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令嬢はモブその2を獲得する4

 カーテンからは朝の光が差しておりベッドで上半身を起こした彼を照らしている。

 包帯を巻かれた体は痛々しいけれど、思ったよりも元気そうな様子に私はホッと胸をなで下ろした。


「貴方、名前は?」

「……ホルト……です」


 目が覚めた少年……ホルトはおずおずと名前を教えてくれる。


「助けてくださったんですよね。ありがとうございます」


 そしてお礼を言った後に頬を染めてはにかんだ笑みを浮かべた。


 かーわーいー!


 私は内心身悶えしてしまう。

 ホルトはどちらかというと目鼻立ちがはっきりしているタイプのモブ顔だ。

 だけどスチルにいても決してメインを邪魔することはなく、プレイヤーにも印象を残さないだろう。そんな適度なモブ加減……絶妙ね、ホルト。

 こんなよいモブがゲームにいたら覚えているはずだから、出演はしていなかったんだろうなぁ。

 私はメイドを呼び胃に優しいものを用意して欲しいとお願いした。

 しばらくしてメイドが温かいスープを持ってやって来ると、匂いに反応してホルトのお腹がくるると小さく鳴る。

 音を鳴らしてしまったことにホルトは顔を赤くして気まずそうに目を泳がせた。


「ゆっくり食べてね。食べられないようなら残してしまってもいいから」

「ありがとうございます。……えっと、お名前は……」

「マーガレット。マーガレット・エインワースよ」

「マーガレット様……」


 ホルトは私の名前をまるで大事なものかのように数度口にすると、こちらを見てふわりと微笑んだ。うん、極上モブ男子のよい笑顔ごちそうさまです。

 誰かさんもこれくらい笑ってくれたらなぁ。でも不機嫌だったり無表情だったりするフランも好きだしなぁ。……今のままで別にいいか。

 ホルトはスープをかなりのペースで口に運んでいく。この感じだとお替りが必要かもしれないわね。メイドにお願いしておこう。


「美味しいです、マーガレット様」

「よかった。いっぱい食べてね」


 あっという間にスープ皿を空にしたホルトにお替りを差し出すと、彼はガツガツと飢えたように……というか、飢えていたんだろうな……食らいついた。

 見つけた時のホルトの服装や、この薄い体を見ていると彼が恵まれた生活をしていなかったのだろうという想像くらい私にもつく。


「ねぇ、ホルト。貴方のこと、お話できる?」


 三杯目のスープを食べ終え人心地ついた様子の彼にそう語りかけると、彼は私の目をじっと見つめて……。


「……名前しか、覚えてないんです。それで、色々あってあの男に絡まれて」


 と困ったように首を傾げながら言った。孤児なのかと思っていたらまさかの記憶喪失……。

 ホルトの表情は不安げでどうしたらいいのかわからないと訴えかけている。


 ――拾ったら最後まで責任を持たなきゃ、ね。


 私は小さく息をつくとホルトの手をそっと握った。


「ホルト。お父様の許可が出たら、私の従者になる?」


 そう言うとホルトは目を丸くした。


「でもご迷惑じゃ……」

「そんなことないわ。あっ、もう一人小姑みたいな先輩従者がいるけどそんなに悪い人じゃ……」

「誰が小姑ですか、お嬢様」


 背後から聞こえた冷たい声に私は身を震わせる。


「えっと、とても優しい先輩従者がいてね。そう、未曾有なくらいに優しいの。その優しさは七つの大陸に轟き響き渡るくらいなのよ!」

「……お嬢様、取り繕うのが下手にもほどがあるでしょう」


 恐る恐る後ろを振り返ると湯気の立つカップを二つ持ったフランが立っていた。いい香りがする、紅茶かな。

 彼はホルトにそれを一つ手渡すともう一つを……自分で飲んだ。


「フラン、それ私に持ってきてくれたんじゃ」

「ええ。ですが私は意地悪な小姑なので自分で飲んでしまいますね」


 ……フラン、それじゃほんとに小姑みたいよ。

 私がむくれるとフランはニヤリと悪い笑みを浮かべた。はい、その笑顔が好きー!


「その悪いお顔もいいわね。好きよ、結婚して。あと飲みかけでいいからそれをちょうだい。むしろ飲みかけが欲しい」

「お嬢様、寝言は寝ている時だけに言ってください。ところで彼の具合は?」


 フランはいつも通り私の告白をスルーすると、ホルトの様子を見るためにベッドへと歩み寄った。

 そして彼の元気そうな様子を見て安心したように笑みを漏らす。


「熱はもうないですか?」

「……はい、大丈夫です」

「痛みは?」

「少し……」

「あとで先生に来てもらいましょうね」


 真横でフランがお話してる。艶のある黒髪が揺れてとても綺麗だなぁ。白い肌はすべすべだし、唇も薄くて好みなんだよなぁ。

 椅子に座って彼を見上げながら私はつい見惚れてしまう。

 ……匂い、匂いを嗅いでもいいかな。よーし、嗅いじゃうぞ。私の隣にいるのが悪い。

 横に立っている彼の脇腹辺りに鼻を寄せると頭をべしりと結構強めに叩かれた。

 それを見てホルトは目を丸くする。


「あ……あの。そんなお綺麗で、か弱そうな女性に暴力なんていけないと思います」


 彼はくいくいとフランの服の裾を引きながら抗議した。

 なんだか久しぶりに女性扱いをされた気が。しかもこんな素敵モブ男子に!


「大丈夫です、お嬢様は山に捨てても三日後には戻ってくる程度にはしぶといので」


 だけどフランはホルトの言葉をばっさりと切って捨てた。

 ……フラン、私はか弱い公爵家のご令嬢だからさすがに一週間は帰って来れないと思うわ。


「フランは優しいのよ、ただ愛情表現が下手なだけで」


 私はそう言いながらフランの飲み終えたカップをそっと懐にしまう。

 へへへ、バレてない、バレてないぞ。バレていたとしてもさすがに淑女の懐にまで手は突っ込めまい。


「……お嬢様。『不慮の事故』でその懐のカップが割れたりしたら、大変痛いでしょうね?」


 フランが目に不穏な色を湛えながらそんなことを言うので、私は慌ててカップを懐から取り出した。


「それで、その子を雇うんですか?」


 そうそう、それなのだ。

 フランには反対されるかなぁ。断固戦うぞ……!


「ええ、お父様にお願いするわ。一度拾ったら最後まで責任を持って、一生面倒をみるの」

「……お嬢様が人の一生を背負えるできた人間だとは到底思えませんが」

「み……みるったらみるの!」


 こうなったら地べたに倒れ込んで手足をじたばたさせてやろうか。

 その覚悟を決め椅子から立ち上がった時。


「……私からも、旦那様に相談しましょう。悪い者には思えませんし。ただ彼の素性が判明した際、万が一おかしなものだったら……」


 フランの瞳が光を失う。その目に見つめられるとぞわりと背筋が粟立った。

 ホルトの方から小さな悲鳴が上がったので、私は慌てて怯え竦むホルトを背後に庇う。彼はこの目に慣れていないのだ。


「容赦なく処分しますので、そのつもりで」


 フランはそう言うと食べ終わった食器などをひとまとめにして部屋から出て行った。

 ……と、とりあえずは雇っていいってことかな……。

そんなこんなでモブその2ゲットでございます(n*´ω`*n)

本日中にまた1本更新予定です。何卒宜しくお願い致します。

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