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竜殺しとその呪い(フラン視点)

今回はフラン視点になります。

フランから見たお嬢様の変態が発覚する前までの話。

 私の生家、ハドルストーン伯爵家は『護国騎士』の家系である。

 『護国騎士』とは私の先祖が魔王を倒した勇者だとかいうことから発生した、ハドルストーン家にのみ与えられる称号だ。

 ……といってもハドルストーン家がその称号を持っていること自体、世間には忘れ去られているくらいの古い話だ。

 ハドルストーン家は辺境を守る田舎伯爵である。それが中央の貴族たちの現在の認識だ。

 なにが勇者だ馬鹿らしいと私も正直思っていたのだが。十歳の私が一人で倒した赤竜が騎士団総出で討伐するようなものだと知って、その眉唾話もあながち嘘ではないのかもしれないと思ったものだ。

 私も父のように辺境で領民に被害をもたらす竜を討伐し、兵を率いて他国からの斥候兵と小競り合いをしながら『中央』とはあまり関わりを持たずに生きるのだろう。

 そう……その日までは思っていた。


 ――その日。

 父から告げられた言葉に、私は思わずポカンとしてしまった。


「従者として……エインワース公爵家に、ですか」


 騎士としてならまだわかるのだが……従者として?

 しかもなんの関わりもない筆頭公爵家に、なぜ。私の脳内は疑問符で満たされる。


「エインワース公爵家のご令嬢は王子の婚約者になることが決まっている。これは他家からの妨害を防ぐためにご令嬢自身にも知らせていない極秘の話なのだが。彼女を影からお守りしながら、その行状を報告せよとの王家からのお達しだ」


 なるほど、未来の王妃の護衛と監視という訳か。

 それはなかなかに重大な任務だ……私の気も自然と引き締まった。

 公爵には『護衛』の部分は伝えるが、もちろん『監視と報告』に関しては極秘であるそうだ。

 期間はご令嬢の学園卒業の十八歳まで。つまりは彼女の成人までということらしい。


「それと、だ。あまりに彼女の行状が目に余る場合は……彼女を命の危険から救わずともよい、とのことだ。判断はお前に任せる」


 父のその言葉に私の気持ちは暗澹たるものになる。

 王家と筆頭公爵家の間の決めごとだ。例えご令嬢の行状に瑕疵があったとしても、一度結んだ婚約の話を破棄するのは容易ではない。

 であれば『なにか』があった時に命を失うのを指を咥えて見ていればいい。それならばなんの後腐れもなく婚約を『解消』できる……そういうことか。


 ……現在十二歳の子供に任せる任務じゃないだろう。


 私は内心毒づいてしまう。

 護衛先のご令嬢の素行に問題がないことを祈ろう。


 そんな任務を負ってエインワース公爵家へと赴いた私が出会ったのは……。

 驚くほどに美しい少女だった。

 際立って美しい顔立ち、真っ白な肌。ふわりとなびく腰まである赤い髪、目尻が下がった大きな瞳。その瞳は煌めく紅玉。

 その雰囲気はわずか九歳にも関わらずすでに凄絶な色香を放っている。

 こんなに美しい人を見たのは初めてで、私は思わず見惚れそうになる気持ちを叱咤した。

 彼女は将来王妃になる人なのだ。邪な気持ちを抱いていい存在ではない。


「貴方をずっと待っていたわ、フラン・ハドルストーン」


 しかしその美しい少女は私を見るなり、うっとりとした表情になって頬を染めながらそう言った。


 ――まるで私に恋でもしているかのように。


 出会った日から毎日。マーガレットお嬢様はなぜか私に愛を囁いた。

 正直なところ、私に彼女に好かれる要素はない。

 顔は地味で人目を引くものではないし、竜狩りに明け暮れていた辺境生まれの田舎者は気の利いた言葉を言うこともできない。

 彼女に愛を囁かれても『身分が違いますので』とへらりと笑って困惑顔を浮かべるばかりだ。

 ……実際田舎伯爵家の子息と筆頭公爵家のご令嬢では身分が違うし、彼女が将来の王妃であるのならなおさらだ。

 王宮へ『報告』に行く時に会うことがあるヒーニアス王子のように美形であれば、一目惚れということもあり得るのだろうが……。

 理由がわからないまま日々囁かれる愛の言葉に私は戸惑うばかりだった。

 子供の戯言だ、飽きたら言わなくなるだろう。私は一抹の寂しさを覚えつつも、そう考えていた。


「フラン、好きなの。将来お嫁さんにして?」


 だけど一年が経ち二年が経っても、お嬢様は私に愛を囁く。

 止めてくれ、私の心を乱さないでくれ。貴女は未来の王妃になる人なのだ。


 彼女に愛を囁かれるたびに、呪いのように心になにかが降り積もっていく。


 ヒーニアス王子に王宮で会うたびに『この人はあの少女をなにもせずとも手に入れられるのだと』手前勝手な憎しみのような気持ちを抱いてしまう。

 それで思わず剣呑な目を向け彼を怖がらせてしまったりもした。

 王宮に行くことが増えると私たちの一族が王家から『竜殺し』と呼ばれ、その力を恐れられて辺境に置かれているという事情もわかってきた。……それは腹立たしいが、どうでもよい話でもある。 


 王命に背くことはできない。

 かといって心に降り積もり続けるなにかは堆積していき、目を背けることができないくらいに積み重なり、歪んで形を変えていく。


 ……ああ、お嬢様。愛を囁くのはもう止めてくれ。

 貴女の愛の言葉は私への呪いだ。


 この国を滅ぼしてでも貴女が欲しいと願ってしまう前に……その口を、閉じてはくれないか。

フランは色々な事情が絡んでお嬢様の想いに正面から向き合うことができないというアレコレ。

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