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瞳、その向こうに(3)


「それで、今回の件……どのように説明するつもりかね?」


ジェネシス本社ビル内部第一会議室。

暗い室内はそもそも窓が存在せず、ジェネシス本社内で最も機密性の高い空間だと言える。 総勢十二の幹部用の円卓。 その中心は社長であるカグラが両足を机の上に投げ出して額に手を当てていた。

席を立っているのはアーティフェクタ運用本部指揮官であるオリカ・スティングレイのみであり、その他の面子は全員腰掛けていた。

その状況はまるで裁判かなにかのようにも見える。 オリカは毅然とした態度で腕を組み、髪を揺らして微笑んでみせる。


「今回の件の責任は全て運用本部にあると、そう仰るわけですね」


「当然だろう! 我が社が受けた被害は甚大だ! 何の為の運用本部だと思っているか!」


「先日のユグドラシル暴走の件についてもまだ対応が出来ておらんと言うのに、たてつづきにこう騒ぎになっては、諸外国にも揚げ足をとられかねんわ」


オリカの発言を皮切りに次々と幹部が口を開いた。 どれもがオリカの責任を問う発言であり、すべての責任を押し付けあっているようにも見えた。

ある意味今までのジェネシスは独裁だったと言えるだろう。 つまり、ある程度の不祥事であれば社内……ヴァルハラ内でなかったことにも出来た。

しかし今は諸外国に開かれた企業として新たな体制へ移行してしまった以上、既に隠し事は出来ない。 それが世界の命運にかかわるようなことであれば、よりそれは強く求められるだろう。

既にヴァルハラ住民とて愚民ではない。 多くの人々が死んでしまった以上、今回の事件は何らかの形できちんと完結させなければならない。


「奪われたエアリオ・ウイリオはどうするのだ!? 東方連合とコンタクトは!?」


「東方連合は関与を否定しています。 強行派独自の行動との見解が強いそうです」


「何が強行派だ! 世界平和だの人類の共存など、勝手な事を謳って置きながら結果はこれか! 飼い馬の手綱も締められんとは、あの売女め!」


「やはり、サミットは失敗だったのかのう……。 旧体制のまま移行していれば、このようなことにはならなかったろうに」


確かに事実上最悪の事件だった。

ヴァルハラはどんなに危険でもレーヴァテインに守られていた。 ジェネシスがヘイムダルを開発し、安全性はより高まっていたのだ。

こと、神々からの侵略による民間人死傷者の数はこの二年間で0と、驚異的なまでの防衛力を発揮してきた。 市民もジェネシスを信頼し、人類の未来に希望を見出していたことだろう。

それが同じ人類からの裏切りにより、多数の死者を出すという結果を生んでしまった。 人々の心境は非常に複雑であり、それは上層部とて同じといえた。

彼らは旧体制のままヴァルハラを密閉しておくべきだと考えていたものもいれば、他国を支援すべきだという人々も居た。 全員が全員、他国を嫌っているというわけではなかった。

しかしこの事件を経て、和平派もまた人類へ失望し始めていた。 そんな一種の『あきらめ』ムードが会議室を包み込み、重苦しい空気を生み出しているのだ。


「――――なんにせよ」


カグラの声に、二十四の瞳が向けられる。

スーツ姿のあどけない少女は、信じられないほど冷淡に事実だけを見つめる瞳でオリカを見据えた。


「このままにはしておけない。 なんとしても襲撃勢力を殲滅して。 今後の世界の為にも、憎しみの連鎖は断ち切らなければならない」


オリカも完全に同意だった。 何にせよ、敵がいるなら戦わねばならない。

そうして何らかの共通の敵を生むことにより、一時的にとはいえ住民からの支持も得られるだろう。 所謂スケープゴートというものである。

どちらにせよ計画に必要不可欠であるエアリオは奪還せねばならない。 どんな手段を使ったとしても、襲撃者を追撃する事は必須のプロセスだ。


「その大任、本当に運用本部に任せちゃって大丈夫ですかね」


声の主は興味なさげにテーブルの上で爪を切っていた。

純白のスーツに美しい金髪。 顔立ちも整った、若い男だった。 長く伸びた爪をぱちん、ぱちんと音を立てて切断し、鑢で削る。


「……どういう意味だ、リヴォーク」


幹部の一人が青年の名前を読んだ。 男は顔を上げ、にっこりと微笑む。

ソルトア・リヴォーク。 対神話武器研究所所長、ソルトア・リヴォークである。

男はゆっくりと立ち上がり、それから周囲の面子を一回り見渡し、それからオリカを見つめた。


「先日のユグドラシル暴走事故に続き、今回の防衛不祥事……。 我が社の守護を司る組織としては、些か不手際がすぎる……皆さん、そうは思いませんか?」


答えるものはいなかった。 しかし、どちらかといえばソルトアの言葉に傾倒していることは誰の目にも明らかだった。 その様子に満足したように何度か頷き、オリカを見下ろす。


「そもそも、ユグドラシル暴走事故……あれはそちらの不手際だったそうですね? なんでしたっけ? 確か……オペレーション・メビウスとか言いましたか? その実験に失敗した結果だと聞き及んでいますが?」


「何!? それは本当なのか!?」


オリカは内心舌打ちした。

その事実はまだ調べている途中であると言い訳をして今のところまだ何とか曖昧に濁している件だったのである。

無論、実際に調査中であり、何が原因であったのかなどそんな事はわかっていない。 ユグドラシルの暴走、そしてレーヴァテインの出現――――しかし大雑把に言ってしまえば、恐らくはそう、ソルトアの言うとおり、オペレーション・メビウスは一枚噛んでいると考えて間違いない。

故に否定も出来ない。 肯定するつもりはないが、沈黙が肯定となってしまう。 オリカは不満を隠してにっこりと微笑んだ。


「だとしたら、何だと?」


ざわめく会議室。 ソルトアは楽しそうに微笑み、人差し指でテーブルをコツコツ叩く。


「そもそも、オペレーション・メビウスは社長直属の計画ですよね? 我々はその詳細を知らされていない……。 そう、ユグドラシルの調査とかなんとかいっていますが、目的は他にあるんじゃないですか? 例えば――――至極個人的な理由、とかで」


「何が言いたいんですか?」


「簡単なことです。 とてもシンプルな」


両手を叩き、首を傾げる。


「対神武器研究所ならば、もう少し上手にやってみせますよ。 いえ、それ以前に……アーティフェクタ運用をアーティフェクタに詳しくもない人間が行っている事が既に不自然なんです。 レーヴァテイン……霹靂の魔剣は、あなたに預けてしまっていいものですかね?」


ソルトアが笑う。

オリカは厳しい目つきで、男を見つめていた。




⇒瞳、その向こうに(3)




「カイト……ねぇ、カイトってば!」


「おっ?」


長い間、カイトは廊下に突っ立っていた。

まさに棒立ちである。 脇を通り過ぎていく沢山の職員に見られながらも、カイトは歩みを進める事はなかった。

ジェネシス本社ビルから運用本部へつながる連絡通路の多くは、先のユグドラシル暴走事件により不通となり、今職員は不便な生活を送っている。

カイトもその例外ではなく、本社の玄関から入り、緊急整備された連絡通路を歩いている真っ最中であった。

何故立ち止まってしまったのかはともかくとして、その背後、カイトのシャツの裾を引っ張るエリザベスの姿があった。

もう随分と長い事そこにいたのか、既に気づいた時には不満モードであり、カイトはあわてて振り返った。


「お、おう! 何やってんだこんなところで」


「それはこっちのセリフ! 何でこんなところに立ち尽くしてんの……?」


「いやぁ、ははは……。 まぁ、色々あってな」


「ふうん……」


考えていたのは当然マサキとキョウのことだった。

あの事件から丸一日。 依然として彼らがどこに行ってしまったのか、その足取りはつかめていない。 全くの待機中であり、今カイトに出来る事は考え込むことくらいだった。

市街地の被害は甚大であり、様々な救助活動などにはヘイムダルも引っ張りだされている。 しかし、カイトはそれに参加することを許されていなかった。

レーヴァテインに乗れば当然反動として侵食を受ける事になる。 フォゾン化が既に進んでいるカイトがシンクロなしだったとはいえアーティフェクタで出撃したのだ。 精密検査は必要だと判断したアルバにより、たった今呼び出しを食らったところであった。


「ねぇ、昨日出撃したのってカイトだったんでしょ? その……レーヴァテインでさ」


「ああ。 干渉者はエンリルだ。 それがどうかしたのか?」


「……どうかしたのか? っていうかさ……あんた、フォゾン化は? 死んじゃうんじゃないの?」


「かもなぁ」


「かもなぁって……あのねぇ!」


「あー、わかったわかった! 判ってるから皆まで言うな!」


頬を膨らませながらカイトの足を蹴飛ばすエリザベス。 耳を塞ぎながら前進するカイトは、やはり二人のことが頭から離れなかった。

かつての親友であり、仲間であり、そして死んだとばかり思っていた二人。 再会したと思えば立場は敵同士になっていた。

マサキがエアリオを拉致した理由はなんなのか。 考える事は尽きない。 しかし、エリザベスはそれとはまた別のことでカイトが悩んでいるのだと誤解していた。


「……あのさ」


「ん?」


「……もしかして、イリア・アークライトのこと、考えてる?」


「あ? あ……。 あ〜〜〜〜ッ!?」


「ひゃあ!? な、なに!?」


「……すっかり……忘れてた」


頭を抱え、その場に座り込む。 とても大事な事であるはずなのに、その事がすっぽりと頭から抜け落ちていたのである。

結局わけもわからないままレーヴァテインに乗ってしまったものの、それがどうして現れたのか諸々、判っていないことは多い。


「でも、なんで忘れてたんだかな……」


イリアは本当に大事な人であるはずだった。 カイトにとってそれは今も変わらない事実である。

だというのに、それが死体で見つかったと聞いてショックは受けたものの、それよりも他に大事な事が出来てしまっている。

断じるが、カイトはイリアの事を軽んじているわけではない。 ただ、異世界からやってきた〜というフレーズが、心にしっくりこないだけなのである。

故に、そんな疑問がどこからともなく沸いてきたとしても、おかしなことは何もなかった。


「なぁ、エリザベス」


「なによ?」


「あれって、本当にイリアだったのか……?」


目を丸くするエリザベス。 本当に、と言われても、元々エリザベスはイリアと直接の面識が存在しない。

本人だと断定する要素がわからないのだから、それをエリザベスに問うのはカイトの失敗だったと言える。


「実際にあんたが格闘してみて、そう感じたんじゃないの? あれはイリアの動きに間違いなかった……って」


「そりゃそうなんだが。 なんだろうな……ともかく、なんか違う気がするんだよな。 あれがイリアだったって気が、いまいちしなくなってきた」


時間を置いて少々冷静になってきたのかもしれない。 あるいは事実を割り切ってしまったのか。 理由はともかく、カイトはその出来事をそれほど重視していなかった。


「レーヴァテインはちゃんと動いたし、エンリルが言うにも本物らしいけどな。 まあ元々ガルヴァテインが別世界のレーヴァだったわけだし、そういう意味じゃあれもガルヴァっていえるのかも知れないけどさ」


「そういえば、イリア・アークライトは……あ、新しく出てきた方ね? は、どうして一人でレーヴァを動かしてたんだろう? アーティフェクタって二人一組で動かすものよね?」


「わかんない事はもう一つあるぞ。 そもそもあれがイリアだったなら、何で攻撃してきたのかってことだ。 イリアはヴァルハラの景色が好きだった。 それを自ら破壊するような事はしないはずだ」


「だから、元々死んでたんじゃないの?」


「そりゃそうなんだが……それだけとは思えないんだよな。 何か俺たちは思い違いをしているような気がする」


「ふぅん……」


二人は肩を並べて歩き、ようやく本部にたどり着く事が出来た。

廊下を歩きながら、エリザベスは後ろで手を組みながら、カイトの前に躍り出る。


「でも、よかった」


「何がだ?」


後ろ向きに歩きながらカイトを見上げて笑うエリザベス。 少しだけ照れくさそうに、視線を逸らした。


「また、カイトがイリア・アークライトのことでうじうじしてるんじゃないかって……心配してたの。 ちょっと」


「ちょっと、かい」


「そうよ。 ちょっとよ」


「そっか。 ありがとな」


エリザベスの頭をぐりぐりと撫で回し、それから笑うカイト。 エリザベスはぼーっとした様子で立ち止まり、カイトの後姿を眺めていた。

しばらく歩いてからカイトもそれに気づいて立ち止まり、振り返る。


「どうした?」


「カイトはさ……。 イリア・アークライトと、付き合ってたんでしょ?」


「…………。 誰に聞いた? ユカリさんか?」


「うん」


「……」


頭を抱えるカイト。 ぶつぶつと独り言をもらし、それからエリザベスの立つ場所まで戻った。


「あの人はな、噂好きだから、あることない事言うから気をつけろ。 昔俺とリイドが付き合ってるんじゃないかとかいう噂が流れた事もあるくらいだ」


「つ、つきあってたの!?」


「つきあわねぇよ!! なんで男と付き合わなきゃならんのだ!? 気持ち悪い事言うなっ!!」


「……それはそれで……ちょっと、どきどきではあるけど……」


「何か言ったか……」


「いや、べ、べつに! でも、じゃあ、噂だったんだ……ただの」


「…………ただの噂、というわけでもないんだけどな。 まあ、結論だけ言えば別に俺たちは付き合ってなかったよ……って、何だこれ? 前にリイドにも言った気がするな」


思い返す。 その時は確か、まだ運用本部にもたった四人だけ……リイド、エアリオ、イリア、カイトしか席を置いていなかった時代。

四人で一緒にアミューズメントプレート、『ユーテリア』に遊びに行った時のことである。

その時はまだ、何も悲しい事も無く、辛い定を知る事もなく、そして四人揃って笑いあう事が出来た。

思えば四人揃って出かけることが出来たのはあのたった一度きりで、自分の中にある楽しい思い出はそれが最後だったのではないか? と、思えるほど。

とにかくそれは輝いていた思い出で、カイトにとっては大事なものだった。 あの時撮った写真は今でも部屋に飾ってある。


「ちょっと! 何一人でニヤニヤしてんのよ! きもい!!」


「……そういう言葉をどこで覚えてくるんだろうなああああホントっ」


「どこだっていいでしょ」


「口がどんどん悪くなっていくな……。 ま、とにかく俺たちは付き合ってなかったんだよ」


「そうなんだ。 ふうん」


興味なさげに呟いたエリザベスだったが、カイトに背を向け、少しだけ嬉しそうに笑ったことに、本人も気づいていない。


「そうだ。 エリザベス、ユーテリアって知ってるか?」


「……なにそれ?」


「ヴァルハラのアミューズメント施設だよ。 プレート一枚丸ごと遊園地みたいなところだ」


「ゆーえんち?」


「……そこからか」


だが、それも仕方のないことだ。 ともかく直ぐに気分を切り替え、カイトは背の低いエリザベスと視線を合わせる為に屈み、それから肩を叩いた。


「今度連れてってやるよ。 楽しいぜ」


「…………そ、そう? まぁ、どうしてもっていうなら、行ってやらないこともないけど……」


「ああ、どうしてもだ。 ていうか、俺が行きてぇんだ。 もう、二年は行ってないしな」


「じゃあしょうがないから付き合ってあげる」


「よろしく頼むよ。 さて、俺はこれからアルバさんの所に行くから。 ベルグの見舞いにも行かなきゃいけねーし」


「うん。 じゃあね」


ポケットに両手を突っ込み、去っていく背中に手を振った。

少女は少しだけ嬉しそうに先ほどの約束を心の中で反芻しては、頬を緩めていた。





「う……」


さむい…………。

全身が冷たくて、びっしょりで……ああ、そうか。 濡れてるんだ、私。

そんな事を考えながらゆっくりと瞳を開く。 そこは見ず知らずの場所だった。

鉛色の空が広がっている。 空からはざあざあと雨が……雨が……そう、ヴァルハラとは違う、空から降り注ぐ本物の雨が降っていた。

仰向けに寝転がっている。 空から降り注ぐ雨粒。 ゆっくりと身体を起こすと、私は何故かつい先ほどまでと格好が違っていた。

さっきまで共同学園の制服を着ていたはずなのに、何故か今は……今は、そう。 元々の世界の私服を着用している。

ジェネシスのシャツとズボンの上にエルサイムのロングコートを羽織っている。 何とか立ち上がるが、強いめまいのようなものが頭の中を駆け巡っていた。

ふらつく足で何とか建造物に背を預ける。 見渡す景色、直ぐ目の前には海があった。 アスファルトの大地に打ち付ける波は強く、夜であるせいか海は闇に包まれ、暗く深いその底を見透かす事は出来ない。

とにかく判った事が一つある。 ここは元の世界でもなければ、さっきまでいた世界でもない。 全く知らないわけの判らない場所に投げ出されてしまった、ということだ。

一緒にやってきたはずのユピテルの姿を探してみるが、結局見当たらなかった。 本当に薄情というか無責任なやつだ。

何がエスコートだ。 最後まで面倒みられないのか。 全く、信用なんてしなければよかった。

心の中でぶつぶつと愚痴を零した。 そうして顔を上げ、気づいた。


「髪……伸びてる!?」


それはもう、豪勢に伸びていた。 二年前と同じか、それ以上くらいは。

何故だかはわからない。 何で髪がこんなに一気に伸びたのか……だがまあそんな事は後回しだ。


「ここ……どこなのよ」


本当に全く見覚えのない場所だった。 何故こんなところにいるのか検討も着かない。 私にも全く関係のない場所だろう。


「……はあ」


ずるずると、その場に座り込む。

建造物の陰に隠れているおかげか、ある程度雨宿りは出来る。 それでも全身から熱を奪っていく雨の冷たさは相変わらずだ。


「……せんぱい」


疲れちゃいました。

あっちこっち飛ばされて。 わけのわからないことばっかりで。

貴方に会いたいのに、貴方はどこにいるのかもわからなくて。

現実に戻っても、きっと私はどうすればいいのかわからない。 判らないから……もう八方塞なんです。

膝を抱える。 子供みたいに。 どうすればいいのか、もう本当にわからない。

必死になって強がって。 でも駄目だ。 寂しいんだ。 誰かに助けてほしいんだ。

寒い。 雨が降っている。 どんどん気持ちが寂しくなる。 こんな誰もいない、人の気配のない場所でひっそりと消えてしまうんだろうか。 そんな事を考えると、胸が締め付けられるようで、とても苦しかった。

不安でたまらない時、いつでも先輩は助けに来てくれた。 颯爽と。 颯爽と。 でも、そうはいかない。 助けられてばかりってわけにも、いきませんしね。

もう私だって十六歳だ。 あの時の先輩より、年上になってしまった。 甘えた事ばかり言ってられない。 皆だって辛いけど頑張ってるんだ。


「…………せんぱい」


抱えた膝、爪がズボンに食い込んだ。

前髪からぽたぽた雨粒が落ちて。 涙も一緒にこぼれそうだった。


「いやだ、私……っ! こんなところで消えたくないっ!! 会いたい! 会いたいっ!! 会いたいんですっ!!」


「誰に?」


「先輩に……へっ?」


急に人の声が聞こえたのは、恐らくその人が近づいてきたのに気づけなかったからだろう。

気づけなかった理由はいくつか考えられる。 まずこの激しい雨音のせい。 そして自分が叫んでいたせい。

まあ理由はどうでもよかった。 目の前に、誰かが立っていた。 その人は黒い傘を私の頭上に差し出し、自分はずぶぬれになりながら笑っていた。


「へ…・・・っ? ぇっ?」


「……あれ? もしかして、オレの事忘れちゃったのかな……。 あの、なんていうかホラ……オレ、」


「先輩……なんですか?」


立ち上がる。 目の前に懐かしい顔があった。 けれどそれは見知らぬ顔でもあった。

成長した彼の姿はとても大人びていて、けれども雨に濡れた黒い髪の合間から覗く瞳はきらきら輝いていて。

あの頃と、何にもかわらない。 何にも変わらない、馬鹿みたいに颯爽と現れる――――。


「うわああああああっ!!」


「うわっ!?」


思わず飛びついてしまった。 なんというか、逃がしたくなかったのかもしれない。

ちゃんと先輩は暖かくて、ちゃんとそこにいて、ちゃんと、ちゃんと、助けに来てくれた……。

傘が勢い良く吹っ飛んで、夜の闇の中に溶け込んでいく。

先輩の背中に腕を回し、これでもかってくらいぎゅうっと抱きしめた。 縋りついた、というほうが正しいかもしれない。

ともかく私は形振り構わず彼に飛びついていた。 子供のように泣きじゃくり、馬鹿みたいにわめきながら、何度も何度も、彼の名前を呼びながら。

先輩はどんな顔をしているだろう? けれどもなんとなく想像はつく。 とても驚いて、それから少しだけ困ったように、無邪気なあの笑顔を向けてくれるんだ。


「アイリス」


私を抱きしめてくれる腕。 私の名前を呼んでくれる声。

たまらなく愛しかった、沢山のもの。


リイド・レンブラム。


その人の腕の中で、私は泣いていた。

泣きながら、笑っていた。

やっと会えたんだ。

二年も待ったんだ。

だから。 だから。 だから。


もう少しだけ、こうしていて――――。



「助けに、来たよ」



いつかの時のように彼はそんな事を呟いた。

雨がざあざあ降り注いでいるのに、その声だけは透き通るように私の耳に響いていた――。



とてもどうでもいい話を一つ。


ここまで書いたところで、僕はちょっと初代レーヴァの方を若干読み返しました。

初代は誤字やらなにやら文章的には酷いのであんまり読み返したくないのが本音ですが、何を思ったかぼんやりと眺めてみたわけです。

そうして思ったんですが、初代のほうが序盤は面白い気がします。

なんというか、今思うと話がまとまってたような気がしてきます。 実際は大してそうでもないんでしょうけど、不思議なものです。

でも何が大きく違うのかと言うと、やはりリイドの存在だと思う今日この頃。リイドは書いてて楽しい主人公でしたからね。

続編である本作も18部まで進みましたが、実際はまだそれほど内容は進展がありません。というのも、初代に比べると一話一話が短くなっているからです。

逆に言うと初代は一話一話が長すぎた気もします。今回は出来るだけ無駄を抑えよう無駄を抑えようと考えるあまり、ちょっと無駄が無さ過ぎる気もします。


改めて初代を見ると、リイドのキャラクターが駄目駄目だった時期があります。序盤のリイドですね。丁度今、続編である本作もそのあたりに位置しているのだと思います。

つまりここから、盛り上げていかなければならないわけですが、それも少々手間がかかりそうです。最終的にどうなるのかは既に決まっているのですが、今回は前作に比べると色々な方面に手を伸ばしているため、一つ一つ丁寧にやろうとするとえらい手間がかかります。

前作は元々長続きする予定がなかったので(需要的に)リイドのためだけの話で、それ以外の世界観とかは結構なげっぱなしでしたが、もうちょっと続編ではSFっぽくしたいなと考えてこうなったわけですが、どうなんでしょうね。


いまだに初代を読んで下さっている方も居るようで、本当にありがたいのですが、それにしてもこの小説はとても不親切です。

世界観は同じ、設定や人物も継承してはいるものの、この続編は前作とは分離した新しい物語と僕は考えています。 前作を読んでいなければわからないのに、前作とは違った形のアプローチなわけで。これってかなり不親切ですよね。


最近は忙しくてなかなか更新も出来ず、お話もなかなか進みません。ですがこれはこれでいいこともあります。


元々初代は、『出来るだけ早く更新するぞ!』と必死になっていたせいで、お話をゆっくり練りこむ時間がなかったように思います。つまり思いついたら即書いて即投稿です。

今はどうかというと、ネタを思いついてから少し考える時間があります。それは仕事中とかだったりしますが、ともかく一拍置く事で、また面白いネタを考え付く場合もあります。

実際今はそのおかげで思いついた展開もいくつかあります。なのでまあ、作品の品質を上げる意味ではだらだら気を抜いてやったほうがいいこともあるかもしれません。

何にせよ、こうして好き勝手気ままに小説を書けるのは、そんな小説でも読んでくれる読者様が居るからですよね。本当にありがとうございます。


そういえばこれは悩みなんですが、僕は登場人物の名前をあまり考え込みません。

続編になって登場した人の名前なんて大体その場で考えます。スオウさんとか、あとはキョウとマサキとか。それどころかエリザベスとかあのあたりも完全にテキトーです。

ソルトア・リヴォークとかも完全にテキトーです。何人の名前なんでしょうねこれ。国籍とかがあまり関係ない世界観で本当によかった。


そんな感じで次から少し展開も変わってくると思いますので、今後も長い目でみてやってください。ではでは。

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