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令嬢は入学準備をする

 冬も深まり、学園入学まで一カ月と少しになった。

 私が入学するのはこのノースケレン王国の貴族のみが通う『リース王立学園』という三年制の学校で、生徒全員が入寮する決まりだ。その寮は階級ごとに部屋のグレードが決まっていて、王太子に至っては学園に設けられている邸に住むことになっている。

 警備の関係上こうするしかないのだろうけど、贅沢な話ではあるわね。


 今日は制服に関する打ち合わせのためにデザイナーが我が家に来ている。

 私とレインは応接間のテーブルに広げられたデザイン画を興味津々で眺めていた。


「制服の基本の形はこのようなものなのですが、追加のデザインはいかがいたしましょうか」


 そう言いながら鼻の下に整えた髭を蓄えたデザイナー……メイベルさんが訊ねてくる。

 デザイン画に描かれているのは飾り気のないなんともシンプルなドレスである。ハイネックのフロントボタンドレスで色は紺なのよね。

 ゲームでは『キャラ付け』がある方々は皆思い思いに改造して着ていたので、原型はこんな感じなのだなぁとなんだか感慨深い気持ちになってしまう。

 ゲームのレインはこの『基本』の形に近い状態の制服を着ていたはずだ。ゲーム内の私が『平民なんてこのままで十分でしょう?』とでも言ったんだろうなぁ。

 攻略対象の男性陣に至っては軍服のような制服を形だけでなく生地の色まで変えていた……モブ男子たちは紺のままなのに。

 キャラクターデザインの兼ね合いなのだろうけどそこまでくるともう別物である。

 私はどんな風にしよう。許されるのなら胸元は開けてしまいたいのだけど、はしたないかなぁ。前を留めるドレスの場合、無駄に大きい胸のせいで時々ボタンが弾けて飛んでしまうのだ。

 胸元を開く形に改造して、上からケープでも羽織るようにしよう、うん。

 メイベルさんに要望を伝えると『ふむふむ、ならば……』と彼は頷き、さらさらと新しいデザイン画がその場で起こされた。おお……プロの仕事だなぁ。


「レインはどうするの?」


 横でうんうんと悩んでいるレインに訊ねると、困ったような視線を向けられた。


「……思いつかなくて」

「じゃあ私とお揃いのケープを作りましょう? スカートももう少し膨らませた方がレインには似合うかもしれないわね」

「お姉様とお揃い! 嬉しいです!」


 にこにことレインが嬉しそうなので私も嬉しくなってしまう。姉妹でお揃いコーデなんて私もテンションが上がるわ。

 控えていたスタッフの女性に採寸もしてもらい、発注もその場で済ませてしまう。

 ……採寸したら胸がまた大きくなっていて少し落ち込んだけど、成長期だし仕方ないわね。フランを誘惑する武器に現状なっていない訳だし(残念ながら彼は私の胸には無関心である)、大きくなっても邪魔なだけなんだけど。


「……お姉様、大きなお胸羨ましいです」


 レインが自分の胸と比べながら悲しそうな顔をしていたけれど、私からするとレインのような華奢な体型の方が羨ましい。服の選択肢が断然多いし。

 メイベルさんはデザイン画を手にし上品な礼をして帰っていった。制服の完成が楽しみだ。


「さて、あとは……」


 学園には従者何人か連れて行っていいことになっている。身支度をお願いするメイドを二人私とレインそれぞれにつけてもらうとして、あとは……。


「お嬢様の学園での従者ですか?……遺憾ながら私はお嬢様付きですしね。お給金のため仕方なく行きますよ」


 フランのところへ行き学園へ従者として連れて行くことを話すと、とても嫌そうな顔で承諾された。

 ……照れちゃって! フランは可愛いなぁ。

 彼はゲームでも私の従者として学園へ付いてきているのだから、まぁこれは問いかける前から勝ち試合だったんですけどね。わかっていても実際に了承が取れると嬉しいものだ。


「フランといつでも一緒だなんて嬉しい!」

「……今までもそうだったでしょうに」


 まぁ、そうなんだけど。場所が変われば気分も変わるのだ。それに……。


「ほ、ほら。学園には恋人たちがデートするスポットがいくつかですね! フラン、入学したらデートしましょう!」


 これは乙女ゲーム知識なのだけれど。

 校舎裏のベンチとか、カフェテリアとか、庭園とか。学園内だけでもデートスポットは沢山あるのだ。

 フランとそんな場所で過ごしたい。あわよくば抱きしめてもらったり……キ……キキキキスとかですねぇ!!


「デート? しませんよ。私はただの従者ですので。ヒーニアス王子とすればいいじゃないですか」

「やだぁ!!」


 フランの言葉に私は絶叫してしまう。

 メインヒーローとのデートだなんてなにも楽しくないじゃない!


「なにが悲しくて王子とデートなんて……」

「なにが悲しくてって婚約者じゃないですか」


 そう言われてしまうと元も子もないけれど、彼との婚約はどうにか解消するつもりだ。

 そして私は他の誰でもなくフランとデートがしたい。


「……一服盛って引きずっていくか……」

「お嬢様。そんなことをしたら、即座にこのお仕事を辞めさせていただきますので」


 ……盛るのは、諦めよう。地面に転がって駄々をこねていたらそのうち一回くらいは付き合ってくれるだろう、うん。

 フランの『公式グッズ』は何点くらい持っていこうかなぁ。できれば全部持っていきたいのだけど寮の部屋には入らないから、選別作業にはかなりの時間がかかりそうである。

 絶対に持っていきたいのはドアマットね。あれさえあればいつでも彼に踏まれているような素敵な気分を味わえる。シャツは年代別で十枚は持っていくとして……。


「……マーガレット様」


 悲し気な声に振り向くと、ホルトがドアの隙間から涙目でこちらを見つめていた。


「俺は、お留守番ですか?」


 ポロポロと緑の瞳から涙が零れる。あああ……忘れてた訳じゃないのよ! あとで打診しようと思ってたの!


「ホルト……!」


 ホルトがこの世の終わりのような顔で涙を流しているので、急いで捕獲し優しく抱きしめて頭を撫でた。彼は驚きで一瞬体をビクリと震わせたけれど、大人しく撫でられるままになっている。


「泣かないで、もちろんホルトも連れていくわよ? 忘れていた訳じゃなくてあとから聞こうと思っていただけだからね」

「ほんとですか……?」

「本当よ!!」


 よーしよしよし! とわしゃわしゃと頭を撫でると、ホルトは安心したように微笑んだ。あーモブ男子の泣き笑い可愛いなぁ!

 ホルトは体がちっさいのもあって弟みたいで本当に可愛く思えてしまう。


「お嬢様、いい加減にしなさい。はしたないですよ」


 泣き止んだホルトの柔らかなほっぺをもちもちして遊んでいると、フランにべりっと剥がされてしまった。

 これはもしや……。


「……フランもなでなでして欲しいの?」


 そう言って両手を差し出してフランを見つめる。

 彼は一瞬固まったあと……大きく舌打ちをし強めに私の頭をはたいた。

 解せぬ! 美少女のなでなでなのだから喜んで享受してよ!

乙女ゲーム内で改造制服を着ている人々がいる理由を考えこうなりました。

きっとベースデザインから追加発注をしているんだ…!

そんなこんなで次回から学園入学になります。王子の出番なども増える予定です。

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