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境界、紡ぎし者(2)


世界は元々一つだった。

ありとあらゆるものが最初は『1』で、やがてそれは倍に増え続け、数え切れなくなった。

誰かの手で管理できなくなったそれはゆっくりと零れ落ちて、誰にもわからないものになった。

この世の全てを管理することなんて誰にも出来るはずがない。 そんな中、ではどうすればその均衡を保てるのか。

貴方はそこで、何を見ているの? 貴方はその先で、何をしようとしているの?


『全ての物を管理する事が出来ないのならば、平和と言う二文字を体現するのは恐ろしく難解だ』


『君がそう願うよりも早く、何よりも早く、世界はそれを実現する』


『では世界とは何か。 それは何らかのカテゴリに当てはめる事が出来るような容易なものではない』


『滅びを望んでいるのは人か神かそれとも世界か。 そう、人間はやがて世界さえも侵食し、全てを台無しにしてしまう』


『では改めて問おう。 世界とは、何だね?』


白い砂漠の中に立つ純白のテーブル。 その上に一組の男女が腰掛けていた。

二人は同じものだった。 傷だらけの二人はテーブルの上にモノトーンのチェスを並べ、その駒を互いに握り締める。


『それはまるでゲームのようだ。 そう、最初から結末の決まっているお遊びだ。 なら、せめて楽しもうじゃないか』


駒が、盤に落とされる。


静かに世界が消えていく音を聞いた。




⇒境界、紡ぎし者(2)




「………………っっ!?」


猛烈に、脳内をフラッシュバックする景色。 しかしそれが何だったのかすでに思い出せなくなっている。

一分一秒一瞬一刻、私の頭の中の思い出が蝕まれていく。 そんな事さえ今この瞬間にはわからなくなってしまいそう。

ノイズが走る。 頭の中を駆け巡る何か。 私の心を覆い尽くしていく何か。


「……なみ、だ?」


悲しかった。 瞳からぼろぼろととめどなく流れる涙。 それはきっと、悲しみから来るものなのに。

内容が思い出せない。 私は何で、泣いているんだろう――?


「ここ、は?」


周囲を見渡す。 そこは見慣れているようで、全く見覚えの無い、





――――。




違う。 ここは私の部屋だ。 何で見覚えが無いなんて思ったんだろう?

疲れているのかな? 確かに昨日の夜は、無理して夜更かしをしてしまったから。

気になる小説の文庫本があって、それを最後まで読みきってしまいたかったんだ。 だから私は、アイリス・アークライトは、夜中まで本を読んで、眠い目をこすりながら頑張って、それから寝たんじゃないか。

覚えている。 ちゃんと記憶にある。 何で泣いているんだろう? 確かに感動的なラブストーリーだったが、涙を流すほどだっただろうか?


「わけわかんないです」


起き上がる。 カーテンを開け放つと朝日が差し込み、私の世界が広がっていく。

天空都市ヴァルハラ。 世界で最も安全な場所。 私の世界の全て。 果てしなく空に向かって伸びる塔。

窓を開けると朝の爽やかな風が吹き込んできて、私の長い髪を梳いていく……?


「髪……長い?」


指先に絡みつく真紅の髪。 それは随分と長く、寝癖でぼさぼさになっていた。

長いのは当たり前だ。 姉さんを真似して伸ばしているのだから。 ねえさ――?


「……っ!?」


何だ、さっきからこの違和感は。

まるで自分が自分じゃないみたい。 何をやっても違和感だらけ――まるでそう、ここは私の部屋じゃないみたいに。

息を呑む。 何を馬鹿なことを考えているんだ。 今日も学校に通って、昨日と同じ日常が続く。 世の中不思議な事なんてそうそうない。 私はそんな事、わかりきっているはずだ。

不思議な出来事なんて小説の中だけで十分だ。 私は普通に、堅実に、今まで生きてきたんだから――。


「はあ……」


気分が悪い。 寝不足はそんなに祟ったのだろうか? 部屋を出て階段を降り、リビングへ向かう。

階段を一歩一歩踏みしめる度、リビングから聞こえるテレビの音が大きくなっていく。 何故か知らないうちに私の心は高鳴り、めまいがしそうだった。

階段を下りれば、そこには今までどおりの普段どおりの日常が待っている。 そんな当たり前の事が信じられない気がした。

ゆっくりと扉を開き、リビングへ。 真っ先に目に入った真紅の髪。 制服姿の彼女は、人懐っこい笑顔を浮かべながらパンをかじっていた。


「あっ、おはようアイリス。 なんかあんたにしては随分遅かったわね? まあ、遅刻ってほどの時間じゃないからいいんだけどさ」


前髪を気にしながら私を見ている……姉さん。 イリア・アークライト。 私の姉さんだ。 大好きな、尊敬する、姉さんだ。

当たり前の景色のはずなのに、それを見た瞬間自分の心がおかしくなってしまった気がした。 涙が止まらなくなり、顔を両手で押さえて泣きじゃくる。


「うそだぁぁぁぁぁ……っ」


何が嘘なのかわからなかった。 でもそれは間違っている気がする。

なのに、なぜだろう。 こんなにも嬉しくて、世界がこのまま終わってしまってもいいと思えるくらいの幸福。 涙が流れるのは何故なのだろう。

姉さんに会えたことがこんなにも嬉しい。 おはようって言ってくれる彼女の笑顔が恐ろしく愛しい。 毎日見ているはずなのに、どうして――。


「わああああっ!! 姉さん、姉さん姉さんっ!!! ねえさん……っ!!! うわあああんっ!!」


「えっ? ええっ? な、なに……!? どうしちゃったの!?」


「わかんないいい……! わかんないけど……姉さん、姉さん姉さん、姉さん姉さん姉さんっ!!」


縋りつき、何度も呼びながら胸に顔を押し当てる。

暖かくてやわらかくていいにおいがする。 知っているはずなのにもうずっと忘れていた。 何故こんなに懐かしいんだろう。

姉さんは困りながらも私の頭を撫でてくれた。 少しずつ心が落ち着いて、ゆっくりと私が満たされていく。


「どうしちゃったのあんた……? 具合でも悪いの?」


「ううん、大丈夫なの。 大丈夫なんです。 ただ姉さんが、大好きなだけなんです」


「え、ええっ? ちょっ……朝っぱらから何言ってんの? ねえ、父さんと母さんも何かいってやってよ」


顔を上げる。 テーブルを囲んでいるのは姉さんと私だけではない。 エプロンをつけたお母さんが洗い物をしていて、お父さんが新聞を読んでいる。

何て夢見たいな景色。 当たり前の日々って何て幸せなんだろう。 胸が温かくて、もう一度姉さんの体温に甘えてしまいたくなる。

何度も何度も繰り返しほお擦りしていると、母さんが笑いながらやってきた。


「どうしたの、アイリス? まるで子供みたいになっちゃって」


「なんでもないんです。 何でも、ないんです」


席に着き、朝食を取る。 お父さんは新聞を読みながら寝ていた。 だからノーリアクションだったんだ。

お父さんはジェネシスに勤務する研究員だから、毎日毎日とても忙しい。 帰ってくるのも深夜とかが多い。 それでも家に帰ってくるようにしているのはお父さんがとても家族思いだからだ。

だから何時も疲れていて頑張っているお父さんの事を私たちは応援している。 ちょっととぼけた性格で、間の抜けた事をしてくれるのも慣れれば楽しい。


「ほら、アイリス。 早く着替えてらっしゃい。 イリアも急いで」


「なんか、前髪が決まらないのよね……。 ねえ、アイリスどう思う?」


「姉さんは別に黙って立ってれば美人なんだから、大丈夫ですよ」


「ちょっとそれどういう意味よ!」


「あははっ! 私、着替えてきますね。 前髪決めておいてくださいよ?」


楽しい。 心が躍るようだった。 これから私は姉さんと一緒に学校に行けるんだ。


ねえ、これ以上の幸せって、ありますか――――?





燃え盛る炎の海の中、立ち尽くす巨人。

倒壊し、消滅していく町。 消えていく命の光。 沢山のものが台無しになってしまう中、ジェネシス本部もまた多大な打撃を受けていた。

本部施設の30%が炎上し、余剰スペースは完全に消滅した。 情報網は断裂し、現状を正確に認識する事さえ出来ない。

一度は停電し、しかし自家発電に切り替わった本部に照明が復活する。 状況確認を急ぐオペレータの中、オリカは腕を組んで考え込んでいた。

地下、ユグドラシルから現れたイカロス。 しかしその反応とは異なり、今のイカロスの外見は彼女たちが見知ったものとは異なっている。

より禍々しく、神々しく。 その状態がなんであるかと問われれば、答えは一つ。


完全開放オーバードライブ


かつて二年前、オーバードライブを実現した少年がいた。

一撃で巨大な神を葬り去る力を持つレーヴァテイン本来の能力。 その力を完全に発揮した時の戦闘能力は圧巻の一言に尽きる。

しかし、だとすれば。 アレに乗っているの誰なのか。 そもそもアレはなんなのか。

少なくとも一つだけはっきりしている事がある。 それは、


「あれは敵って事」


机を、両手でたたきつけた。

信じられないほど大きな音が空間を包み込み、オリカは帽子を片手で握りつぶし、冷たい目でスタッフを見下ろした。


「うろたえている暇があったら指示を急いでください。 エース機は出撃し、イカロスを迎撃。 スタッフは本部機能の復活に当たってください。 それから訓練生も出撃させ、民間人の避難誘導を行ってください」


『司令部! こちらテイルヴァイト! 今直ぐ出撃できるの、あたしだけだから、さっさと出るわよ!!』


たまたま格納庫付近を歩いていたエリザベスはすぐさまテイルヴァイトに乗り込みカタパルトで出撃する。

テイルヴァイトに続き、続々と出撃するヘイムダルたち。 地上に出た彼らは炎の海の中、地獄のような景色を体現する紅蓮の神を前に息を呑んだ。


「何よこれ……。 さっきまで、普通に……みんな生きてたのに」


死体さえも残らない赤の世界。 近づいたものの体を消滅させる超高温の大気。 しかもそれは、人間にしか作用しない。

沢山の衣類が散らばっている。 それだけ沢山の生き物が消えてしまったという証。 誰かがそこに居たのだと言う証拠。

唇をかみ締める。 イカロスは悠々と、翼を広げながら歩いてくる。


「ねぇ……。 なんであんた、そんなのに乗ってるわけ――?」


猛烈に腹が立った。 なぜかはわからない。 気づけばチェーンソーを両手に構え、駆け出していた。


「目障りなのよ、その機体はァッ!!」


火花と唸りを上げて振り下ろされる刃。 しかし次の瞬間、目の前に居たはずの紅蓮は消え去り、テイルヴァイトの背後に立っていた。


「何っ!? 瞬間移動!?」


否。 単純に早すぎただけの事であった。

テイルヴァイトに続き、出撃してきたヘイムダル八機が、一瞬で八つ裂きにされていた。

悲鳴さえも聞こえない。 そんな中、イカロスはゆっくりと振り返る。 背筋が凍りつくようなおぞましさを前に、エリザベスはチェーンソーを振りかざした。


「この――――ッ!!」


しかし、腕がなくなっていた。 チェーンソーは遥か彼方の空を待っていて、イカロスの足が一撃で両腕を粉砕してしまった事を物語っている。


「でも――――ッ!!」


腰部に装備しているフォゾンライフルを構える。 しかし、それも蹴飛ばされて弾き飛ばされる。


「だからってえッ!!!」


頭から突撃する。 最早武器も無く、勝機も無い。 それでも何故走ってしまったのか。 そんなのはもう自殺行為に他ならないと言うのに。

だが、エリザベスにとってその真紅の機体は。 それに乗っている彼女には、絶対に負けられない理由があった。

だって、悔しいのだから。 負けたくないのだ。 その影に怯えながら生き続けるのは、いい加減うんざりしていた所――。


気づけば頭がなかった。


首をもぎ取られたテイルヴァイト。 ぎりぎり、ケーブルで首の皮一枚つながっているものの、機体ごと頭部は大地に叩きつけられていた。

握りつぶされ、炎上する機体。 コックピット内部に警報が鳴り響き、命の危機を警告している。

圧倒的すぎる。 ダメージを与えるどころか、一撃もかすりさえしなかった。 倒すのなんて夢のまた夢。

いや、わかりきっていたことだ。 オーバードライブのアーティフェクタを相手にして、生きて帰れるわけが無いのだから。

それでも出撃した理由。 金髪の少年の笑顔が脳裏を過ぎり、死というものを実感し、背筋を悪寒が駆け巡った。

これが、死。 そう考えた瞬間、怖くてたまらなくなる。 泣き出しそうでも、少女は歯を食いしばった。

泣いている暇なんてない。 助けなんて求めても来ない。 そう、わかっているのに。


「エリザベエェェェスッ!!!」


声は一つではなかった。


直ぐに反応し振り返り、空に手を翳すイカロス。 上空にはウロボロスの姿があり、高速で滑空しながら両手に構えたフォゾンライフルを連射する。

炎の結界でそれを弾き飛ばす。 しかし正面から低い姿勢で大地を疾走する蒼いヘイムダルの姿を、一瞬見失っていた。


「うおおっ!! どきやがれェッ!!」


両肩にマウントされたナイフを手に取り、切り込む。 しかし、結界を貫通できず刃の方が先に折れてしまった。

二機は同じ動作で相対する。 空中で交差する二機の蹴り。 びりびりと、大気を振動させる衝撃。 そして、拳を真正面から打ち合わせる。

しかしそこはイカロスのオーバードライブ。 ヘイムダルの腕は一撃で木っ端微塵に破壊され、振り上げた足も吹き飛ばされる。

だが、それだけの時間があれば十分だった。 大破したテイルヴァイトを回収したウロボロスが機体をエレベータに投げ込み、イカロスの背後からライフルを放つ。


「カイトッ!! 下がれ!」


「無理だろこれ!? 足片方ねえし――うわあっ!?」


ごく自然な動作で反転しながらイカロスはカイト機の胴体部を薙ぎ払う。

両断されたヘイムダルの上半身が地面に転がり、爆炎を巻き上げた。


「カイト――――ッ!!!」


炎を背にイカロスは姿勢を低くウロボロスを見据える。 まるで獣が飛び掛るタイミングをうかがっているかのようだった。

実際にそれは的確にまさに『そう』だと言える。 一撃でウロボロスの息の根を止めるタイミングを待っていたのだ。

一歩も動く事が出来ず、カロードの額を汗が伝う。 今まさにやられるかもしれない、そんな時――それは現れた。


何も無い場所から現れた巨大な鎌が、イカロスの背中に突き刺さる。


「あの機体は……?」


カロードはその機体に見覚えがあった。

漆黒のフレーム。 アーティフェクタというよりは敵である神に近いデザイン。

巨大な鎌を携えた死神――タナトスは、空間を引き裂いて突如として現れた。

直ぐに反転し、距離を置くイカロス。 イカロスが後退するのは始めてのことだった。 つまりそれだけ、タナトスを警戒しているのだ。


「何故あの機体がここに……」


カロードは以前に一度、それを目にしている。

かつてラグナロクの拠点を調査に向かった時、襲い掛かってきた機体――――。

敵だと思っていたその死神は、ウロボロスを庇うように前に出ると、鎌を真横に突き出し、ウロボロスに下がるように伝える。


「信用していいのか……お前の力を」


パイロット……ゼクスは何も答えない。 突撃してくるイカロス。 タナトスはその瞬間には消え去り、イカロスの背後に出現していた。


振り下ろした巨大な鎌がイカロスの腕を叩き落し、吹き出した炎が血のように空を焦がしていた。


れーばてっ!


第二話

『クーデレとツンデレってどっちが強いの?』



「はあ……」


憂鬱な気分になれば、そりゃため息も出ると言うものです。

お昼休みになった途端、イリアの席の周りはクラスメイトのみんなが殺到して、ボクは人の流れに流されまくり、食事どころじゃなくなってしまった。

結局、一人寂しくカフェテリアでコーヒーを飲んでいた。 まあ、一人が寂しいというよりはむしろようやく開放されたっていうか……。

本当に日がな一日、イリアの周りにはクラスメイトが殺到していた。 それだけ人気があるというのも、まあ頷けるだけの容姿なんだけどね。


「……今日は早いな?」


顔を上げるとそこには幼馴染のエアリオの姿があった。 白銀の髪の彼女はボクの前の席に座ると、勝手にボクの弁当箱からから揚げを摘まんで行く。

ぺロリと指先を舐めながら満足げに笑う姿になんだか脱力する。 彼女の分のお弁当を取り出し、テーブルの上に差し出した。


「これ、今日のお弁当ね」


「ん〜♪ この為に生きてるな」


「大げさだなあ、もう」


両手を合わせ、にっこりと笑うエアリオ。 その笑顔は反則的に可愛いのだけれど、毎日毎日こうしてお弁当を作っているとこの情景もなれたものになる。

彼女は、ぶっちゃけた話ボクの家に住んでいる。 ボクの母さんはジェネシスに勤務していて、普段は殆ど家に居ないので二人暮しといってもいい。

ボクに父親はいない。 なぜかはわからないけど、気づけばそうだったので気にしてはいない。 エアリオは母方の遠い親戚らしく、ボクらが中学に上がってから一緒に毎日生活している仲だ。

ちなみにエアリオに生活力は皆無で、毎日毎日ごろごろだらだらしている。 まるで飼い猫みたいなやつで、機嫌もコロコロ変わる。

でも総じて食べている時だけはおとなしくなって、おとなしくしている間は可愛いので、ボクはこの静かな時間がわりと気に入っていた。

ぱくぱくと手を止めず食べ続けるエアリオの食べっぷりは見ていて本当に気持ちがいい。 これだけおいしそうに自分の料理を食べてくれるとなると、それなりに作り手にだって感動がある。

それにしてもこれだけばくばく食べていて太らないのは何でなんだろう? 常々疑問だけれど、エアリオはなんでこんなにちっこいんだろうか。

まあ、考えてどうにかなることでもない。 ボクもお昼にありつこうと思い、から揚げにフォークを伸ばすと、その目の前でそれは空を舞う。


「んっ! 意外と美味しいのね……これ、あんたのお手製?」


「いっ……イリア・アークライト……?」


「なんでフルネームなのよ? まあ、そうよ。 イリア・アークライトよ。 隣、いいかしら?」


僕らの返事は聞かないでイリアはずうずうしく隣に座る。 なんだか彼女が隣に座っていると色々と気疲れするんだけどなあ……。


「……リイドの知り合いか?」


「あ、うん。 今日うちのクラスに引っ越してきたイリア・アークライトだよ」


「このちっこい女の子、リイドの彼女?」


「えっ!? ち、違うよ! 何言ってんだよ!? ボクとエアリオが、そんなわけないだろ……」


あわてて否定してしまった。 しかし、両方から何故かジト目で見られている。


「そうか。 リイドはそんなにわたしと付き合っていると誤解されたくないんだな。 おまえのいうとおり、リイドと付き合う事なんてマズありえないだろうけどな」


「な、なんでご機嫌斜めなのかな…・・・」


「それにしてもあんた料理上手ね……。 男の子がそういうのってどうなのかしら」


なんか古い考えをお持ちのようだよう。 しかも、ボクのお弁当すっげえ勢いで食い漁ってるし!?

ボクがそれをとがめるよりも早く、エアリオの手がイリアの手首を握り締めていた。 二人の鋭い視線が交錯し、なんだか無駄に緊張した空気に包まれる。


「勝手に人の弁当を食うな。 それはリイドの弁当だぞ」


「何? リイドのお弁当を食べていいのは自分だけ、とでも言いたいわけ?」


「んなあっ!?」


一瞬でエアリオの顔が真っ赤に染まった。 目が泳ぎまくっていて、悔しそうに唇をかみ締めている。

何でうろたえているのかよくわかんなかったけれど、イリアはそれを楽しんでいるようだった。 ニヤニヤ笑いながらボクのから揚げをもう一つ口に運ぶ。 ちなみに今のでゼロになった……。


「ん〜♪ リイドの弁当おいしい〜! ねえねえ、今度はあたしの分も作ってきてよ。 いいでしょ?」


「え? ええっ!? いきなりそんなこと言われてもなあ……」


「やっ……やめろようっ!」


エアリオが両手をぶんぶん振り回しながらイリアに突撃する。 それをひょいっとかわすと、力余ったエアリオは僕に向かって突撃してきた。


「だからなんでこうなるの!?」


「あううっ!」


どんがらがっしゃ〜ん。 とかよくあるよね。

気づけばもみくちゃになりながら僕らは倒れていた。 弁当箱の蓋が頭の上に落っこちて、むなしく音を立てる。


「いててて……。 エアリオ、大丈夫……?」


何がどうなったのか判らないけれど、ボクはエアリオに押し倒されていた。 金色の瞳が直ぐ目の前、息がかかるような場所にある。

吸い込まれていくような光の螺旋。 不思議な輝きを持つそれに見蕩れていると、エアリオの顔が見る見る赤くなり、ゆでだこのような状態で口をぱくぱくさせながらだらだら汗をかきまくっていた。

どう考えても異常な状態だ。 熱でもあるのかと思って額に触れた瞬間、地面に落ちていた弁当箱がボクの口に丸ごとぶちこまれていた。

言葉にならない痛みと苦しみの中、もだえるボクを放置して立ち上がったエアリオはイリアを睨みつける。


「おまえ……きらいだっ!」


「あら、そう? 別に好きになってほしいとも、思ってはいないんだけどね」


にやにやと笑うイリアと歯を食いしばって子供みたいに悔しがるエアリオ。

二人は結局ボクの口からお弁当箱を取ってくれなくて、しかも自分でも取れなくて、あとでカイトにとってもらうアホな目にあうのだった。



次回! ハートフル学園ラブコメディー『れーばてっ!』



……。


続きは未定。




さて。 期待の声にこたえてひっそりと連載します。

正式連載です。おまけですが。正式連載なので、まあある程度溜まったら別に短編とかとしてあげようかな?とか思っているわけですが、ここで問題発生。

ラブコメって何を書けばいいのかわからない僕がいる…………ッ!!!


やばい、最も苦手なジャンルかもしれない! マジで何書けばいいんだろう!?


とりあえず本編とは若干キャラクターの設定や世界観が違って欝なのはあんまりないようにしようと思いますが。

まあ、あくまでおまけなので……過度な期待はなさらないように!


そしてシチュエーション募集です。何か参考に読んだ方がいいのとかってあるのかな……。

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