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令嬢は親友(モブ)とお茶を飲む

「あらあら~王子の婚約者になってしまったのね。困ったわねぇ」


 我が家の庭に用意されたテーブルに着き、のんびりとした口調で言っておっとり微笑んだのは親友のキャロライナ・オルコット侯爵家令嬢だ。

 一人で婚約破棄について悩んでいても埒が明かないと感じた私は、親友に相談することにしたのだ。

 茶色の髪に茶色の大きな目。可愛らしい顔立ちにいつも優しい微笑みを浮かべている彼女は……なにを隠そうゲーム中のモブだ。

 彼女とは数年前に招待されたお茶会で知り合い意気投合して仲良くなったのだけれど……。

 『ああ~いいお友達ができたなぁ』と満足しつつ家に帰った後に、はたと『あれ、キャロライナのこと……ゲームで見たことがあるぞ』と気づいたのだ。

 ゲーム中の彼女の役割はたまに出てきては害のない噂話をするヒロインのクラスメイトだ。

 それだけの役割の立ち絵は一枚のみ・声優なしの正真正銘のモブである。……ゲーム中の立ち位置はフランに近いものがあるわね。

 私がモブマニアじゃなければ気づかなかったかもなぁ。


「そうなの。なりたくないけど婚約者になってしまったの! どうにか婚約破棄をしないと……私とフランが引き裂かれてしまうわ」

「お嬢様、安心してください。元より私とお嬢様は繋がっておりませんので」

「フランさん! めっ! 女神……いえ、マーガレット様にそんなことを言ってはいけませんよ」


 冷たい口調で言い放ちながらフランが紅茶を淹れ、ホルトが頬を膨らませフランを窘めながらお茶菓子の用意をしてくれる。

 ホルトも屋敷にすっかり馴染み、フランとはなんだか仲が良さげだ。羨ましいなあ。

 そして私とフランは前世から繋がってるから! 一方的にだけど!


「あらあら~相変わらずフランちゃんはマギーに冷たいのねぇ。女の子には優しくしなきゃダメよ」


 キャロライナは私を『マギー』と呼び、フランのこと『フランちゃん』と呼ぶ。真似して私も『フランちゃん』と呼んだらなぜか強めに頭をはたかれた。解せぬ。

 薄々勘付いていたけれどフランが冷たいのは私にだけなのだ。それって特別扱いってことかな……だったら嬉しいんだけど!


「この人は甘やかすと調子に乗るのです。キャロライナ様もあまり甘やかさないでくださいね。このままの状態では出荷でき……いえ、立派な王妃にはなれません」


 フラン、貴方『出荷できない』って言おうとした……!? 私は家畜なの?


「フラン。私は貴方だけの家畜だから出荷なんてされなくていいの。ずっと貴方の側で放牧して?」

「お嬢様……。私以外のところで放牧されてくださいね」

「あらあら。マギーは本当にフランちゃんに夢中ねぇ」


 そう言いながらキャロライナはゆっくりとした動作でお茶菓子を口に運ぶ。ああ、ポロポロとスカートに零れてる……! よく見たら紅茶もドレスにドバドバ零してるし……!

 彼女はちょっと天然というか、本当におっとりしてるのよね。

 白いドレスに零れた紅茶をホルトがそっと拭っている。だけど染みになって取れないようで、彼は悲しそうに眉を下げた。


「取れませんね……」

「いいのよ~ホルトちゃん。お家に帰ったらメイドに染み抜きしてもらうから」


 キャロライナがしょっちゅうドレスを汚すのでオルコット侯爵家のメイドは職人級の染み抜き上手らしい。

 いくら彼女のお家が侯爵家といっても、汚れたからと毎日ドレスを捨てていたら出費が馬鹿にならないものね……。


「ねぇ、キャロライナ。どうやったら婚約破棄できると思う?」


 私の言葉にキャロライナは『ん~……』と小さく悩むように言いながら首を傾げる。


「そうねぇ。よほどの瑕疵じゃなければ貴女の立場的には難しいわよね。同じ程度の立場の別の候補を立てれば、ということができないのだもの」


 そう……私の家は『筆頭』公爵家。横には並ぶ家は存在しないのだ。


「『光の乙女』……レインちゃんを立てるわけにもいかないのでしょう?」

「それはダメ。レインが行きたいと言うならともかく、生贄みたいに婚約者に立てるのはダメ」


 あの二人が恋に落ちてくっついてくれると非常に助かるのだけど……。

 先日の様子を見るにレインの王子への好感度はマイナススタートだ。


「そうねぇ。じゃあ現状では王太子を暗殺するくらいしか逃れる手はないんじゃないかしら」


 キャロライナの言葉にホルトはガチャリと下げようとしていたお皿を落とし、青い顔で子兎のように体を震わせた。フランはキャロライナからたまに飛び出すそんな物騒な物言いには慣れているので優雅な動作で平然として紅茶のお替りを淹れている。

 ……そう、彼女の発言はなぜか時々物騒なのである。


「やぁねホルトちゃん、そんなに震えて。それくらい破棄は無理筋ね、という例えよ。それをお勧めしているわけじゃないわぁ」


 コロコロと楽しそうに笑うけれど、笑えないわよキャロライナ……。

 誰かに聞かれていたら反逆罪で投獄されてもおかしくない発言は本当に止めていただきたい。


「……フランに連れて逃げてもらうしかないわね」

「お嬢様、駆け落ちは相思相愛の間柄でしか成立しませんよ。前提が綺麗に抜けております」


 ……フランは今日も絶好調に冷たい。相思相愛になってください、切実に。お願いします!


「……マギーが本当に望むなら、暗殺くらい頑張っちゃうのだけど。ふふ」


 目を鋭く光らせながらキャロライナが小さく呟いた言葉は、風に流されて私には届かなかった。

マーガレットのモブコレクションその3の登場となりました。

本人は気づかないうちになんだか物騒なモブたちが集いつつあるようです(n*´ω`*n)

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