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楽園と、呼ばれた場所で(3)

「ねえカイト」


「ああ?」


「アイリスって、結局戻ってくるって言ってたの?」


エリザベスの質問に足を止め、振り返る。

新設されたジェネシスアーティフェクタ運用本部第二司令部。

ジェネシス本社地下に健在の第一司令部と比べると幾分小さな施設であり、第一司令部とは異なり地上最下層…108晩番プレートの本社に併設する形で存在する。 第一とは異なり光りが差し込むその廊下の最中、カイトは首を傾げる。


「…なんだ? お前がアイリスのことを気にするなんて珍しいな。 変なもんでも食ったのか?」


「何でそうなるのよ!? あんたじゃないんだから、落ちてるもの拾って食べたりしないわ!」


「それは俺じゃなくてエアリオじゃないか? まあいいや。 で、アイリスだったな」


腕を組み、それから窓の向こう―――ジェネシス本社ビル周辺で行われるお祭り騒ぎのパレードを眺めながらため息をつく。


「協力する、って返事は貰えたけど、ジェネシスに戻ってくるとかそういう具体的な話はまだだ。 でも、ルクレツィアたちも今回の国際サミットに参加するんだし、護衛で着いてくるんじゃねえか?」


そう、今回のこのヴァルハラ全域を巻き込むお祭り騒ぎは、国際サミットが催される為のものである。

それがどれほど大事であるのか。 この荒廃し、そもそも『国』という定義が薄れた世界を鑑みれば、むしろ驚異的な出来事である事が伺える。

世界中の全人類、全国家に対し支援を行う事をジェネシス社長であるカグラが公言してから約一年半。 世界は確かにゆっくりとだが変化を進めていた。

ルクレツィア・セブンブライド…通称『エクスカリバーの騎士』率いるエルサイム王国が生まれたのも、そのジェネシスの支援があったからだといえる。

元より強大な力を持つアーティフェクタ…それも対オーディン戦で四機中二機が消滅しているその力を所有するルクレツィアは、事実上ほぼ最強の兵器を所有する人物である。

元より故郷を復興させるという事を目的としていたルクレツィアがエルサイム王国を建国するのにためらい等存在しなかった。

その他、SIC、そしてSICがサポートしてきた同盟軍…その守護に預かり何とか復興を遂げようとしている国、組織等等、それらが手を取り合い今後の世界の行く末を考慮する場として、国際サミットは非常に重要な意味を持つ。

孤立すれば滅びは免れられない今、それぞれの国、組織、企業―――全てが手を取り合い、神に立ち向かうのは必要な事だ。

何より、いつオーディンという驚異的な存在が戻ってくるかもわからない原状、リイド・レンブラムが生み出したわずかな猶予を有効活用するのは当然の事だと言えた。

そうしてようやく開催にまで漕ぎ着けたこの国際サミット。 無論、アイリスが所属しているエルサイムの王たるルクレツィアが参加するのは決まっていた事だ。

しかし、少女が知りたいのはそういうことではない。 能天気に笑って見せている背の高い少年を見上げ、じっと睨みつける。


「それって、ジェネシスを裏切ったままってことじゃない! そんなやつ…本当に計画に参加させていいの?」


裏切ったなどといっても、特に敵対した行為をとったわけでもなければルクレツィアとジェネシスは戦友の関係にある。 それほど口をすっぱくすることでもないとカイトは思っていたし、そもそもついこの間までジェネシスの敵だったエリザベスが言うのもどうかと思う。

しかしまあ、そんなことは口にしない。 口にしたら大変な事になるという事を、頭の悪い少年なりに学んでいたのである。


「まぁ、アイリスのショックもわかるしよ。 俺だって、みんなだって、リイドがいなくなって悲しいんだ」


「だったらあの子だけ特別扱いするのは変じゃない」


「特別扱いしたわけじゃない。 あいつの力が必要だから呼んだだけだ」


カイト自身はいたって真面目にエリザベスを諭しているのだが、エリザベスはそんな回答では納得しない。

尤も、少女の胸のうちに渦巻いている納得の行かない感情をどうにかするなんてことは、今のカイトには不可能な事だったが。


「それに、今は世界が一つにならなくちゃいけない大事な時期だ。 サミットの主要国家であるエルサイムの王様とつながりがあるのは、むしろいいことだぜ。 アイリスがその橋渡しになってくれるんなら、決して無駄じゃなかったと俺は思う」


「…もう! カイトはアイリスの味方なのね! だったら好きにすればいいじゃない! 死ね!」


散々言いたい事を吼えるとカイトの足を蹴飛ばし走り去っていく。

その小さな後姿を見送りながらカイトはため息をついた。


「どうした? 何やら叫び声が聞こえたが」


「カロード」


スーツのポケットに手を突っ込んだまま歩いてくるカロードに振り返る。 エリザベスの走り去っていく背中が少し見えたのか、カロードは大体の状況を察した。


「いい加減、怒らせないようには出来ないのか?」


「無茶言うなよ。 あいつ怒るポイントがいつも不明瞭にも程があるって。 さっきもなんでかわからんけど怒ってたし…」


「それは、お前が気づいていないだけではないのか?」


「は…? そ、そうなのか…?」


少なくともカロードには検討の着いていることだったが、本人たち以外には解決の出来ないことなのでほうっておくつもりである。


「それより、重役がいくつか到着する。 チェックしておいたほうがいいぞ」


「お、おう?」


窓の向こうを指差すカロード。 窓際に張り付くようにして外を眺めると、豪勢な外見の軍用輸送機から和服の人々が降りてくる。

その中でも一人、遠巻きに眺めているだけでも判るほど美しい女性が居る。 多くの軍人に守られながら歩いてくる姿にカロードは目を細めた。


「来たぞ。 神聖エルサイム王国同様、この短期間で国家としての力を取り戻した連中だ」


「『東方連合』か」


東方連合。

厳密には、国家という括りとは少々異なる組織である。

旧日本国を中心とし、東洋国家の一部の生き残りが細々と運営してきた組織であり、神の襲来直後に襲撃を受け、なすすべもなく散ったと言われる日本国で活動してきたといわれている。

いくつかの種族集落の統合組織であり、トップには帝と呼ばれる指導者が存在するものの、基本的には生活を保護するための団体に過ぎない。

問題はその規模であり、アジア圏に強い影響力を持ち、SICとも深いつながりがある。 故にそれはもう大陸を隔てて編成されていたとしても国といえるのかもしれない。


「あの綺麗なねえちゃんが帝ってやつか? 思ってたよりだいぶ若いな」


「まだ二十代だと聞いたが…確か、スオウ・ムラクモというらしい…ん」


「お?」


二人は同時に驚きの声を漏らした。 スオウが歩いているのは二人から遠く離れた公道。 しかも間には壁一枚隔てているというのに、スオウは二人に気づいたのか、視線を向け手を振っていた。

ありえない事である。 偶然だと思うしかない二人は、自分たちに手を振られたとは思わず受け流す事にした。

スオウ自身も直ぐに視線を前に戻し、人ごみに見えなくなる。 まさかそれが本当に自分たちに向けられたものだと、二人が気づくはずもなかった。


「ま、そろそろいくか。 色々忙しくなるぜ」


「ああ」


それだけで会話を切り上げ、二人は踵を返した。




⇒楽園と、呼ばれた場所で(3)




「始めまして、ミス・ムラクモ。 私はジェネシス社長、カグラ・シンリュウジです」


「お会い出来て光栄ですわぁ。 うちは東方連合『帝』、スオウ・ムラクモどす。 社長さん、今後よろしゅう」


「は…なんか、すんごい喋り方ですね。 気が合いそうです」


「おほほ。 ええ、なんだか社長さんとは気が合いそうですわぁ」


ジェネシス社長室で行われたそんなやり取りに驚く周囲のSP、そしてハロルドだったが、本人たちは全く気にしていなかった。

すでに堅苦しいモードは終了したのか、お互い今まで息が詰まりそうだったといわんばかりに肩をまわしたり背筋を伸ばしたりしている。

スオウ・ムラクモ。 東方連合『帝』である女性。 浅葱色の和服に身を包み、長い黒髪を金の龍の髪留めで括っている。

その外見は美しいの一言に尽きる。 そして同時に朗らかで人当たりがよく、帝という重役でありながら威圧的な雰囲気を一切相手に与えない。

カグラもそれを感じ取ったのか、特に堅苦しい態度をとる気はうせてしまった。 両足を組み、デスクの上に叩きつけるように乗せて笑う。


「いやあ、よかったよかった! 堅苦しいのが東方連合の帝だったらどうしようかって考えたら、もうね、息苦しくてたまらなかったのよ」


「うちもなあ。 あんまむつかしい言葉使いとか出来まへんし…。 いやぁ、社長さんが砕けたお人でよかったわぁ」


まるで往年の友のような会話だった。 周囲の人間は出来るだけそちらを見ないように護衛を続ける。


「何はともあれ、まずは東方連合に対する技術、経済支援に対し一言お礼を述べさせていただきますえ」


「ああ、いいんですいいんです。 それがこの世界を守った英雄の理想でもあるんでしょうから」


胸の前で手を組みながらカグラは静かにリイドの最期を思い出す。

後は任せると。 きっとそうした思いでユグドラシルに向かったはずだ。

ならば自分に出来ることは…彼の友人として出来ることは、全てやらねばならない。 彼の全力に応えずして、一体なにが社長か。

その強い思いに導かれるように駆け抜けた二年間、今のところ悔いはない。 ようやくここまで漕ぎ着けたサミットも、今成功しようとしている。


「リイド・レンブラムどすえ? レーヴァテインの天使―――二年前、ノアが日本を襲った時、少しだけお姿拝見いたしましたわ。 いやはや、神々しかったわぁ」


「あれがジェネシスの象徴でした。 でももうアレはジェネシスにも、この世界にもありません。 もう大きな力で全てを守る事は出来ないのなら、私たちが協力していくしかないでしょう」


「いやはや、おっしゃる通りで」


自前の湯のみに注がれた緑茶を飲みながら微笑むスオウ。 しかし、その表情が一瞬にして鋭い気配を帯びる。


「―――して、その消えたレーヴァテインの他に、まだジェネシスはんが隠してらっしゃるものはないんどすか?」


「さて、何のことですかね?」


二人のスイッチが一瞬で切り替わる。

そう、往年の友のようなやり取りだったが、二人はあくまでもトップに立つ人間。 それなりの勘の鋭さも、勝負強さも持っている。

二人が安心したのはこれから仲良く出来そうだから、というこなどでは断じてない。

互いに嘘をつける人間であり―――裏表がある事を公言し、それを誇りとするような風格ある相手であることを見抜いたからである。

つまりそこに、手加減は無用。


「二年前。 楽園と呼ばれ、世界に無干渉だったこの場所はレーヴァテインという大きな力に守られていた…。 それはすでに周知の事。 しかし、レーヴァテイン以外の力について、ジェネシスはんはあまりに多くを隠しておられた。 そのせいで、苦しい目に合い、最悪滅んだ国もいくつか覚えがありますえ…。 そのあたり、そろそろどうにか責任を取っていただけるんでっしゃろ?」


「そのための技術提供ならびに経済支援、と受け取って貰いたいですね。 本来なら我がジェネシスはヴァルハラの運営のみを行う一企業に過ぎず、国際的な括りには該当しません。 それはSICも同盟軍もみとめていただいていたことですが」


「最強の力である『霹靂の魔剣』を所持しているジェネシスに逆らう事が出来なかっただけでっしゃろ? 魔剣無き今、ジェネシスの発言力も、その強引過ぎる主張も、国際的には通りまへんな」


にらみ合う二人。 表面的には笑いあっているのだが、目だけが鋭く相手を射抜いている。

面白い。 二人ともそう感じていた。 まだサミットが開催されるには早く、論議の場はここではないというのに、つい小競り合いをしてみたくなった。

勝負事が好きな性格であることは、互いに変わらない。 相手の力量を探る意味でも、このやり取りは楽しみを覚えるに値するものだった。

しかし、カグラの目は語っている。 『文句言うなら支援やめるからとっとと滅べ弱小組織』と。

スオウも語っている。 『図に乗るな小娘国家問題で孤立したらどうなるのかよく見ておけ』と。

一歩も引き下がらない二人。 しばらくすると互いに吹き出し、握手を交わした。


「社長さんとは仲良う出来そうですわあ」


「こちらこそ」


こうして二つの組織のトップの挨拶は終了した。

何故か一言も口を利いていないハロルドや東方連合のSPの方が緊張し、盛大にため息をついたのは言うまでも無い。




そうして社長室にて二人が握手を交わしている頃。


「司令! 司令ったら、司令!!」


式典の進行に伴い、第一司令部に戻ってきていたメアリーは司令官の席についたまま軍帽を目深に被り眠っている女性の肩を必死に揺さぶっていた。

先ほどからすでに五分近く揺さぶっているのだが、メアリーが非力なせいなのか、それともこの女性が相当眠りが深いのか…なにはともあれ一向に目覚める気配がない。


「司令〜…事件ですよう! 起きてくださいよう!!」


ぽかぽかと叩いてみるものの、全く痛くないのか司令は目を覚まさない。 よだれを垂らすその姿に悲しくなってきたメアリーが涙ぐんでいると、


「おや。 どうしました? メアリー」


「あっ…ヴェクター」


振り返るメアリーだったが、一瞬だけ怯えるように身を縮ませる。

しかし直ぐに笑顔に戻ると、司令を指差して地団太踏んだ。


「司令が起きてくれないんですう! さっきからずうっと起こしてるのに…」


「ふむ…」


腕を組み、胡散臭い笑顔を浮かべる男、ヴェクター。

二年経っても相変わらず変わらないその笑顔でメアリーの頭を撫でると、苦笑して諭した。


「司令は昨日全く寝ていないので今とてもお疲れなんですよ。 何か用件があるならば、私が聞きますが?」


「ヴェクターじゃ駄目なんです!! 役立たずなんです!!!」


「やくた…。 あの、何故駄目なのですか?」


持ちこたえた。 若干突っ込みたかったものの、そこは大人の態度である。


「司令司令! 起きてください司令〜!!」


「やれやれ仕方ないですね。 司令…リイド君が帰ってきましたよ」


「まじで!?」


顔を覆っていた帽子を跳ね飛ばし、飛び起きる女性。 周囲をきょろきょろと眺め、それが嘘だと気づくとヴェクターの首筋に手刀を当てる。

意識を失い倒れるヴェクターを蹴飛ばして隅に追いやると、落ちていた帽子を拾い上げて頭に乗せた。


「全く…。 その冗談は本気で笑えないんだからね、ヴェクター!」


「あのー司令っ!!」


「わっと! こらこらメアリーちゃん、いつも思うけどいちいち抱きついてこなくてもいいからね〜?」


「司令ふかふかしてて気持ちいので…。 じゃなくて!! 事件です司令―――オリカ・スティングレイ司令!」


ジェネシスアーティフェクタ運用本部司令官、オリカ・スティングレイ。

十七歳の若さでその任に就き、この二年間ジェネシスを導いてきたよき司令官は、巨大な胸元のネクタイを緩めながらメアリーに微笑みかける。


「―――式典を前に問題発生? 警報は鳴ってないけど」


すぐさまゆるい表情からきりっとした鋭い眼差し…司令の顔に切り替わるオリカ。


「何体か、敵が近づいて来てます! 数は五…多分、第二神話級です!」


メアリーがそう叫んだ直後、警報が鳴り響いた。

その機影はすぐ近くまですでに近づいている。 ジェネシスの優れたレーダー機器が無ければ、気づく事さえ難しかっただろう。

式典会場…ヴァルハラまではまだだいぶ距離があるものの、このまま近づかれては問題しか起こらない。


「姿を消すタイプか…。 前にもあったよね、こんなこと…」


前回は町を守るレーヴァテインがいたが、今回はそれがない。

しかし、今はあの頃とは違う。 二年という月日で量産されたヘイムダル隊が護衛についている上、戦いを乗り越えたエースパイロットが数名この町に集合しているのだ。

多少の敵ならば問題はないが、出来れば何事もなかったように処理したいところ。 腕を組み、メアリーを見下ろす。


「迎撃したほうがいいよね?」


「はい! 敵の狙いは間違いなくサミットです!」


「…神が?」


「はい! だって、そうとしか思えない動きなんです! まっすぐに、サミット会場に向かってるんです!!」


「―――へえ」


聞き流したように見えたが、実際はオリカなりに色々と考えていた。

天使、神。 そう呼ばれる異形の怪物。 人類を圧倒し駆逐する超生命であり、今まさに人類を滅ぼそうとしている星の守護者。

しかし、それらは人の手で操れるものでもなければ人の動きに反応するような類の物でもない。 あくまでも人が多く集まる場所を狙う、程度の反応を示すだけに留まり、明確に人類の拠点を理由を持って攻撃する事などありえなかった。

だが、メアリーはサミット会場を狙っていると、断言した。 ジェネシスの超精度レーダーよりも頼りになる少女のカンがそう告げているのなら、間違いはない。


「カイト君たちに通達。 すぐに迎撃に向かわせて」


「了解! 蒼の旋風ブルーストーム隊に伝令! 出撃準備!」




しかし、メアリーが気づいていないだけで、それよりもさらに強力な迷彩能力を持つ機体が一機、ヴァルハラに近づいていた。

風を切る音も無く、ただ静かに―――何もそこに居ないように。 まるで幻影の如く、近寄る黒い影。

フォゾン迷彩により何者にも探知されない漆黒の死神は、静かに空中で静止するとヴァルハラに近づく神々の影を遠巻きに眺める。

そのコックピットの中、銀髪の少年が静かに息を吐き、様子を記録していた。


「…始まる」


少年がそう呟くと同時に、今まで確認していた数の十倍以上の第三神話級、『クレイオス』がヴァルハラの周囲に出現する。

しかし動揺を伝えるわけには行かない。ヴァルハラに近づく前に倒そうと、それぞれの組織が動き出していた。

海中に出る出撃ルートを使い、本部から飛び立った蒼の旋風は近づくクレイオスの群れを迎え撃つ為に進軍していた。


「カイト、あれ…!」


「うお、なんじゃありゃあ!?」


海面をすべるように疾走する、ヘイムダルとはあまりにデザインがかけ離れている機体が数機、蒼の旋風を援護するように追従してきていた。


「あのデザイン、フォルム…。 間違いないな。 東方連合の量産機、『スサノオ』だ」


「なんか…オリカのヘイムダルをさらに改造したらああなりそうだな」


腰に刃。 翼を背につけるのではなく、脚部の袴のようなフレアパーツで海面を滑空する仕組みのスサノオは、高く飛行する事は出来ないが進行速度はヘイムダルを上回る。

先行する四機のスサノオは刃を抜き、接近するクレイオスの群れに近づいていく。


「あの機体はえ〜な…。 ヘイムダルより早いぞ」


「それに、戦いなれているようだ。 これが初の実戦というわけではなさそうだな」


すれ違うと同時に一瞬でクレイオスを切り伏せる量産機達の活躍で、カイトたちは出番がない。

しかしカロードは反転。 急にヴァルハラに向かって加速し始めた。


「おいカロード!?」


「あの機体に釣られて、ヴァルハラを離れすぎた…! 調子にのって深追いすると、ろくな事にならないぞ…!」


カロードの予感は的中した。

ヴァルハラをはさんで反対側に出現するクレイオスの陰。 しかし、スサノオを含め機体は殆ど出張っていて、直ぐには戻れない。

待機している機体を緊急出撃させることは可能だが、そうすればサミットは大混乱になる。 穏便に事を済ませる事は出来ないのか―――そう誰もが思った時だった。


何もない―――そうとしか思えない方向から、紅い閃光が無数、一瞬でクレイオスの群れを打ち落としていた。

花火のように輝く紅い光りに祭りで浮かれた人々が空を見上げると、遥か彼方の水平線より真紅のヘイムダルが飛来する。


「本部、聞こえますか?」


司令部のスクリーンに映し出されるアイリスの顔。

超超遠距離からの狙撃攻撃―――。 そんな事をやってのけるのは、今のところおそらくアイリスくらいのものだろう。

故に、彼女の到来を予見していたオリカは顔を上げ、昔と変わらない笑顔で言った。


「おかえりなさい、アイリスちゃん」


神聖エルサイム王国の母艦、ランスロットの上に立つエクスカリバー。

獅子の旗を翳し、騎士のアーティフェクタがヴァルハラに迫っていた。


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