序
はい、続編です。
でも手がスンゴイ痛いです。
ひいー、どうにかしてー…。
音が聞こえる。
それは『声』。 それは『祈り』。 それは『願い』。
音が導く世界の彼方から、呼ばれているその場所まで、私は歩いてきた。
大切なものは何? 守りたいものは何? 繰り返される自問自答の果てに行き着いた結論。
たとえ私の立つ場所が荒れ果てた荒野だとしても、いつかきっとたどり着いて見せる。
強い思いを胸に立ち向かおう。 まだ見ぬ世界の大いなる矛盾へと。
この世界が貴方を否定するのなら。
私は、世界を壊して貴方の元に駆けつけて見せる―――。
「行きましょう―――オルフェウス」
真紅の巨人。 私が願い、望んだその色を背負い、私は行く。
世界は枠にとらわれてなんかいないし終わってもいない。
それを撃ち抜いて、その先にある未来までたどり着いてみせる―――。
沢山の悲しみがあった。 沢山の願いがあった。 沢山の喜びがあった。
彼女はかつて私に言った。 『愛こそ力』と。 その言葉、今の私ならば理解出来る。
凍てついた心の先、たどり着いた果てない平原で、私は確かに彼の後姿を見た。
そう、だからこれは夢だ。
彼は、あの頃とは違う大きな背中で振り返り、それからあの頃と変わらない優しい笑顔を浮かべて私に告げた。
「 」
「先輩…っ」
手を伸ばし、その名前を口にすると彼はどんどん遠くに消えてしまう。
支離滅裂な様々な景色な頭の中を駆け巡り、覚醒していく。
夢から覚める。 あと少し、もうほんのわずかな間しか、彼に届かない。
「待って―――!! お願い、もう少しだけ…!」
遠ざかっていくその笑顔が何かを呟いて、私は目を見開いた。
気づけばそこは自室。 高級感溢れるホテルのように清潔な内装の中、朝日を浴びて髪に手を伸ばした。
「…んんんんん…。 寝すぎた…?」
そういえば昨日は何をして眠っただろう。 カーテンを開け放つと見えるヴァルハラの近代的な景色を目の当たりにし、静かに息を吐き出した。
所詮は夢。 でもどうしてだろう、ただの夢には思えない。 彼は今でも、私との約束を守ろうとどこかで頑張っている気がする。
いつも届かない、指先。 後ほんの少しだけ長ければ、彼の居場所まで通じるのだろうか―――。
『お姉さま〜! おはようございますです! お目覚めですか?』
扉越しに聞こえてくる明るい声。
「…はい、もう起きていますよ」
『早いです!? 昨日ほとんど寝てないんじゃないですか…? もう少し、寝てますか?』
「ううん、大丈夫。 それに―――隊長がいないんじゃ締まらないでしょう?」
苦笑しながら袖を通す上着。 そこに描かれた大樹に巻きつく龍のエンブレムは、新たな私の居場所の証。
鏡に映る、あの頃とは違う自らの姿。 けれども想いは変わっていない。
「…行きましょう、メアリー」
空に鳴り響く歓声。 大地に立ち並ぶ数え切れぬ程のヨルムンガルド。
その隊の前に、私と同じ制服に袖を通した兵士たちが並んでいる。
私はその前に出て、台の上のマイクを手に取る。
「―――我が隊の隊長である、アイリス・アークライト大尉からのご挨拶です」
舌ったらずな甘いメアリーの声はこの緊張した場では少し間抜けに聞こえた。
苦笑しながらその案内に従い、私は静かに息を吸い込んだ。
脳裏に浮かぶあの懐かしい日々を取り戻すための、大いなる一歩を踏み出すのだ。
「まず、始めに皆さんに自覚して欲しい事が一つあります」
静寂に包まれる広大な大地。 この場に存在する全ての命を背負い、私は戦えるのか。
否、戦わねばならないのだ。 逃げる事など許されない。 全ての罪を背負い、全ての業と共に前に歩むと決めたのだ。 そう―――、
たとえそれが、世界を犠牲にする行為だとしても。
「我らの名はジェネシスアークッ!!! 真の正義は、我らにありッ!!」
霹靂のレーヴァテイン
〜2nd Paradox〜
―――彼を、取り戻す為に。
吹きすさぶ風の中、私は瞳を開き、強い笑顔を浮かべる。
風に乗って届く淡い潮風の香り。 腰に手を当て、マイクを手繰り寄せる。
さあ、貴方まで声を届けよう。
変わり行く、この世界の歌を。