第138話.循環馬車計画
各地から人が移住してくる。
学校や孤児院、関係施設で働く人たちだ。
一月後に開校行事が迫っているため、20日かけて総合演習を行うのだ。
孤児院は早めに開院し生活が始まっている。
なお最終面接はエステリア王国国王とアシロ帝国殿下が担当した。
誰も気付かなかったようだ。
故に、職員には王国や帝国の関係者も在籍することとなる。
「では、スグル殿はこの事業に参画しないと、間違いは無いのだな?」
「はい。なんでも定期運行は苦手だとか。」
あれほど運送業に拘っていたスグル殿がか…
「それでは定期循環運行は、商業と冒険者料理ギルドに依頼するとしよう。馬車は用意できているな?」
「外回り内回り共に20台、計40台。それぞれ20名乗りを用意しました。」
「運行時間は朝は5時から、夜は7時までだったな。」
「そうですね。馬車ですから暗くなると安全性に問題が出てきますし、馬にもストレスがかかると。」
これもスグル殿からの計画書に記載されていた。
運行方法はもとより混雑予測や収益予測、定期券なる定額先払い方法や回数券など複数に渡る。
<(コンコン
「はい。」
<(「レギル様、商業ギルドと冒険者ギルドから、今回の定期馬車について担当者が打ち合わせに来られました。」
「分かった、会議室に通しておいてくれ。」
<(「承知致しました。」
ふー
スグル殿は何を目指してるんだ…
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今日は定期馬車の説明があるとのことで、ここ領主様の屋敷に来ている。
玄関で呼び鈴を鳴らすと、執事のセバスさんが会議室に通してくれた。
「それでは席にお掛けになってお待ちください。」
この会議室にはサンラの町並みを精巧に再現されたジオラマが置いてあった。
所々青や黄等の色が点滅している。
<(コンコン、カチャ
「待たせたかな」
レギル様が入ってきた。
「いえ、つい先程着いたばかりなので大丈夫です。」
「そうか」
「はい」
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「では早速だが、此度学校の開校に伴い、児童や学校関係者、施設関係者の通学・通勤のための定期行路を、君たちに任せたいと考えているが、話は聞いているね?」
「「はい」」
「うむ。では前もって渡してある資料は読んでいるかい?」
「「はい」」
「配った資料にやってもらいたいことは全て記載しているつもりだが、不明点があれば聞きたいと思うが。」
「あの、よろしいでしょうか。」
「どうぞ」
「ありがとうございます。私は商業ギルドから選抜されたグリードと申します。」
「お伺いしたいことは─────」
質:1周50分は厳守なのか。
応:厳守だ。遅いのはダメだが、早くてもダメだ。
ただ事故や事件による遅延は臨機応変に対応してもらえればと思う。
専用の通信機を馬車に積んでもらうので、営業所と連携してもらいたい。
また馬を走り回させるのではなく、1周毎に交代できるようにすること。
その周回時間には馬の交代時間の10分も含んでいる。
質:乗車人数が無くても運行するのか。
応:何時何処で乗る人が現れるかわからない。
そう言ったのを含め、一括で委託するんだ。
利用者から見て、その時間に定期馬車が走っていれば安心するだろう。
質:定員20名とあるが?
応:こちらから提供する馬車は、安全に運行できるように座席に座って貰うようにお願いする。
また人数は大人の数えで20名だ。児童の場合は3人で2人換算してほしい。
つまり、児童だけなら30名まで乗せて大丈夫だ。
大人1人と子供2人でも、大人2人と数える。
立ったままや馬車の外にしがみつくといった事が無いように。
質:休日も運行するのか。
応:勿論。本数は減らしても問題ない。
ただ最低でも1時間に3本、それ以外は収益予測に基づいて本数を決めて欲しい。
質:乗車運賃については。
応:一回の乗車で児童は10eny、大人20enyで一周一律の運賃だ。
質:我々が用意するのは営業所職員と、御者と馬だけでよいのか。
応:厩舎を忘れてないかい?
飼育に関する物も全て込みだよ。
質:では厩務員や馬の餌さ代に関しては。
応:それも込みでの委託になる。
質:それでは採算が採れないのではないか。
ダンッ!
レギルが机を叩く
「な、何を」
「"何を"じゃない! 資料読んだんだろ?」
「よ読んできました」
「本当か? お前が質問した内容で、委託に関する部分に記載は無かったのか?! なぁ商業ギルドの者だろ?お前はさ。」
「あ、あの…」
「なんだ」
「発言しても」
「言ってみろ」
「はい、私は冒険者ギルドから選ばれましたマリージと申します。」
「…」
「では。グリードさんの資料の読み込みが足りないか、認識のずれが有るのではと思いました。彼が危惧しているのは、赤字でも回すものなのかということかと。あ、注釈の補助金を踏まえての質問です。それに資金の出所も…」
「なぁ、確かにな店を構えたり、個人で運用となると利益重視となるよ、生活が掛かってるしな。でもな、この定期馬車の主体は学校なんだよ。学校を運営するに当たって、関わりのある人を時間が間に合うように送り届けるためのものだ。」
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「スグル殿、この定期馬車は必要か?」
「あぁ、いくら徒歩で通えるといっても、住宅区域か商業区、工業区、農業区と接点をもつ幹線街道に隣接してるんだ。安全に通ってもらうには、馬車での送り迎えが良いのだけど、それだと単なる送迎になっちゃうし、発着も時間も本数も決まっちゃうでしょ?。どうせなら他の住民の足にもなれば良いと思ってね。」
「しかし運営するには資金繰りが難しいんじゃないか?」
「うーん。まぁ経営観点から見れば手を引く案件かもだねー。でも、学校と同じく基金で運営する事業なんだよ。採算はあまり気にせずやってもらって、あ、もちろん決算書は出して貰うよ?改善出来るところは手を加えたいからね。」
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「金が掛かりすぎるなら何らかの対策を講じる必要は有るだろうが、あくまで主体は学校だ。資金はスグル殿が拠出する基金で賄う。補助金は予算を越えた場合に決算書から妥当性を判断して支給されるが、この監査は第三者の観点で行うためエステリア王国とアシロ帝国が担当することになる。」
「王国と帝国がですか?」
「あぁ、災害の復興でお世話になったそうでな、何かお返し出来ればと、今回スグル殿が立案した学校・孤児院の運営に関して支援してくれるとの事だ。ん?、サンラは独立を維持するし、両国からの干渉は受けない。そもそも、職員を広範囲に募集をかけているんだ、無関係にはならないだろ。」
「あと一つ質問させてください。」
「ああ」
質:最盛期の朝8時台は馬2頭立てで5分間隔で運行しますが、
1周40分(交代時間を除く)では最低でも32頭、交代休憩用を含めれば50頭は必要と思います。
では昼などの本数を減らす時間帯、馬は遊ばせておくのですか?
応:遊ばせる訳ではないが、待機させておく必要はあるだろう。
毎回、同じ馬に同じ時間に対応させる訳にも行かん。
体調面も見てローテーションさせないとな。
御者は交代で回すようにすれば良い。
─────
ようやく説明が終わった。
最後まであの2人は、この循環馬車によって産み出される雇用や需要が見抜けてなかったな。
しかし信号機と横断歩道の設置か、これで喧嘩(衝突)や事故は減るのだろうか…
レギルはジオラマを見て呟く。
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