、レインの安らかな寝顔へと。


「レ……レイン!」

「おねぇさま、おねえさまの……お胸……」


 どんな夢を見ているの、レイン!? 注目が集まっている中でその寝言は止めてくれないかしら。

 ……ここってゲーム中だと学園長に『君は特殊な立場だ。大変なこともあると思うが、頑張りたまえ』とか言われてレインが『……はい!』って言ういいシーンだったような。


「レイン、レイン、起きて! キャロ、貴女も!」


 必死でレインを揺さぶると、レインは一瞬だけ目を開けて……。私に抱きつき胸にぽふりと顔を埋め、幸せそうな顔で再び寝息を立て始めた。

 キャロライナも起きずに寝たまんまだし!


『やっぱり平民はだらしないわね……』

『しっ! マーガレット様に聞こえてしまうわよ!』

『マーガレット様のお胸……』


 周囲からひそひそとレインの陰口を言う声が聞こえる。そして誰だ、どさくさに紛れて私の胸の話をしているのは。


「……お姉様ぁ」


 学園長のお顔がとても怖くて冷や汗が止まらないけれど。レインの寝顔が幸せそうだから……まぁいいか。

 フランの方をちらりと見るととても楽しそうに満面の笑みを浮かべている。私がこんなに大変な目にあっているのに! 解せぬ!

 彼は私がひどい目に遭っている時なんだか楽しそうな顔をするのよね……。


 こうして『光の乙女』の入学式は……ぐだぐだのまま終わってしまったのだった。


 そしてレインとキャロライナのよだれでフランからかけてもらったケープがぐずぐずになってしまい、結局脱ぐ羽目になるとフランがまた渋い顔になってしまった。でもこれは不可抗力でしょう……? 黒のケープによだれなんてものすごく目立ってしまうし!


 入学式が終わった私たちは教室へと向かう。

 クラス分けは入学前に発表されていて、私はお父様に頼み込んでレインと同じクラスにしてもらっている。もちろん彼女を近くにいて守りたいという理由からだ。こういう時は筆頭公爵家の権力万歳! って思うわね。

 キャロライナとも同じクラスなのだけれど、これは純然たる偶然である。……少なくとも、私は介入していない。


「お姉様と同じクラスで嬉しいです!」

「私もよ、マギー」


 私によだれを垂らした二人組がとてもいい笑顔で言う。同じクラスは嬉しいですよ、本当に! だけどせっかくフランにかけてもらったケープがですね……。

 ……まぁ、いいか。またかけてもらえばいいんだものね。


「じゃあフラン、ホルト。行ってくるわね!」


 従者である二人とはひとまず校舎の前でお別れである。

 二人は軽く手を振って寮の方へと戻っていく。授業が終了したら迎えに来てくれることになっているのだ。

 教室に入ると私たちに値踏みするような視線が集まった。

 筆頭公爵家令嬢に、『光の乙女』、侯爵家令嬢が揃い踏みしているのだ。目立つことこの上ないだろう。

 こういう視線を向けられるのは私とキャロライナは慣れている。私たちは視線を無視してレインを真ん中にして教室の隅の席に腰をかけた。

 ……レインは少し緊張しているようだけれど、仕方ないわよね。数年前まで平民だったのだもの。

 手を握ると少し心細そうに見上げられる。……うう、可愛い。儚い雰囲気を醸し出しているレインはゲームのヒロインまんまですね。


「レイン、私がついているから」

「そうよ、レインちゃん。筆頭公爵家令嬢と侯爵家令嬢が味方なのだから……まさか、いじめや陰口を働くような輩はいないわよねぇ~」


 そう言いながらキャロライナがぐるりと教室を見渡すと、何人もの令嬢が慌てて目を逸らす。……キャロライナがいたらレインのいじめの心配はない気がしてきたわ。

 そんなことを思いつつ生徒たちを眺めていると……一人の男性と目が合った。


 ハミルトン・ヒューズ公爵家子息。


 ゲーム中では私をカフェテリアで毒殺する、その人である。

そんなこんなで最後の攻略対象との接触でございます!

どんな接触になるかは次回に続くということで…!

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