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風の中の葛藤06

校門から桜並木が続く坂道を上っていると前方に大介を見つけた。

私は彼の背後にそろりそろりと近寄り、後ろからちょっとつま先だちで背伸びして目隠しをした。

突然の出来事に大介は抵抗したが、両の手で彼の視界を覆った目隠しを取られまいと少し力を込めた。

「だーれだ?」

私は反笑い気味にそう言った。

大介はぶっきらぼうに答えた。

「こんなバカなことをするのは道子くらいしか知らない。」

私はつまんない反応だなあと呆れ気味にため息をつき両手を彼の眼もとから離した。

「もうちょっと面白い反応してよ。なんだか悪ふざけしている私がバカみたいじゃない。」

「バカみたいじゃなくてバカそのものだよ。もう16だぞ。そんな小学生でもやらないようないたずらなんかしやがって。」

私はフウンっと思った。

なんだか大人びろうと必死に高校生を演じている彼の心理が見え透いていたので白ける気持ちだった。

中学生ぐらいから彼の性格の歪みは尋常ならざるレベルで日々発達していった。今ではツマンナイの凝固体のような人格形成になってしまっている。

正直子供のころの様にもっと無邪気な反応を待っているのにそういう部分を出すことが恥と感じているのではないかと邪推している。

そんな大人の対応なんかちっとも嬉しくない。

私をイジメて楽しんでいるだけなのだ。

私が必死に無邪気を装っても彼はぶっきらぼうに受け流すことは随分長い間続いている。

幼馴染の少年少女なのだからもうちょっと他愛ない振る舞いをお互いに勤めるべきだと私は思う。

私は独り言のように呟いた

「とうとう高校生かあ。ついこないだ中学生になったと思ったらあっという間に卒業して、それからまた新しい学び舎で過ごすんだから変な話よね。なんだか自分で道を切り開いているというよりは青春という名のレールに乗って貨物列車で輸送されてるみたい。」

大介は桜の花びらが上空からハラリハラリと落ちる理由と私の言葉の意味について見聞するかのように答えた。

「やっとだよ。俺からすると長かった。やっと高校生になれた。これで少しは自由の幅が広がる。少なくともこの学校は口うるさく、ああだこうだ言わない学校だそうだから、これから自分の進むべき道をゆっくり検討することぐらいはできると思う。」

「自分の進むべき道ってなあに?」

「それはこれから考えるよ。どこにでも足を延ばせるように高校の最初の一年は真面目に勉強に打ち込む。少なくとも時間の浪費になるような怠惰な学園生活を送るつもりはないよ。」

さよですかと私は二重の白けた気持ちになった。

普段の大介はこんな観念で凝り固まった心情を吐露するようなことはない。

割合、面倒見がよく親身に相手の気持ちを汲み取って接するので同性にも女性にも人気がある。

私といるときだけ冷淡な口調になって本音を言う。

そんな本音欲しくないのだ。

私に対してもみんなと同じように優しく振舞ってほしいのだ。

なんだか世の中の事をすべて見透かしたような哲学者然とした態度が気に入らない。

中学二年生のころ大介は登校拒否して一年間引きこもっていた。私が会いに行っても鍵のかかった部屋に入れてくれなかった。

あんまりにも心配だったから涙ながらに開けてくれるようお願いしたこともあったのに決して部屋の中へ入れてはくれなかった。

中学三年になると何事もなかったかのように学校へ行き始めた。

学校のみんなは大介に何も変化がないように思っていたが、私だけに対してはどこか突き放したように冷たくなった。以前のような優しい大介はそこにはなかった。

いつも何かこう、自分の気持ちに素直になる、そういった少年らしさが無くなり達観して冷めた目つきで世の中を見渡す。そんな感じ。

基本、私が何か話さないといつも沈黙している。

私と一緒にいることがそんなに苦痛?とたずねたことがある。

大介はそうでもないとぶっきらぼうに答えただけだった。

一言くらい私に優しい言葉をかけてくれるかと期待して、そう尋ねたのに、そんな私の思いなんてどうでもよくて、切って捨てられたという気持ちになった。

所詮、私たちの関係なんて腐れ縁程度のものなのだろうか。

私の気持ちに大介は気づいているのだろうか。

きっと気づいても私の事なんてどうだっていいのだろうなと。


ダッテ私タチハ昔ナガラノ幼ナナジミ。恋ヤ愛ダナンテ、ソンナ関係ニナルコトハゴザイマセヌ。永遠ニ友達以上、恋人未満ノ関係デゴザイマス…


私たちは桜並木の坂道を潜り抜け、職員用玄関の前に着いた。

そこにクラス分けされ一人一人、丁寧な毛筆で記された生徒の名前と学籍番号が記された板が張り出されていた。

私は左上から順にたどるように自分の名前を探した。1-Cだった。そうして1-Cに中学時代の知り合いはいないか探していると大介の名前を見つけた。

私はドキッとした。

大介と同じクラスになるのは小学5年生以来だったからだ。

お母さんが言うように運命の赤い糸的な、その糸は天然の絹糸まではいかなくとも、二人の間には合成高分子的な赤い糸で繋がれているのではないかと。

脇の下から汗が流れていくのを感じた。

そんな赤い糸的な思いも大介の一言でぷっつり切れた。

「なんだ、同じクラスか。まあ仲良くやろう。」

随分冷めた一言だった。私は傷ついた。

そんな私に大介はかまうことなく、1-Cのクラスメイトの名前をじっと眺め、

「俺たちの中学は道子と俺だけか。」

と答えた。

私はえっ?と思いクラスメイトの名前を探してみると確かにうちの中学からの生徒は私と大介二人だった。

私は途端に不安になった。

もしかしたら友達ができないかもしれないと。

どちらかといえば引っ込み思案で昔ながらの友達を軸に交友関係を広げていた私には重大切実な問題だった。

大介はそんな不安を抱えている私の心情など構いもせず、先に行ってるとだけ言葉を残して去っていった。

一人ポツンと残った私は今後三年間、慎ましくもとも愉快爽快な、そんな学園生活を送れるかどうか、もしかしたら一人ぼっちで三年を過ごすのではないかと。


花の女子高生、入学式早々、暗雲垂れ込む初日となってしまった。

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