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集え、紅き御旗の下に(3)



『リフィル――ボクだ。 スヴィアだ。 君にお願いしたい事が、一つある――』



いつでも、その理想を追い求める為に犠牲になってきた。

生まれてから死ぬまでの間にある幸福と呼べるおよそ全てのものを投げ出して、戦うために生きてきた。

ならばその人生に意味はなく、やはり残せるものも何もない。 ただ空虚に自分が生きた理由を求め、生きた証を求めるだけの日々。

手にした銃はとても重い。 それは安易に人の命を奪う道具。 だからこそ重く、そしてそれは自分が汚してきた両手の赤を鮮明に映し出す。

故に、重い。 自らが歩んできた過去全てがのしかかるその瞬間、人に出来る事があるだろうか。


「やはり、立ちはだかるのは貴方でしたか――」


ユグドラシルの間。 白い砂漠の中、異世界への門を背に二つの人影が向かい合っている。

一人は男。 スーツを身に纏い、いつもと変わらぬ笑顔を浮かべたヴェクター。

相対するは女。 同じくスーツを身に纏い、いつもとは違う鋭く射抜くような敵意を込めた瞳と共に銃口を男に向けている。


「やはり貴方は、何もかも振り切れて居ないのね。 初めて会った時からそう。 自分の生きた証を求めているのかしら」


風が吹いた。 リフィル・レンブラムの姿はとても美しかった。

白く輝く風は砂が混じるから。 降り注ぐ光の中、二人は向かい合う。 髪が靡く中、二人の距離は縮まる事がない。


「やはり、私と貴方の相性はよくなかったようですね。 ここは旧友ということで、見逃してはいただけないでしょうか」


「私と戦うのが嫌とでも言うのかしら? 神をも恐れぬ貴方が」


「…………やはり、こうなりますか。 わかってはいても、いざこうなるとやりきれませんねぇ」


苦笑を浮かべながらヴェクターは銃を手にする。 しかし、リフィルに向ける気は起きなかった。


「一つ、聞かせていただいてもよろしいですか」


「……何かしら」


「何故でしょう? 貴方も異世界への移住を望んでいたはず。 永遠なる時間を生きることが出来るのならばそうしたいと……。 そもそもオペレーション・メビウスは、貴方の尽力なくしては成立しなかった」


異世界からやってきたリフィルとスヴィア。 この二つの存在があったからこそ、計画は確実なものとなった。

そしてリフィルは、計画に加担しようとしないスヴィアとは異なり、メビウスに対して積極的だった。 流れからすればそれに協力していたリフィルは、オペレーション・メビウスを成功させるためにヴェクターの側に付く……それが当然のように思えた。

しかし、実際にリフィルはこうしてヴェクターと向かい合っている。 それはとても判りやすい敵対の構図だった。 何故そうなってしまったのか――ヴェクターにはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。


「私が永遠を求めていたのは、この世界が滅んだ後にスヴィアと一緒に暮らす為。 彼が居なくなった今、メビウスを手伝ってやる義理はないわ」


それは当然本音だった。 オリカにとってリイドが全てだったように、リフィルにとってスヴィアは自分の中の全てだった。

愛していたのだ。 心の底から。 リイドやエアリオだけを残し、ヴァルハラを去った寡黙な男を恨んだ事もあった。

何故自分を愛してくれないのかと。 何故もっと抱きしめてくれないのかと。 何故もっと傍にいてくれないのかと。

やがて愛を諦めが満たし、それでも忘れられない温もりにさびしさを募らせる毎日。 ただ男が自分に与えてくれた役目を果たし続けることが、唯一のつながりのように思えていた。

惰性で続けていた司令官の任に思い入れなど存在しない。 ただ、全てが終わった後平和な世界でスヴィアと暮らせることだけを夢見ていた。


そう。 そのときは。


「今は、違うのでしょう?」


ヴェクターの言葉にリフィルは眉をひそめる。


「今の貴方はそれだけの理由で動いているわけではない。 逆らわずに傍観を決め込む事も出来たはず。 でも貴方は今私に銃を向けている――――勝ち目が皆無だとわかっているのに」


ヴェクターが持つ真の力をリフィルが知らないはずもない。 リフィルは当然、ヴェクターが持つ神の力を知っていた。

拳銃などで撃ち殺せるような相手ではないと判っているのにここに立っているのは何故か。


「――――私たちは、この世界にかかわるべきだったのかどうか、ずっと考えていた」


かつて彼女たちは、自分の世界を守ることが出来なかった。

だから全く同じ運命をたどる事になる世界を救うため、旅に出た。

変えることの出来ない過去を変えたつもりになるために、未来を変えようと努力したのだ。

しかしそのせいでゴウゾウはレーヴァテイン・プロジェクトやオペレーション・メビウスを考え付き、最終的には他の世界を脅かす手伝いをしてしまった。

スヴィアは果たしてソレを望んでいただろうか。 世界や他人に興味を持たないリフィルでも、スヴィアの苦悩だけは理解したかった。

ずっとわからないままだった。 スヴィアが何を望み、スヴィアが何を見ていたのか。 本当に自分が愛されていたのか。


「確かに他の世界に移り住む事も出来る。 世界を支配する事も出来る。 それは私には関係のないことよ。 だからどうなってもかまわないと思っていた。 でも――――そうじゃない」



『ボクがあれを倒すから、君は生きてほしい。 生きて、そして――この世界の未来を守ってほしい』



二年前、男は傷だらけの身体でそう言った。 リフィルはその意味がまるで理解出来なかった。

なぜなら彼女は今まさに傷だらけになっている男を救うためにここまできたというのに。 男は身を挺して世界を守るというのだから。


『わかんないよそんなの……! ねえ、あなたがいなくなったら、私はどうしたらいいの!? 無責任な事を言わないでよっ!! 私、一人じゃ何も出来ないよおっ!!』


わき目も振らず叫んでいた。 そんなリフィルを優しい瞳で見つめ、スヴィアは笑ったのだ。

何も言わなかった。 ただ、微笑んでいた。 その笑顔だけで全てがわかってしまうような、本当に純粋無垢な笑顔だった。

そこには伝え切れなかった愛情や謝罪の気持ち、そしてどうしようもないほど揺らぎない決意が見て取れた。

それがわかってしまうほど、二人の絆はすばらしいものだった。 人間に在り得る愛という絆の一つの究極だったと言うのは大げさだろうか。

できれば、自分の手でリフィルを幸せにしたかった――それは当然、スヴィアの願いだ。 しかしそれが出来ないかもしれない状況になってしまった。

ならばせめて、幸せになってほしいと。 自分に縛られず、自由になってほしいと。 スヴィアの優しい瞳はそう語っていた。


『伝えるべきことはもう伝えてある。 ただ、本当に心から君に伝えなければならない事を、ボクはずっと君にいえないままだった。 だから――』



「だからこの世界はもう、私たちの手を離れていくべきなのよ、ヴェクター。 過保護に理想を求め続けるだけの私たちに何が出来るの? この世界を変えていくのは私たちじゃない――新しい命なのよ」


スヴィアはもういない。



変えようのないその事実を受け入れるのに時間がかかったのは、それだけ深く彼を愛していたから。

そして彼が願い、愛したこの世界を自分が代わりに守らねばならないと思ったのは、自分もまたこの世界を愛している事に気づいたから。

一人では、ない。 この世界を愛せるようになったのは、スヴィアのおかげ。 彼が一緒に生きてくれたからこそ、この世界は大切になった。

そして、司令官として接してきた子供たち一人一人に未来があり、それは自分たちの知るものではなくなっている事を知る。


「世界は確かに変わっているのよ。 私たちが知っているシナリオとは、もう随分前から異なっている」


「滅びは食い止めることが出来ると?」


「それはわからないわ。 ただ、私はだからこそ――――『滅び』を食い止めにきているのよ」


リフィル自身が滅びの本当の理由を口にした事は一度もなかった。

しかし今、彼女は真実を口にする。 今この場でヴェクターを倒す事がもしも出来たのなら。


「滅びは回避できる、と――? ふふ……。 ははははははっ!!」


突然高らかに笑うヴェクター。 額を押さえ、肩を震わせ低い声で笑い続ける。


「……判りました。 では、争うしかなさそうですね。 私は立ちふさがるものは全てなぎ払い、己の理想を貫き通します」


「…………ヴェクター」


「かまいませんよ。 私は己のエゴを貫いて死にます。 その為には――貴方さえ殺す覚悟がある」


向かい合う二人。 引き金を引こうとした瞬間、ヴェクターは小さな声で囁いた。


「無念ですね。 貴方の事――ずっと、愛していたのですが――」



銃声が二つ、僅かにずれて重なった。



⇒集え、紅き御旗の下に(3)



地下牢は非常に広大だった。

一体そこに何を閉じ込める場合、これだけ多くの牢獄が必要なのかと問いただしたくなるほど、ずらりと並ぶ格子の壁。 それは非常時にはシェルター、緊急避難施設としても運用される秘密空間だった。

足元をうっすらと照らすだけのオレンジの光を頼りに、一同は足早に進んでいく。


「それで、オリカはどこに閉じ込められているんだ?」


「一番奥だろうね。 オリカを救助したら、すぐに格納庫に向かおう。 首尾よく進行していれば、カイト君がそろそろ奪還しているころだからね」


「……見たところあなたは社内でもそれなりの地位を持つ人間のようだ。 ただの医者というわけではないんだろう?」


「そうだね。 一応、僕も科学者のはしくれだからね」


「こんなところを平然とうろつけるところを見ても高次のIDを持っているとしか思えない。 重要な位置を担うはずのあなたが、何故僕たちの手助けを?」


カロードの質問にアルバの足が一瞬止まる。 しかし、すぐにまた歩き出した。


「どうして、だろうね。 僕にもよくわからない。 ただ、助けたい……君たちなら任せても良い。 そんな風に思ったんだ」


重苦しい扉を指紋認証でアルバが開くと、そこには格子の向こう側に拘束されているオリカの姿があった。

開いた扉に反応し、顔を上げるオリカ。 視界が封じられているせいか、口を開くことはない。


「オリカ!」


「その声……エアリオちゃん? うわあ、助けにきてくれたの? ありがと〜」


「……この緊急事態なのにこのユルさ……。 ま、オリカらしいといえばらしいけど。 ねえアルバ、この鉄格子どうやってあけるの?」


「あ〜〜、触らないで! 電流が流れてるからっ!! とにかく今解除するから、ちょっと待ってて!」


備え付けられた端末をアルバが操作する事数分。 電流が解除され、格子のロックがはずされるとエアリオが中に入りオリカを拘束から解き放った。


「ふう〜〜っ! もう〜変な体制でつるされてたから全身が痛いよう」


のんきなオリカの声に全員思わず笑ってしまう。 半日以上の間ずっとがんじがらめにされていたというのに、オリカは非常にマイペースだった。

なんといえばいいのか。 この頼もしいのかそれとも頼りないのかわからない司令官のほんわかした声を聞くと、不思議と全員やる気がみなぎってくるのだった。

地面に音を立てて落ちた鎖を振りほどきオリカは立ち上がる。 そうして一行は牢の外に出ると、出口に向かって歩き出した。


「余り悠長に話している時間はないので移動しながら話しますよ。 とりあえず、この奥にある出口に――――」


会話が途切れると同時に鳴り響いたのは銃声だった。


「……アルバ?」


「ぐっ……」


銃声は続けて何度か鳴り響いた。 オリカは瞬時に反応し、全員を開いた扉を壁に押し込める。 何が起きたのかわからないで反応できないエアリオたちを背に、オリカはアルバの腰に挿してあった拳銃を手にする。

すかさず反撃の威嚇射撃を行うオリカ。 銃撃戦は少々続き、その間に血まみれのアルバが床を這いずり物陰に隠れる。


「やれやれ、後ろから不意打ち――しかもこうまで見通しが良いところで襲われるとは運がない。 みんな、怪我はないかい?」


怪我などあるはずがなかった。 アルバが銃撃の盾となり、全員への攻撃を防いだのだから。

胸からどくどくと流れ続ける血は熱く、止め処ない。 血まみれの手で眼鏡を押し上げると透明のレンズは紅く染まった。


「オリカ、少し時間を稼いでくれ。 僕でなければ、あの出口は開けない……」


「……うん。 わかった」


銃撃戦が始まった。 アルバは一人、物陰からこっそりと這い出し、出口の扉に向かう。

たった十メートルほどの距離が余りにも遠い。 気を抜けば背後から撃たれてしまう危険な状況下、アルバは必死で前に進んだ。


「怪我……! 手当てしなきゃ、アルバ死んじゃうんじゃないの!? ねえっ!」


「彼はもう助からないよ……」


取り乱すエリザベスを諭すようにオリカは言う。 彼女だけこの状況下で非常に冷静に現状を把握していた。

そう、アルバは助からない。 どちらにせよ満足な治療を受けることは出来ないのだ。 彼は裏切り者になってしまったのだから。

そうしてしまったのは自分たちに他ならない。 そしてこの扉を開く事が出来るのがアルバだけだと言うのであれば、彼はそれをやり遂げなければならない。 そうでなければここで全てが終わってしまう。


「でも……! でも……!」


そうしてオリカが援護の手を一瞬休めてしまった時、銃弾はアルバの足を貫いた。 大地に苦悶の声と共に倒れこむアルバだったが、必死に這い回り出口を目指す。

ただ淡々と、銃撃戦は続く。 もはや口出しすることこそ邪魔以外の何者でもないと悟ったのか、エリザベスは目尻に涙を浮かべながら歯を食いしばりアルバを見守っていた。

それは、とても無様な行進だった。 進む毎に床を血糊で汚し、ずるずると、力なく行軍するしかないのだから。

息を切らす。 口の中が血の味でいっぱいになり、視線がかすんでも。 アルバは進む事をやめなかった。

何故こんな事をしているのか? 自分で自分に問いかける。 だがこれはきっと、こんな世界を作ってしまった大人の一人として受けねばならない罰なのだろうと思う。

この世界の大人たちは皆諦め、本当に心の底から神に立ち向かう事をしなかった。 どこかで別世界に逃げるとか、死んでしまえばラクになるとか、そんな甘い事を考えていたのだ。

だが、今アルバは本当に充実している。 自分が努力する事で、未来へ希望を届けることが出来るかもしれない。 それは今までにない、彼の中に芽生えた初めての感覚だった。


「悪く、ない……もんだな」


アルバは知っている。 ただ一人だけ、この世界の中で絶対的に未来を信じてその身を犠牲にし、前に進んでいた男を。

その男は異世界から現れた全くの他人だというのに、世界を救うのに必死だった。 そんなことは出来るはずがないと、いつか無駄になると心のどこかであざ笑っていた自分。

しかし実際はどうなのか。 本当はアルバとて――いや、この世界の大人たち誰もが諦めたくなどなかったのだ。 本当は努力し、変えて、掴み取りたかったのだ。

だからもう一度――まだやりきれない。 まだ終われないから、やりなおしたい。 出来ることならもう一度――すべてを。 そう願うからこそ、こんなことが起こるのだろう。

いつでも熱くならず、淡々と眺めてきた。 スヴィアの後姿も、ヴェクターの後姿も。 ただ眺めて従うだけで、自ら変えようとしたことはなかった。

だからこそここでアルバが倒れるわけにはいかなかった。 最期まできっちりと進んで、そして未来を作って渡してやる――――と。

その姿を子供たちはじっと見つめていた。 激しく飛び交う銃弾も銃声も、彼らには届かない。 ただ必死に未来を作ろうと歯を食いしばる無様な男の勇士だけ、ただ心に刻み付けた。


「――――――何故、ですか?」


声はオリカのものではなく、アルバのものでもなかった。

襲撃者の声。 薄暗い通路の中に浮かび上がる姿に、オリカは目を細める。

そうして身をさらし、二人は闇の中に対峙した。 オリカに銃口を向ける少年――ゼクス=フェンネスは戸惑いを宿した瞳でその光景を見ていた。


「貴方は、この計画に深くかかわっていたはず……。 そしてこの計画の実行を深く願っていた。 それがなぜそうまでして、阻止しようとするのですか?」


「その声……ゼクスか」


「えっ!? ゼクスって……なんであいつが!?」


「ゼクスくんは元々対神武器研究所出身だからね。 ソルトアの私兵でもおかしい事は何もないし」


「やはりあなたは気づいていましたか……。 どちらでもかまわない。 裏切り者は処罰するまでです」


「止めろゼクス!! そんなことをして何になるっ!!」


叫び声を上げたのは意外な事にカロードだった。 武器も持たないまま身をさらけ出し、オリカの前に立つ。


「カロードさん……」


「お前はそれで本当にいいのか……? 何のために自分が戦っているのかもわからないまま、誰かの言いなりになっていればそれでいいのか!?」


「ぼくは――そのために生まれてきたんです。 そうする以外に、ぼくの生きる理由なんてない……」


「ふざけるな!! 理由を誰かに与えてもらうのを待っているだけで、本当に理由が見つかると思っているのか!? 自分が生きる理由など、自分自身で見つけ出すものだっ!!」


「あなたに……! あなたにぼくの何がわかるっていうんだっ!!」


再び銃撃戦が始まる。 互いに物陰に隠れ、激しく撃ち合う。

しかしそうしてゼクスの注意をひきつけている間にアルバによる扉の開放は順調に進んでいた。 最期の最期、かすむ視界と震える手でアルバは何とか操作を終える。

ゆっくりと開いた扉を目にし、壁を背にしてアルバは倒れこむ。 血まみれの胸を押さえながらエアリオに目配せした。


「さあ、行くんだ。 時間がない……急いで」


「アルバさん……」


「悲しんでいる場合じゃない。 君たちがここから生きて出られなければ、僕のしたことは全て無駄になってしまう……」


天井を見上げ、静かに目を閉じる。 苦しいはずなのに何故か笑顔が浮かんでいた。


「さあ、早く!!」


「…………。 オリカッ!!」


「判ってる!」


声をあげ扉を潜り抜けるエアリオ。 続いて次々と牢獄を後にするメンバーをかばうように最期まで銃撃戦を行いながらオリカが扉をくぐると、アルバは端末のボタンを押す。

一瞬で閉じた扉は重く鎮座し、あわてて駆け寄ったゼクスが操作しても開く事はない。


「ロックを、かけさせてもらったよ……。 君が取り乱してくれなければ、そんな余裕はなかったがね」


「…………どういうつもりですか? 貴方は、別の世界で第二の人生をやり直すのでは?」


「……そのつもりだったんだけどね。 ただ――『次があるから』、とか……。 そういう逃げ腰な人生が、嫌になったのかもしれないな」


煙草を取り出し、咥える。 火をつけようとするその手が震え、ライターが血黙りに落ちて小さな火が紅い水溜りを照らし出す。


「君も……彼らのように生きろ。 誰かの言いなりになって生きるのは……楽しくないだろう」


「そんなことを考えた事はない。 僕は、ただ役目を果たすだけだ」


アルバの頭に突きつける銃口。 アルバは笑い、それから目を閉じた。


「判るときがくるさ。 お前が――大人になったらよ」


銃声が、地下牢に鳴り響いた。

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