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集え、紅き御旗の下に(4)

ラスボスっぽいのあらわる。

「駄目だ……数が多すぎる! それにこいつら、統率力が……っ!!」


「全体城下町まで後退ッ! 民間人の避難誘導までの時間、もう少しだけ稼げよッ!!」


エルサイム王国海岸部には大量の残骸が黒煙を上げて沈黙していた。

次から次へと上陸してくるジェネシスのヘイムダルは圧倒的な物量でエルサイム軍を制圧し、強力な統率力で陣形を組み、ゆっくりと、しかし確実にエルサイムの戦力を屠りながら進軍してくる。

海岸沿いに防衛ラインを敷こうと何とかくらいつくエルサイム軍だったが、激しい空爆と上空からのミサイル攻撃、ヘイムダルの新型銃器に成す術もなく撃破されていく。

城門まで後退しながら射撃で応戦するエルサイムのヨルムンガルドが一機、また一機と撃墜され陣形がずたずたにされて行く中、兵士たちはそれでも諦める事をしなかった。


「ナイツフラッグ隊! 何機残った!?」


「十二機中三機……ひでえ状況だ。 そっちは?」


「同じく、十二機中三機だ。 ソード、ランス、アロー隊とも連絡が付かん。 絶望的だな」


旧式のヘイムダルとヨルムンガルド。 その性能は元々ヘイムダルのほうがヨルムンガルドより若干優れている。

エルサイムのヨルムンガルドは専用にカスタマイズが加わっているものの、それでも物量的に十倍以上の数で攻めてきているヘイムダルたちを撃退するのは限りなく不可能なことだった。

そもそも、戦力の全てを海岸に集中させることは出来なかった。 国土の反対側では多くのヨルムンガルドに守られ、民間人たちが脱出の用意をしているのだ。 ここで出来ることは既に時間稼ぎだけであり、死を覚悟したものだけがこの場に留まっている。


「元よりこの命は王に救われたもの。 一度死んだ命なら、今ここで捨てる事に何の迷いもない」


「同感だ。 せめてお互いナイト、チャリオット隊のリーダーとして、ヘイムダルの三機でも落としてから死のうぜ」


「三機でいいのか? では、私は五機道連れにしてみせよう」


「言うねえ……。 ま、行くか!」


崩れた塀の影に隠れていた満身創痍の二機がライフルを構えて突撃を仕掛けようとした次の瞬間。


「なんだ!?」


「紅いフォゾン砲……まさか、味方なのか……?」


遥か後方、城の上に長大なフォゾン砲を構える真紅のヘイムダルの姿があった。

刹那、真紅の光が十字に輝き、放たれた光の刃は海岸部を一瞬でなぎ払い、すさまじい爆発を巻き起こした。

一瞬で密集していた数十機のヘイムダルの残骸が宙に舞い上がり、吹き上がる火花を見て兵士たちはポカンと口を空けたままその光景を呆然と眺めていた。


「……なんだ、今の」


「火力が違いすぎる……。 エルサイムの機体じゃないが――――あれは」


「『魔弾』だよ……。 ギャラルホルンの魔弾。 帰ってきてたのか……」


生き残った僅かな兵士たちは振り返り、真紅のヘイムダルの勇士を見た。

その姿は激しい熱を帯びた銃身により陽炎のように歪み、幻影のようでもある。 しかし勇壮なその姿に誰もが心を震え上がらせた。


「……そうだ、まだ負けたわけじゃない」


「ああ! あんな女の子だけに戦わせてちゃリーダーの名が泣くぜ! ナイツチャリオット隊、全員続け!!」


「同じくナイツフラッグ隊突撃する! 指揮官の死んだ隊の連中は私たちの指揮下に入れ! 魔弾の援護、無駄にするなよっ!!」


一斉に湧き上がる歓声と共に全ての機体がライフルを手に、弾薬が底を尽きた機体は刀剣を装着し、前線に向かう。

燃え上がる海で戦闘が再開される。 浮き足立つヘイムダルの残存勢力に突撃するエルサイム軍。 その後方でギャラルホルンの魔弾――アイリス・アークライトは続けて狙撃を行っていた。

狙うは上空の飛行戦力。 最大出力で放ったギャラルホルンの一線は右から左へと航空戦力を薙ぎ払う。 続けて海上の戦闘空母。 同じく狙撃モードのギャラルホルンで一蹴する。

艦隊を失ったヘイムダルたちはそれでもまだ数が多く、圧倒的な物量を持つ。 しかしそれでも再び気力を取り戻したエルサイム兵たちはすさまじい気迫で剣を振るった。


戦いはまだ、続いている――。



⇒集え、紅き御旗の下に(4)



「ちょ、ちょっと!! 君たち君たちっ!! こっちこっち!!」


地下通路を抜け出そうと必死で走り続けるエアリオたちを呼び止める必死な声。 あわてて立ち止まり牢獄の中を覗き込むと、同盟軍の兵士たちがまとめてぎゅうぎゅう詰めにされていた。

呼び止めた張本人はイオス・イグラートだった。 というより、彼以外には声を上げられる人物がいないほど、一つの牢獄にぎゅうぎゅうに押し込まれていたのである。


「こ、こっち! ねえ、ちょっと、出してくれないかな!? 君たち今から逃げるトコなんでしょ!?」


「……すごいことになってるな。 男女共に同じ牢獄……しかもこんな狭い空間か」


「そりゃここにつれてきた仮面連中にいってよ! あいつらほんと何考えてんだか……っ! とにかく出して! これ以上大佐と密着したくなあいっ!!」


「恥ずかしがる事はないぞイオス君。 私は気にしない」


「僕が気にするんですっ!! とにかくロックを!!」


ロックはカードキー方式になっており、そのカードキーは平然と向かいの監視席に無造作に放置されていた。

あわててエンリルがカードキーで鍵を解除すると中から一気に雪崩のように兵士たちが飛び出してくる。


「いたたた……! た、助かったあ……! ホント、ありがとう!」


ありえない方向にずり落ちたバンダナを結びなおしながらイオスは笑う。 続いて同盟軍の兵士たちも安堵の表情を浮かべながら立ち上がる。


「しかし、何が起きているのだ? 行き成り牢獄に押し込められたので状況がまるで把握出来ん」


「カグラ社長が出してくれるかと思ったんだけど、どうやら君たちもそれどころじゃないみたいだね。 もしかしなくてもクーデター?」


「もっとたちがわるいかもしれん。 とりあえず一緒に来るか?」


「うん。 こんな一大事に子供だけには任せて置けないからね」


胸を叩き、穏やかに微笑むイオス。 頼りになるとはいえなかったが、その笑顔はなんとなく焦る一同の胸をほっとさせた。

押収されていた武装を回収し、次々と階段を上って格納庫に向かっていく兵士たち。 それに続くようにしてエアリオたちも駆け出した。


「一先ずはSFの奪還が必要だ。 機体さえあれば、この暴動も私たちで鎮圧する事が可能だろう」


「あーあ……。 うちのちびっこ社長、もしかしてこれ想定してんですかね……」


「はっはっは! まあ、彼女ならありえないことはないだろう。 一先ずは格納庫の確保が先決だ。 走りながらでかまわんから、状況を説明してもらえるか?」


走りながら説明をするカロードたちの背後、エンリルは浮かない表情を浮かべていた。 真横を走るエアリオが首をかしげると、エンリルは口元に手を当て目を細める。


「いえ……。 どうしてあんな無造作に拘束してあったのか、少し疑問に思ったもので」


「まあたしかにてきとーにもほどがあったな。 そういえば何度か見かけたけど、あの仮面をつけた兵士はあんなにうじゃうじゃどこから沸いてきたんだ?」


「はい、そこなんです。 あれだけの数……そう簡単には用意できませんし……隠れてと成るとより難しいはず。 あれだけの数のヘイムダルも、一体どこから――」


二人がそうして話していると、すぐに格納庫に出る事が出来た。 格納庫では既に同盟軍の兵士たちがルドルフと話し合っており、カイトがレーヴァテインのコックピットで操作をしているのが見えた。


「カイト!」


「やっと来たか。 遅かったな」


コックピットから身を乗り出し、軽やかな動作で大地に下りるカイト。 その身体能力が以前よりも強化されているのは明白だった。

カイトに駆け寄ったエリザベスはその手を取り、周囲をくるくると回り、カイトの安否を確認する。 やがて怪我一つない事を悟ると、胸に手をあてほっと息を付いた。


「みんな心配かけたが無事復活だ。 レーヴァテインには、俺が乗る」


力強く頷くカイト。 その様子を見て全員が胸を撫で下ろした。 カイトは以前のカイトとは違う。 もうきっと、レーヴァテインに乗っても大丈夫だろう。 そんな風に思わせるくらいの説得力が今の少年の瞳には宿っていた。


「本当にそれでいいんだな?」


少女たちを押しのけ前に出たのはカロードだった。 正面から見詰め合う二人は張り詰めた空気を演出する。

しかし、カイトはふっとやわらかく微笑むと、それから隣に立っていたエリザベスの頭をくしゃりと撫でた。


「ああ」


「……? なに?」


「……男同士の話だ」


「? お兄様?」


きょとんと目を丸くするエリザベスを間に挟み、二人は笑いあう。 それからすぐに互いに背を向けると、カロードはウロボロスに向かってしまった。

何が起きたのかわからないでいる少女一同は首をかしげていたが、カイトだけは満足そうに笑みを湛えている。 それから全員の顔を見て、頷く。


「俺たちの手でジェネシスの暴走を止めるんだ。 この世界は、俺たちが変える」


カイトの言葉に全員が頷いていた。 かつてリイド・レンブラムやスヴィア・レンブラムがそうであったように、彼は今皆の中で大切なウエイトを占める存在になっている。

そしてそんな存在にまで成長した事はカロードにとっては喜ばしい事であり、さびしいことでもある。 操縦用のグローブをはめながら遠巻きに仲間たちを眺め、愛機ウロボロスを見上げた。


「……さあ、もう一仕事だ。 行くぞ、ウロボロス」


幾度も共に戦場を駆け抜けてきた愛機は何も言わずそこにただ佇むのみ。

しかしそれでも、語るには十分すぎる程であった。



「まずは滑走路の確保が必須事項だろう。 SFさえ取り戻す事が出来れば、この暴動は我々で鎮圧が可能だ」


図面を広げるサーギスの周りを一同で取り囲む。 図面には格納庫、カタパルトエレベータ、それから滑走路と国外への逃亡ルートが表示されている。


「SFは滑走路にて監視されていると思われる。 が、恐らく滑走路そのものに割いている戦力は全体の何割か程度だろう。 それほど多くはないのなら、アーティフェクタであるレーヴァテインで十分撃退可能だ」


「つまり俺の仕事は滑走路の掃除か……。 おっさんたちはどうやって滑走路まで移動するんだ?」


「ここから滑走路に出るための最短ルートはカタパルトエレベータを経由するルートだが、レーヴァテインが出撃するということはここは開放されることになる。 そうなると、レーヴァは滑走路目掛け突撃するわけだから、この格納庫内も戦場になるだろう。 しかしこちらは半数を格納庫ハンガーで待機中のヘイムダルに搭乗させ、カタパルトエレベータの維持を試みる。 同時に残る半数はここから運用本部に向かい、本部奪還を試みる」


「つまり、滑走路の制圧と本部の奪還を同時に行うんだ。 本部さえ確保出来れば、こちらの動きやすさは何倍にもなるからね」


「でもこの少数兵力で制圧が可能なのかよ?」


「あまり我々をなめないことだな少年。 ジェネシス社内の構造は暗記しているし、本部への攻略も訓練の中で想定されていた」


突然サーギスの言い出した事にジェネシス一同は驚くしかない。 しかしそれはそのはず、彼らは元々対ジェネシス用戦力として派遣されてきた特殊部隊なのである。

もちろんいざとなればジェネシスを攻略する訓練は欠かしていないし、ヘイムダルの操縦もこなす。 彼らはこうした有事の際即座に行動できるように組まれたスペシャルチームなのだ。


「僕たちは、ジェネシスと戦う事になるかもしれないとは思ってたんだけどね。 まさかこういう形になるとは流石に想定外だったかなあ」


「だが好都合だろう。 最悪逃走も想定しルート検討は行っておくが、ここで全て打開出来ねば終わる。 まだ救えていない仲間が沢山お前たちを待っているのだろう?」


「……ああ。 ここで時間食ってる場合じゃなかったな」


拳を強く握り締める。 決意を新たに顔を上げ、それから大人に教えを請う。


「じゃあ俺たちは滑走路の確保を」


「僕の部隊で格納庫の防衛」


「私が本部の奪還を担おう。 各々尽力を期待する。 無事再会しよう」


三人は頷きあい、即座に行動に移る。 同盟軍の兵士たちが慌しくヘイムダルに搭乗する中、様子を伺っていたオリカは腕を組んだまま微笑んだ。


「カイトくん、ちょっと大人になった?」


「な、なんだ急に……? それより話は聞いただろ? 指示をくれよ、司令官」


「そうだね。 私が指示をしなくちゃあ、しまらないよね」


オリカが言葉を止めると、自然と全員の気が引き締まった。

活動するヘイムダルたちを背に、オリカは腕を組んだまま目を閉じ、それから語る。


「私たちの二年間の成果が問われようとしているんだと思う」


その言葉は穏やかだった。 しかし内心燃えるような決意を秘めている事が伝わってきた。

見開いた瞳は強く、鋭い眼光は心さえ射抜く。 そんなオリカの不思議な魅力があったからこそ、全員はその言葉に耳を傾ける。


「そして今、私たちは罪を問われようとしている。 自分自身のものではないかもしれない。 でもそれは、この世界に生きる全ての人が目を逸らしてはいけない罪だから」


誰もが戦っている。 この世界で。

しかし未だ人は分かり合えぬまま。 手を取り合えぬまま。 支配と反逆を繰り返す。


だからこそ。


「私たちはその責任の所在を明らかにすべきなんだと思う。 そして背負うべき罪を背負い、覚悟を持って世界を罰する」


片手を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろす。 真っ直ぐに、真っ直ぐに。


「これがジェネシスとしての最期の仕事。 この任務を以って――――ジェネシスアーティフェクタ運用本部は、解散とするッ!!」


その宣言は少なくとも驚きを伴うものだった。

しかしその場に居る全員が強く頷き、頭を下げる。

それは感謝の気持ち。 そしてその、大切な一言を押し付けてしまったという事に対する謝罪の気持ちだろうか。

オリカ・スティングレイの言葉により、一つの終わりが確定する。

そして少女はほにゃっとした笑いを浮かべ、言った。



「全機、出陣」




カタパルトエレベータが動き出した事に滑走路周辺のヘイムダルが気づかないわけがなかった。

一斉に振り返り、銃器を構える。 エレベータはゆっくりと上ってくる。 奇妙なその沈黙の中、到着を知らせるアラートがけたたましく鳴り響く。

左右へと開放される扉が動き出されるのを確認した瞬間、ヘイムダルは一斉の攻撃を開始した。 猛然と押し寄せる攻撃に、カタパルトエレベータそのものが破損していく。

巻き起こる弾幕の嵐の向こう。 停止した銃撃と同時に砂煙の奥、瞳が輝いていた。

開放途中で停止してしまったドアをこじ開ける二つの銃剣。 開放された扉から身を乗り出したレーヴァテインは、漆黒の姿で大地を歩む。


「SFを巻き込まないように撃退か……。 出来るか? エンリル」


「そのための干渉者ですから」


駆け出した翼はアスファルトの大地を砕き、一瞬で前進する。

激しい襲撃の雨も意味を成さず、レーヴァテインの突撃を阻むことは何者にも出来ない。

敵陣の中央部にレーヴァが立った時、一瞬時が止まったかのように錯覚した。

刹那レーヴァが両手で構えた銃剣が火を噴き、周囲に展開するヘイムダル部隊だけを確実に撃墜していく。

踊るようなその動作は僅かな傷さえレーヴァに残さず全てをかわし、いなし、正確に撃墜する。 カイトが持つ特有の熱さと勢い、そしてエンリルの正確さと冷静さが合わさり、今まで以上の動きを実現していた。

シンクロを高めているわけでもましてやオーバードライブでもない。 本当の意味で心の強いパイロットのみが出来る真のレーヴァの動きは、ヘイムダルを蹂躙する。


「カイトさん、エレベータが……!」


次々と現れる増援がここぞとばかりにエレベータに向かっていく。 しかしカイトはわき目も振らず駆け出した。


「あっちはイオスさんに任せろ! 俺たちは、自分の役目を果たすっ!」


「……はい!」


疾風のように駆け抜けるレーヴァはすれ違う機体を次々に両断していく。 その速度と一撃の重さに成す術もなくヘイムダルは残骸へと姿を帰る。

ティアマトがそうして戦場を確保している頃、同時に出撃したオリカを載せた黒いヘイムダルとエリザベスのリヴァイアサンが後方に続く。 リヴァイアサンのコックピットは通常より狭い構造だったが、何故かそこにエアリオも詰め込まれていた。


「つーか邪魔じゃないあんた!?」


「言われずともわかっているが、わたしがいると敵がどこからくるのかわかっていいだろう? 擬似干渉者だ」


本来の力に目覚めたエアリオは近づく敵意を即座に察知する事が出来る。 エリザベスはその指示に耳を傾けつつ敵を撃破していた。


「ところでエリザベス。 そこのスイッチはなんだ?」


「ちょっと、変なトコ勝手に触らないでよ!? それは変形スイッチなの!!」


「でもこれ……なんでスイッチが三つあるんだ?」


ふと、エリザベスも視線を向けてみる。 するとそこには確かに変形スイッチが三つ存在していた。

SFの変形といえば戦闘機形態になるものである。 SFの改良機であるリヴァイアサンも、変形するとなればその形だと二人は勝手に思い込んでいた。


「『ランス』『ウォール』……それに、『ドライブ』? なにこれ?」


「おしてみていいか?」


「ダメだから! それに変形なんてしなくても、リヴァイアサンは無敵よ!」


両腕に展開したチェーンソーはフォゾンの光を纏い、高速でその刃を回転させる。

その鋭さは一撃でレーヴァテイン同様――いや、それ以上のダメージを相手に与える。 SFより一回り大きいその体躯で華麗に動き回り、跳躍する。

飛び回るその様は自由に踊る獣の用であり、次々とどこからかわいてくるヘイムダルを両断していく。


「オリカ! こっちは片付くわよ!」


「うん」


オリカのヘイムダルは両手に刀を構えていた。 その正面には七機のヘイムダルが武器を構えたまま何故か停止している。

刃を華麗な動作で腰の鞘に戻すと、ヘイムダルが指を鳴らす。


「こっちはもう、終わってる」


一気に崩れ落ちる粉みじんに切り刻まれたヘイムダルだったものたちが大地に広がると、返り血も浴びぬままオリカは空を見上げた。


「……さて、増援の手が止んだね。 何か仕掛けてくるかな?」


「これだけぶっ殺しちゃったら、流石にどん詰まりじゃないかしら」


「……いや。 そううまくはいかないみたいだ」


エアリオの囁く声と同時に、滑走路に光が走る。

するとプレートそのものが動き出し、大地に亀裂が走る。 その合間から次々と新しい大地が競りあがり、その上には無数のコンテナが佇んでいた。

奇妙な沈黙だった。 しばらくの間全員が息を飲み、その様子を見守っていた。 コンテナに動きはなく、静寂が場を包み込む。


「こうなるとは思っていましたからね。 あらかじめ伏兵を潜ませておいたんですよ」


空から舞い降りる姿を見て、全員が息を呑んだ。

プレートの遥か彼方より光の翼を広げ迫る巨大な影。 四つの瞳を持つそれは、誰もが見たことのないアーティフェクタだった。

黄金に輝く体は見る角度により虹色を帯び、翼は常に光を帯びて輝く。 レーヴァテインに酷似したその機体はゆっくりと大地に降り立つと、その両手を広げる。


「やはり皆さんは私が思うとおりの究極の『仇』! 倒すべき『好敵手』! そして――――!」


黄金の光が放たれる。 凄まじい勢いで放出されるフォゾンは大地を溶かし、空を振るわせる。


「滅ぼすに足る、この世全ての力ですっ!!」


伸ばす手の平から覗く金色の瞳がぎょろりとうごめき、レーヴァテインを捕らえる。

そのコックピットの中、全身に光を帯びるヴェクターの姿があった。

不気味な微笑を湛えながら空に手を伸ばす。 その様相は狂気とも、歓喜とも取れる。

ただ一つだけ確かな事があるとすれば、それは――――。


「さあ――見せてください。 彼女が愛した、この世界の可能性というものをッ!!」



この世界にとって最も恐るべき存在が、今目の前で笑っているという事――――。



高らかに響き渡ったヴェクターの声と共に、周辺のコンテナが音を立てて開かれた。


「…………何が、どうなってんだ?」


カイトの震える声が零れ落ちる。

コンテナから現れた数え切れないほど膨大な量のタナトスが、ゆっくりと面を上げて鎌を振りかざした。




「やはり、来たか」


格納庫の中は乱戦になっていた。 広いとは言え、何十機も機体がうろつけるような場所ではない。

エレベータ付近は凄まじい戦闘が繰り広げられている。 銃弾と轟音が響き渡る中、ウロボロスは一人その戦場に背を向けていた。

格納庫は上にだけつながっているのではない。 隣接する海中から出撃する事も可能なように、いくつかのルートが設定されている。

溶接されたそのうちの一つが音を立てて切り裂かれ、強引に巨大な鉄板を捻じ曲げながら黒い手が伸びてくる。

姿を現したのはタナトス――――ゼクス=フェンネスの駆るオリジナルだった。


「……またあなたですか」


「ああ。 生憎だが、ここで足止めさせてもらうぞ」


「あなたに出来ますか……? ただのバイオニクルでしかない、あなたに」


鎌を構え、タナトスの瞳が輝く。

カロードは穏やかに微笑み、それから操縦桿を握り締めた。


「それは、試してみなければわからんさ」


両手にフォゾンライフルを構えるウロボロス。

瞬間跳躍を繰り返すタナトスは背後に回りこみ、切りかかる。 しかしそれを見越していたかのようにウロボロスは背後に向かって銃を向ける。


「何っ!?」


「ただ機体と能力にだけ頼るのが戦いではない……!」


すかさずフォゾンライフルを切断するタナトス。 しかしライフルは内蔵フォゾンごと爆発、発光する。

その光の波の中から伸びた鋭い刃がタナトスの腹部に突き刺さる。


「それが、パイロットの腕というものだ」


タナトスの腹部から血液がこぼれだし、ゼクスの顔つきが変わる。

認めるしかない。 目前の敵は、全力で潰すに値する存在なのだと。

距離を置いた二機が再び刃をぶつけ合う時、ジェネシスの終焉が開幕のベルを鳴らしていた。


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