令嬢は従者に治療をされる
マーガレット視点に戻りました。
目が覚めるとそこは寮の部屋で。
心配そうな顔のレインとホルトが私を覗き込んでいた。
「……あれ?」
「マーガレット様、大丈夫ですか?」
「おおおおねえさまぁ!!」
レインが涙目で勢いよく抱きついてくる。私はそれを抱き返してよしよしとその細く華奢な背中を撫でた。
……私どうしたんだっけ。
起きたことを思い返そうとして犬たちのことを思い出し身震いする。すると腕の中のレインが私の怯えを感じ取ったのか、顔を上げて心配そうな顔になった。
安心させようと微笑んでみせると彼女は安堵したように笑う。……うちの義妹は可愛いなぁ。
そう、攻略対象のアルバート様にも出会ったのだった。真面目で実直な雰囲気が伝わってくる方だったわね。
そしてその後……。
――フランにお姫様抱っこをしていただいたのだ。
私の当たり前に重いであろう体を簡単にあのしなやかな腕で抱きあげて、肩をぎゅっと強く抱かれて、切れ長の狐目が涼やかな好みのお顔が近くにあって……寄りかかった胸がとても温かくて。
「あ……あああ……」
思い出して顔が真っ赤になった。今もまだフランに抱かれた肩が熱い気がする。
どうしよう、お祝いしなきゃ。でも赤飯はさすがにこの世界にはないわね!? 思い出を真空パックにして取っておきたいのにできないのが本当にもどかしい。
私は嬉しさや恥ずかしさで居ても立っても居られなくて、ベッドの上をゴロゴロと転げ回ってしまう。
「お姉様?!」
「どうしよう、どうしようレイン。私フランに大変なことをされてしまったわ!」
怪訝そうな顔をするレインに起きたことを伝えようとしたのだけれど、慌ててしまって上手な説明ができない。
「あの陰険腹黒糸目……私のお姉様になにを。殺す、殺してやる」
「フランさん、なんてことを……!」
レインの大きな瞳から光が消え、ヒロインとは思えない剣呑な言葉が漏れた。
ち……違うの!!
ホルトは自分がなにかをされたかのように真っ赤になった顔を手で隠してしまう。君の反応がむしろヒロインみたいだな!
「違うの! 足を挫いたらフランにおおおお姫様抱っこをされてしまってですねぇ!」
そう言いながら頬を染めると二人は納得してくれたようで、それぞれほっとしたような顔をした。
「そういえばあの陰険腹黒糸目に抱えられて帰って来ましたものね。よかった、お姉様の大事なものが奪われていなくて」
大事なもの……例えば唇とか……がフランに奪われていたら、私今頃ショックで絶命してると思うわ。
「お嬢様の大事なものなんて、土下座されてもお金をいただいても奪いませんよ」
心底呆れたようなフランの声が部屋に響いた。そちらを見ると彼は水桶を持ち、腕に数枚の布をかけて立っていた。
私はこんなに動揺し気分が高揚しているのに、フランはいつも通りの無表情だ。あれだけ体がくっついたのだから少しくらい意識してくれたって! ……それをフランに求めるのは無理か。
「お嬢様、足を見せてください」
フランはサイドテーブルに水桶を置くとそんなことを言いだした。
あ、足? フランに足を見せろと言われたの? ……恥ずかしい。恥ずかしいけどご主人様が命令するなら。
「わ……わかったわ。フランが命令するなら!」
「……怪我をした足首を見せろと言っているんだ。誰がスカートを捲れと言った」
ベッドに寝転がったままスカートをそっと捲り上げようとした私を、フランは細い目を少し開いて睨みつけ恐ろしい声で諫めた。
あっ、そうか。少し冷静に考えるとそうですよね。フランが私の足に興味を持ってくれた訳じゃないのか。
フランがお胸に興味がないのは足派だからか、なるほど! って一瞬思ったのにな。
レインとホルトは赤くなってこちらから目を逸らしている。……ちょっとはしたなかったわね。
「……そっか」
しょんぼりしながら身を起こしベッドに腰をかけて靴下を脱ぐ。
捻った右足首を目視するとそれは真っ赤になって腫れ上がっていた。そしてとても痛い……一度意識すると痛みがさらに増したような気がする。
「まずは腫れが少し引くまで冷やしましょう。その後にレイン様に回復魔法を使っていただいて包帯を巻いて固定しましょうね」
そう言いながらフランは私の足元に膝をつくと、そっと腫れた右足を手に取り膝の上に乗せた。
フランの白くて長い指が素足に触れていて、足の裏にはフランの太腿の感触がある。
触れている部分から熱が這い上がってくるようで、それが恥ずかしくて私は逃げたくなってしまう。
「フラン……さん」
「なんですか、お嬢様」
「素足を触られるのは……その」
真っ赤になって彼を見つめると、ふいっと視線を逸らされた。
「恥ずかしがってる場合ですか。さっきは自分で足を見せようとしていたのにおかしな人ですね」
なんの感情も感じさせない口調で素っ気なく言われてしまう。
そ……それを言われると立つ瀬がないのだけど!
「お姉様の足にどさくさに紛れて触るなんて……この腹黒陰険糸目!」
「好きで触っている訳ではございません、レイン様。これはただの業務ですので」
フランとレインのやり取りに少しだけ胸が痛くなる。業務、そうよね……。
「ホルト、水に浸した布を」
「は……はい!」
ホルトから水に浸してゆるく絞った布を受け取ると、フランは私の足首にそれを何度も当てて冷やしていく。
患部を冷やされるのは確かにとても気持ちいいの。気持ちいいんですけど。
フランの手が何度も素肌に触れるのが恥ずかしくて……私はそれどころではなかったのだ。
フランさんは内心はいざ知らず、いつも通りを心がけているようです(n*´ω`*n)
面白いと思って頂けましたら感想、評価など頂けると更新の励みになります(*ノωノ)




