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さようなら、レーヴァテイン(3)


それからの世界の事を、少しだけ語ろう。



「帰ってくるのがおそーーーーいっ!!」


「げぼあっ!!」


滅びの危機を迎えた世界。 リイド・レンブラムが、アイリス・アークライトが守った世界。

天使と神の総攻撃を受け、滅びかかった世界。 文明は崩壊し、人々は絶望のどん底に突き落とされていた。

決戦の傷跡は地球上の全てに残り、あらゆる命が消えていった。 そんな後の世界でも、人は確かに生きている。

エプロン姿のエリザベスはカイトの頭に叩き付けたフライパンを片手にうずくまるカイトを見下ろしていた。

最後の決戦から八年。 大人になった少年たちは、滅びかけた世界の中で営みを絶やさなかった。 少しずつ、ゆっくりと再興を試み、世界はか細い希望ではあるものの、それを失ってはいなかった。


「わ、悪かったって……。 でも仕方ないだろ? 再興作業があるんだから」


「むー。 仕事とあたし、どっちが大事なのよ!」


「それはお前に決まってる」


「…………」


自分で言っておきながら、余りにも当たり前のように口にしたカイトの言葉に顔が真っ赤になる。

上着を脱いでエリザベスの髪をくしゃくしゃと撫で回すと、カイトはソファの上に腰掛けた。 二人は殆ど瓦礫の山同然だったSIC本社に戻り、何とか作った仮住まいで生活を送っていた。 あらゆる組織が崩壊した世界の中、出来ることは本当に多くない。

ぶつくさ文句を言いながら料理を続けるエリザベスを横目に、カイトは写真立ての中の写真をじっと見つめていた。

かつて子供だった頃、四人で出かけた遊園地。 まだ何も知らない子供だった頃。 そこには絆の全てがあった。

それを惜しいと思わないといえば嘘になる。 けれど大人になった今、ずっと同じところには居られない。 大人になるということは、そうした過去を乗り越え、気持ちを乗り越え、そしてそれぞれの生活を受け入れるという事に他ならない。

拘りはする。 忘れられない。 それでも、引きずったりはしない。

あの日、アイリスは帰らなかった。 すぐにアイリスを追い、エアリオも世界を発つ。 せっかく平和になった世界なのに、そこには仲間たちの姿がない。

それでもカイト・フラクトルは信じていた。 当たり前のように。 どこか遠い場所で、今も彼らは生きているのだと。 彼らは頑張っているのだと。

そうして何かを変えるための戦いを止めない限り、守りたいものを守り続ける限り、彼らの絆はずっと繋がっているのだから。


「なあ、エリザベス。 結局お前、ユーテリアにつれてってやれなかったな」


「んー? 遊園地のこと? そんなのどうでもいいわよ。 あたしは、今のままで十分だし」


「そっか……。 俺さ、お前の事好きだよ」


「な、何改まって言ってんの……? 恥ずかしいやつ……」


「いや、何度でも言いたくてさ。 俺、これでよかったよ。 こんな世界でも、希望が見えなくても。 それでもお前がいてくれたら俺、それでいい」


窓の向こうに広がる星空。 神様が世界をきれいにして残していった贈り物。

これから先、人は人同士での争いをやめられるだろうか? それは、とても難しいことだろう。

神という脅威も、サマエル・ルヴェールという監視者もいなくなった今、人を制する事が出来るのは人だけ。 だからこそ難しい。

争いはやはり、繰り返されるだろう。 それがない世界は、確かに綺麗かもしれない。 悲しみがないかもしれない。 けれども、幸せだってない。

暗闇の中をさまよい、心の中の光を信じて進むこと。 そんな頼りない世界だって、それで十分なのだと思う。


「カイト、どうかしたの……?」


「思い出してたんだ、この世界に起きた事。 あいつらの事。 離れててもずっと忘れない。 忘れないよな」


カイトの隣に立ち、エリザベスは優しく微笑む。 繋いだ手がきゅっとお互いの存在を結びつけ、二人は空を臨む。


「忘れないわ。 お兄様の事も、皆の事も。 ずっと忘れない。 忘れられるわけない――」


世界と世界は隔たれたまま。 それを追いかけることはしない。

ここで待つことも、一つの役目。 そして今この世界を守り見届ける事も、一つの役目なのだ。


「でもいつかあいつらに会えたら――――」


「うん。 きっと――」


二人はお互いを見つめ合い口付けを交わす。

星空の海の向こう、時の流れは違っても。 世界の壁は違っても。 それでもどこかで、彼らも生きていると信じているから。




「おーい、もしもーし? 生きてますかー?」


呼びかけの中、少年は身体を瞳を開く。 その視線の先、黒髪の少女が手を振っていた。

それは波打ち際。 打ち上げられた少年はずぶぬれの姿のまま身体を起こす。 ぽたぽたと水滴が髪の先からこぼれ、今にも風邪を引きそうな様子に少女は苦笑する。


「こんなところでどうしたの? もしかして行き倒れ?」


「…………ここ、は?」


「うーん、ヴァルハラの真ん前。 なんでこんなところで倒れてるのか知らないけど、風邪引いちゃうよ?」


「……ありがとう。 でも、行かなくちゃ……。 ヴァルハラに」


よろめきながら立ち上がる少年を支え、少女は苦笑する。 少年はじっと彼女を見つめ、ぽつりと呟いた。


「君は、姉さんによく似ているね」


「そうなの? うーん、残念ながら弟はいないなあ。 君、どこから来たの?」


「…………遠い場所。 月から来たんだ。 この世界の可能性を、知りたくて」


少年――ゼクスがたった一人でそんなところにいる理由。

あの日、世界の呪縛が一つ解かれた日。 一人一人が自分のやりたいこと、やるべき事を考え行動に移した。

ゼクスは知りたかった。 リイド・レンブラムという人間が残した世界の結果を。 そしてこの世界にとって何が本当にいいのか。

アイリスがそうしたようにリイドがそうしたように、この世界を変えてみたいと思った。 それは少年の中に芽生えた一つの願い。 全ては彼らの物語を無意味にしてしまわないように。

しかし少年は気づいていなかった。 そうして彼が世界を渡り、その場所に現れた意味を。 そしてそれが招く、物語の続きも。


「君、名前は?」


「――名前は」


ゼクスは一瞬迷った。 そしてそれから自ら苦笑を浮かべながら、顔を上げる。


「――――リイド。 リイド・レンブラム」


「リイドくん、かあ。 いい名前だね。 私はね〜」


「知ってる。 オリカ・スティングレイでしょ?」


どこかの世界のオリカと、どこかの世界のリイドが出会う。

課目で未発達なリイドと、そのリイドを拾った笑顔の少女。


「えー、すごーい!? なんで知ってるの!? もしかして運命!? 運命かな!?」


「どうだろう……。 とりあえずぼくは……ボクは、着替えたいよ」


「うん、連れてって上げる! 運命の王子様かもしれないしねっ!」


「……ははは」


少年はずぶぬれの姿で空を仰ぐ。

あの時リイドがとった行動の意味はわからない。 そしてこの世界の意味も、自分が何をすべきなのかも。

だからそれが間違いだとしても。 同じ事を繰り返す愚挙だとしても。 それでも――やりたいから。 進みたいから。


歩き出す。 砂浜を一歩一歩。 二人の足跡が、点々と続く大地。 その先にある、物語まで。




音が聞こえる。


それは『声』。 それは『祈り』。 それは『願い』。

音が導く世界の彼方から、呼ばれているその場所まで、私は歩いてきた。

大切なものは何? 守りたいものは何? 繰り返される自問自答の果てに行き着いた結論。

たとえ私の立つ場所が荒れ果てた荒野だとしても、いつかきっとたどり着いて見せる。

強い思いを胸に立ち向かおう。 まだ見ぬ世界の大いなる矛盾へと。

この世界が貴方を否定するのなら。

私は、世界を壊して貴方の元に駆けつけて見せる――。


「行きましょう――オルフェウス」


真紅の巨人。 私が願い、望んだその色を背負い、私は行く。

世界は枠にとらわれてなんかいないし終わってもいない。

それを撃ち抜いて、その先にある未来までたどり着いてみせる――。



沢山の悲しみがあった。 沢山の願いがあった。 沢山の喜びがあった。

彼女はかつて私に言った。 『愛こそ力』と。 その言葉、今の私ならば理解出来る。

凍てついた心の先、たどり着いた果てない平原で、私は確かに彼の後姿を見た。


そう、だからこれは夢だ。


彼は、あの頃とは違う大きな背中で振り返り、それからあの頃と変わらない優しい笑顔を浮かべて私に告げた。


「       」


「先輩…っ」


手を伸ばし、その名前を口にすると彼はどんどん遠くに消えてしまう。

支離滅裂な様々な景色な頭の中を駆け巡り、覚醒していく。

夢から覚める。 あと少し、もうほんのわずかな間しか、彼に届かない。


「待って――!! お願い、もう少しだけ……!」


遠ざかっていくその笑顔が何かを呟いて、私は目を見開いた。

気づけばそこは自室。 高級感溢れるホテルのように清潔な内装の中、朝日を浴びて髪に手を伸ばした。


「……んんんんん……。 寝すぎた……?」


そういえば昨日は何をして眠っただろう。 カーテンを開け放つと見えるヴァルハラの近代的な景色を目の当たりにし、静かに息を吐き出した。

所詮は夢。 でもどうしてだろう、ただの夢には思えない。 彼は今でも、私との約束を守ろうとどこかで頑張っている気がする。

いつも届かない、指先。 後ほんの少しだけ長ければ、彼の居場所まで通じるのだろうか――。


『お姉さま〜! おはようございますです! お目覚めですか?』


扉越しに聞こえてくる明るい声。 


「…はい、もう起きていますよ」


『早いです!? 昨日ほとんど寝てないんじゃないですか…? もう少し、寝てますか?』


「ううん、大丈夫。 それに――隊長がいないんじゃ締まらないでしょう?」


苦笑しながら袖を通す上着。 そこに描かれた大樹に巻きつく龍のエンブレムは、新たな私の居場所の証。

鏡に映る、あの頃とは違う自らの姿。 けれども想いは変わっていない。


「……行きましょう、メアリー」



先輩との別れから数年。 私は今だ戦いを捨てきれないで居た。

どこなのかわからない世界で、かつて自分が終わらせた戦いを繰り返そうとしている。

あの頃と違う事といえば、今はそうして戦う事を自ら選んだという事だろうか。

何故そんな未来を選んだのか、自分でもわからない。 大人しくもとの世界に帰ればいいのに、わざわざ世界の争いに身をなげうつのか。

それは、私が永遠の命を得たからかも知れない。 どこにも逃げ場などないのだ。 世界全てにとって私は異分子に他ならない。

だからこそ、私は一つ一つの世界すべてと向き合えるだけの時間がある。 その途方もない気が狂いそうな時間を、私は答えを探す旅に使う事にした。

あの日、絶望のどん底に突き落とされた私は先輩と向き合い、そして先輩に思いっきりボコされて、ようやく思い出したのだ。 自分が何を願っていたのか。 そしてこれから先どう生きていけばいいのか。

本当はわかっていた。 わかっているフリをしていた。 自分に言い訳をして、仕方がないと思い込んだ。 でも違う。 私は納得がいかない。 こんな世界、納得がいかない。

だから全部変えてやる。 片っ端から綺麗にしてやる。 馬鹿馬鹿しいと先輩は笑うだろうか。 全てを救うのは無理だと笑うだろうか。

だったらどうだというのか。 関係ねえのだ。 そんなの知ったことではないのだ。 だから私は、打ちのめされたいのだ。

もうどうしようもないと、本当に心の底から打ちのめされるまで頑張ってみたいのだ。 そうしなければ現実を受け入れられないのだ。 馬鹿なのだ。

でも今は何故か、そんな事をすがすがしく思う。 自分が子供っぽくて我侭で、どうしようもないくらい馬鹿で。 過ちを何度も繰り返すけれど、それでいいと思えるようになった。

それはきっと諦めで、でも諦めではなくて。 きっと強さと呼んでもいい、そんな煌き。 例えそれが無謀と紙一重でも。



「アイリス」


通路で待っていたのは、ジェネシスの制服を身に纏ったユピテルだった。 歩みを止めない私の歩調に合わせ彼も歩き出す。


「これでいいのかい?」


答えはわかっているくせに、彼はそんな事を口にする。

信じられるだろうか? この笑顔を。 そしてこれからもずっと、彼の言葉を。

まだ消えない思いがある。 沢山の迷いがある。 それでも私はかまわない。 かまわないと決めたのだ。 もう、迷いながらでもいい。 明日に進みたい。

足を止め、ユピテルを見る。 優しく微笑むことが出来ただろうか。 不安なのは変わらないけれど、でも、一人じゃないから。


「ユピテルこそよかったの? 私と一緒に来て」


「何を言ってるんだか。 ボクがいなくちゃエクスカリバーは動かないだろ?」


「そうね。 でも――それだけじゃない」


ユピテルを見つめ、そっと唇を重ねる。 抱き合い触れ合う鼓動が、温もりが、一人ではないと教えてくれるから。

彼は私を優しく抱きしめる。 これから私がやろうとしていることはとても馬鹿馬鹿しく、答えのない戦いだ。 とてつもなく不安なのだ。 彼はそれを、優しく解して行く。


「約束したからね。 ずっと君を守るって」


どんなときでもただ傍に居てくれた。 守っていてくれた。 今の私にとって、救いそのものである存在。

永遠という時間を、共に歩けるパートナー。 そしてずっと、これからも支えあっていける関係。 だから私は、馬鹿げた賭けにだって出ることが出来る。

世界全てを敵に回すような、人の悪意全てを否定するような馬鹿げた戦いにだって、臨むことが出来るんだ。


「あー、お姉様! 何してるんですか?」


「「 わあっ!? 」」


突然現れたメアリー。 二人してあわてて距離を置き、あさっての方向を眺めながら咳払いする。 メアリーはおかしそうに笑いながら近づいてくる。


「何いちゃいちゃしてるんですか? 早くしてくださいよ〜」


「いっ!? いちゃいちゃなんてしてないわよっ!! 何言ってんの、もう!」


「あはは……。 ボクはそれでもいいんだけどね……あいたあっ!?」


ふざけた事を言っているユピテルの足を思い切り踏みつける。 まったく、こっちは顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに、こう余裕で居られるとむしろ腹が立つ。


「メアリー、これから始める戦いはとても馬鹿げたものよ。 本当に付き合っていいの?」


「はい! ゼクスくんも、自分の信じるものの為に戦ってます。 他のみんなもそうだと思います。 だからメアリーも、お姉様の戦いを見届けてあげたいんです」


結局私たちはばらばらになってしまった。 世界さえも違う、声も届かない場所に散った仲間たち。

それでもいつか、その運命が交差することを信じている。 そしてそうならなかったとしても、私たちはきちんと戦い抜いてから死ぬのだと胸を張って信じることが出来る。

悲しみと苦しみと絶望を共有した私たちは、そしてあの世界で過ごした全ての記憶は、私の中でずっと息づいているから。


「さあ、始めましょう! お姉様が満足行くまで! どこまでもついていくですよ!」


朗らかなメアリーの笑顔に心が洗われるようだった。

表舞台に立つのは私の役目。 だからユピテルをその場に残し、私たちは目配せだけで通じ合う。


そう。 だから。 これから始めなければならない。


夢の終わりでも続きでもなく。 私たちがそれぞれ望む夜明けの為に。



空に鳴り響く歓声。 大地に立ち並ぶ数え切れぬ程のヨルムンガルド。

その隊の前に、私と同じ制服に袖を通した兵士たちが並んでいる。

私はその前に出て、台の上のマイクを手に取る。


「――我が隊の隊長である、アイリス・アークライト大尉からのご挨拶です」


舌ったらずな甘いメアリーの声はこの緊張した場では少し間抜けに聞こえた。

苦笑しながらその案内に従い、私は静かに息を吸い込んだ。

脳裏に浮かぶあの懐かしい日々を取り戻すための、大いなる一歩を踏み出すのだ。


「まず、始めに皆さんに自覚して欲しい事が一つあります」


静寂に包まれる広大な大地。 この場に存在する全ての命を背負い、私は戦えるのか。

否、戦わねばならないのだ。 逃げる事など許されない。 全ての罪を背負い、全ての業と共に前に歩むと決めたのだ。 そう――、

たとえそれが、世界を犠牲にする行為だとしても。


「我らの名はジェネシスアークッ!!! 真の正義は、我らにありッ!!」





⇒さようなら、レーヴァテイン(3)





―――彼を、取り戻す為に。


吹きすさぶ風の中、私は瞳を開き、強い笑顔を浮かべる。

風に乗って届く淡い潮風の香り。 腰に手を当て、マイクを手繰り寄せる。



さあ、貴方まで声を届けよう。


変わり行く、この世界の歌を。


聞こえていますよね? 先輩。


きっとどこか、遠くの世界で。


見上げる青空。 それからもう、私は振り返らなかった。


強く世界を見渡し、自分が選んだ道だけを見つめる。


その先がきっと、あの懐かしい日々に続いていると信じて――――。





「――――リイド」


誰かの優しい声にふと瞳を開く。

先ほどまでの景色はどこへやら、そこは地獄のような場所に変わり果てていた。

全ての命が燃え尽き灰燼に帰す。 瓦礫と朽ち果てた命の残骸が無残に転がる大地。

いや、ここは大地なのだろうか? 雲があまりに近く、あまりに太陽が近い。

彼女、名前も思い出せない彼女はボクを抱きかかえながら穏やかに微笑んでいる。

胸の辺りがやけに苦しい。 自分の体を目で追ってようやくこれからボクがどうなるのか理解する。

全身血まみれ。 それは紛れも無くボク自身の血液に他ならない。 つまりは死に体。

いずれはこのかすかな感覚すら無へと消え去り、彼女の中のボクもまた思い出に変わる。

何もわからないというのに心だけは妙に安らかで、まるで既にボクの命は失われていてとっくの昔に幽霊かなにかになっていて、心だけここに浮いているような感覚。

何せよ体の感覚はないのだから仕方ない。 痛みもなければ、ぬくもりも無い。

酷く寒いということだけが理解できる。 それを少しでも和らげようと彼女は体を寄せる。

ああ、どうやら彼女は怪我をしなかったらしい。 それは何よりだ。 それは幸いだ。 だったらいい。 ボクはいい。 死んでも、いい。 彼女が無事なら、きっとボクの人生には何か意味が残るんだ。 だからいい。 大丈夫だ。


「全部終わったよ、リイド。 終わったんだ。 もう……大丈夫」


指差すその先には何か……そう、巨大な人のようなものが膝を付いていた。

巨大な鋼の翼は今は朽ち果て、その全身から血液を零しながら、命尽きてそこで死んでいた。

ボクがアレに勝ったのだろうか? なんだかもうよくわからない。 何もかも、わからない。

意識が薄れていく。 何も判らなくなる。 風が気持ちいい。 最後はこんなでも、かまわない。


「だからありがとうリイド。 ありがとう。 帰ろうリイド。 帰ろう、一緒に」


誰かの腕の中で死んでいけるのならば、それはきっと幸せだ。

それがもし恋する人や愛する人であったのであれば、それはきっとこの上なく。

だからボクはここで死のう。

いつかまたこの夢の続きを見るために。



全てが蒼と白に埋め尽くされている。


まぶしい太陽の下、ボクはそれに手を翳した。

光が嫌いなわけじゃない。 ただ、全てを容赦なく照らし出すのは無作法だとは思うけれど。

ため息をついて歩き出す。 世界は今日明日に終わったりなんかしない。 だからボクの命も終わったりなんかしないし、いつまでもそれは続いていく。

とりあえずはそんな毎日が続くのだと思っていた。 信じていたのかもしれない。

けれど望んでいた。 世界はもっとスリリングでもっとボクに相応しく在るべきなんだって。

けどそんなこと誰にも言えないし誰も知らない。 でもきっとみんなそうなんだろうと思っていた。

だから下らない毎日を繰り返す。 そうしていつか来るはずの予想通りの未来を待っているんだ。

そんなものが来ないということも、それがただの蒼い幻想に過ぎないということも、


まだボクたちは、わからないのだから。



霧のように薄く広がる雲。

幻想的な景色の中、ボクは隠れてしまった太陽に一瞥をくれる。

いつまでもそれがそこにあるとボクは知っているのだから。


「おい、何チンタラ歩いてんだよ」


背後から突き飛ばされ無様に転んだ。

誰が突き飛ばしたかには興味がない。 「そいつら」は勝手に笑い声を上げながら去っていく。

耳にしたヘッドフォンから流れるクラッシックの音量を引き上げる。

仰向きに寝転がると、太陽はまた雲の隙間からボクを照らし出していた。


「――――行こう。 こんなところにいても、なんにもならない」


埃を払って歩き出す。


全てが無価値、無意味、無意義、それでもボクは生きている。 生きている限りは何かしなくてはならない。

そんな当たり前で単純なことの何と苦痛なことか。


青空に響き渡る警報。

町を貫き空へと舞い上るその塔の中を何かが瞬時に通過していく。

空を目指して投げ出されるそれはまるで引き絞られた矢のようであり、

同時に何か途方も無いものを目指す人の夢の形のようにも見えた。


「レーヴァテイン、か」


ボクらの町には、ロボットがいる。

全長40メートルの巨大な人型兵器。

操っているのはボクと同年代の学生で、そいつは人類の敵と戦っている。

それはボクらにとっては当たり前の景色であり、関係の無い世界でもあった。

だからボクはヘッドフォンに集中する。 何もかもから自分という世界を閉ざしてしまうために。

だって、ボクには関係のない話で。 きっと、主人公はボクではない誰かで。 だから、ボクは――。


「リイド」


ヘッドフォンから爆音でBGMが流れているのに、その声はとてもクリアに聞こえた。

振り返るとそこにはとてもきれいな少女が立っていた。 当たり前のようにそこで微笑む少女にボクは振り返り、それから名前を呼んだ。


「おはよう、エアリオ」


駆け寄ってきた彼女の手を取り、ボクは笑った。

当たり前のように手を繋ぎ歩く日々。 そんな毎日。 でもボクはそれでいい。 主人公でなくたっていい。

空を見上げる。 それはプレートに覆われていて、とても絶景とはいえないけれど。

晴れた霧の向こう側、差し込む光に手を翳す。


「うん……。 いい天気だ」


何故か、頬を涙が伝っていた。

エアリオは優しく微笑み、ボクの手を引き歩く。

仕方ないなあって小さく零して、ボクはそれについていく――――。



かつて神が鎮座した部屋。 白い空間の床には沢山の硝子が散らばり、世界を映し出していたモニターには今は砂嵐が映し出されている。

その中の一つ、終わってしまったはずの世界たちの物語を映し出す。 そしてまた一つ、一つとモニターは世界を映し出す。

誰かに見せるためではなく、ただそこにあるために。 そうして紡がれた物語たちは、いつか重なり合う事があるのだろうか。


それは、僕にもわからない。


だから、それからの世界の事を少しだけ語ろう。


いつかそれらが、交わる日を信じて――――。




霹靂のレーヴァテイン〜2nd Paradox〜




The End...


おわったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!


どうも、神宮寺飛鳥です。


はい。終わりました。終わってしまいました。

燃え尽きました。一気に書いてしまいました。いかがでしたでしょうか?

半年以上続いたこの霹靂のレーヴァテインというお話もこれにて終了です。ひとえにここまで続けられたのは読者の皆さんのお陰だと思います。

色々とツッコみたいところはあるでしょう。僕も説明してないところが沢山あります。いろいろと設定は考えてありましたが、それらをいちいち説明する事はしませんでした。

あとは各々の解釈で物語を感じてくれたらそれが最高です。

とにかく今は燃え尽きました。もう六時間以上ぶっつづけで執筆しています。しぬ。


えー。こんな終わりになりましたが、どうでしょう。こんだけ続いてこれかよ!といわれたら泣くしかないです。でもまあ、こんなもんかとも思います。

レーヴァはすごく思い入れのある作品になってしまいました。本当に長い事やっていたので、明日からレーヴァのこと考えないのかと思うと少し寂しいです。

これだけ長い作品を書いたのは初めてで、もの凄まじい文章量になってしまいました。それでもここまで読んでくれる人が居る事を本当にありがたく思います。

これにて霹靂のレーヴァテインというお話は閉幕です。これじゃ納得できないという人も、もういいよという人も、続きがみたいという人も、残念ですがこれで終わりです。

とりあえずとにかく今日はここで寝ます。このままハイ終了じゃあれなので、残りの設定資料やあとがきなんかを明日まとめてUPしようかなと考えています。

何はともあれ、本当にありがとうございました。皆さんの心の中に少しでもリイドたちの活躍が残ってくれたら幸いです。


それでは、今までにない最上級の感謝を込めて。


とりゃー。


はい。

それでは寝ます。おやすみなさい。

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