異譚者編ー4
4
ガルディアン第4支部管轄内ー廃都市オルイラ。
薄い霧が辺りを包み込む中、ポストルやタージュ、ニコルやマリヴィナの4人とフルエザが戦闘を開始した。
4機のエグゼキュシオンは、それぞれ装備している武装を駆使し、積極的にフルエザを攻める。
しかし、致命傷になるようなダメージを与えられない。
何故なら、フルエザが外見に似合わず俊敏であり、熱線や細長い尻尾、前脚を駆使して4機の攻撃を阻むからだ。
『今よポストル!』
「了解!」
通信回線を通し、ニコルの合図を聞いたポルトルは、返事を返したと同時に自身の機体を前進させた。
機体の武装をエグゼツインブレードから侵滅へ切り替え、一気にフルエザへ距離を詰める。
「そこだ!」
ニコルたちの的確な援護のお陰でフルエザの背後へ回り込んだポストル機は、フルエザの背中に狙いを定め、侵滅の黒い刃を突き刺そうとする。
しかし、瞬時に危険を察知したフルエザは、素早く体を横に移動させ、ポストル機の攻撃を回避した。
「まだ!」
ポストル機は、瞬時に侵滅を横に払い、フルエザの脇腹を切り裂く。
フルエザは、痛みから悲鳴にも似た雄叫びを上げ、ステップを踏むように後方へ退がる。
そして、切り裂かれた脇腹から赤黒い血液を垂れ流すフルエザは、コンクリートの地面に自身の両前脚を突き刺す。
「っ!?き、傷が!?」
地面に突き刺した両前脚を覆う血管のような筋が不気味に脈打ち、赤黒く発光する。
合わせて地面にも赤黒い筋のようなものが浮かび上がり、まるでフルエザの両前脚に吸い寄せられるかのように発光する。
フルエザが地面に両前脚を突き刺した直後、周りに生える草木が徐々に毒々しい色へ変色し、枯れ果てていく。
それに比例し、ポストル機が与えた傷が再生し、頭部の角がより伸び、尻尾が2本に枝分かれするという進化を見せた。
「まさかこいつは、他の生き物からエネルギーを吸い取って成長してるのか!?」
今まで見たことも聞いたこともない生態にポストルは、目を丸くして驚く。
『驚いてる場合じゃねぇぞポストル!』
タージュ機とニコル機、マリヴィナ機の3機が援護射撃を開始し、無数の弾丸が再生したばかりのフルエザを襲う。
襲い来る弾丸から身を守るため、以前よりも丈夫な双翼で体を覆い、弾丸を防ぐ。
『キリがない』
これでは一向にフルエザを倒せないと判断したマリヴィナは、自身の機体を前進させる。
『マリヴィナ!?』
ニコルは、いきなり自身の機体を前進させ、フルエザに接近していくマリヴィナに驚いた。
そんな彼女を他所にニコルは、自身の機体のバックパックに装備している槍、『エグゼ・ランツェ』を機体の右手に握らせる。
エグゼ・ランツェは、銛型の槍で状況に応じて伸縮自在な武装だ。
『あれが弱点』
透き通った腹部から見える規則的に脈打ち、それに合わせて赤黒く発光する臓器。
マリヴィナは、丈夫な肋骨に守られていることからフルエザの弱点である可能性が高いと判断した。
以前、戦闘した際にポストルが侵滅で突き刺そうとした臓器だ。
『そこ!』
肋骨の隙間を狙い、エグゼ・ランツェで突き刺そうとするが、フルエザの尻尾で薙ぎ払われる。
マリヴィナ機は、背中から建物に激突し、崩れた瓦礫の上に倒れ込む。
『ぐぁ!』
衝撃による痛みからコックピットに座るマリヴィナの表情が歪む。
すぐ動けないマリヴィナ機に口部を開き、喉の奥で稲妻を帯びた赤黒い閃光が増幅する。
命の危機を感じたマリヴィナは、無意識に瞳をギュッと閉じた。
『マリヴィナー!』
間一髪のところでニコル機が、マリヴィナ機を両手で掴み、フルエザが放った熱線を回避する。
続いてポストル機とタージュ機が、フルエザの背後から襲いかかり、フルエザに近距離攻撃を仕掛け、強引に注意を引く。
「やらせない!」
『さっさとおねんねしやがれぇ!』
*
戦場から少し離れた場所へ移動したマリヴィナ機とニコル機。
「大丈夫マリヴィナ!?」
ニコルは、傷ついたマリヴィナ機に対し、通信回線で呼びかける。
『私のことはいい。どうせ私は利用されるだけの価値しかない。利用されて死ぬだけなのにどうして』
不貞腐れた態度かつ後ろ向きな発言にニコルの堪忍袋の緒が切れ、初めてマリヴィナに怒鳴り声を上げる。
「いい加減にしなさい!」
『っ!?』
初めて誰かに怒鳴られたマリヴィナの体が反射的にビクッと反応し、目を丸くして驚いた表情でコックピットモニターを凝視する。
「私はあなたを利用したいとか道具だとか1度も思ったことないわ!」
ニコル機は、仰向けに倒れるマリヴィナ機を引っ張り上げ、彼女の機体を立ち上がらせる。
「誰が何と言おうとマリヴィナは私の大切な妹よ。だから自分をそんな風に思わないで」
ニコルがどうして兵器として生み出された自分を受け入れられるのかマリヴィナには理解できなかった。
「あなたが周りから酷い扱いを受けてきたのは知ってる。あなたが人に絶望してしまったことも知ってる。あなたをもっと早く助けてあげられていたらって後悔してる』
『……』
「だからせめてこれからはマリヴィナを1人にはさせない!」
嘘偽りのないニコルの本心が、分厚い闇に覆われていたマリヴィナの心に一筋の光を齎す。
『本当……お人好し』
凍てついていた心が僅かに温かくなるのを感じたマリヴィナは、そっと自身の胸に手を当て、僅かに微笑む。
「さぁ!私たちであいつを倒すわよ!」
コックピット内で頷いたマリヴィナは、ニコル機と共に急いで戦場へ戻る。
*
フルエザに上空で振り落とされたポストル機とタージュ機が、建物を破壊しつつ地上へ落下した。
余裕すら感じるフルエザは、咆哮を轟かせた後、戦場に復帰したニコル機とマリヴィナ機を肉眼で確認する。
『いくわよマリヴィナ!』
「うん」
それぞれ機体に装備された各スラスターを全開にして地面を滑るように移動し、フルエザに接近していく。
フルエザは、接近してくる2機に向け、口部から稲妻を帯びた圧縮熱線を何発も照射する。
「当たらない」
建物を蹴り上げ、移動しながら熱線を回避したマリヴィナ機は、空中に飛び上がり、バレットアサルトライフルを連射する。
『落ちなさい!』
ニコルは、フルエザがマリヴィナ機に気を取られている隙にフルエザの背後へ回り込む。
それに気づいたフルエザは、素早く振り返るが、首から胸部にかけて切り裂かれる。
傷口から赤黒い血が噴き出し、地面に落下したフルエザは、高層ビルの上に落下し、砂埃の中に消える。
首を左右に振り、瓦礫の上で起き上がったフルエザは、ニコル機に向けて口部を開く。
しかし、横から現れたマリヴィナ機に膝蹴りを浴びせられ、熱線は不発に終わる。
「まだ」
続けてマリヴィナ機は、フルエザの顎を殴り飛ばす。
強烈な一撃に怯んだフルエザは、建物を破壊しつつ背中から倒れ、瓦礫に埋もれる。
「これで」
『決めるわ!」
ニコル機とマリヴィナ機は、それぞれ刃を構え、地上用スラスターを使い、高く飛び上がる。
瓦礫を払いのけ、起き上がったフルエザは、上空にいる2機を見上げ、喉の奥に溜め込んだ体内エネルギーを放つ為、口部を開く。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
熱線が放たれる寸前で2機に弱点である臓器を貫かれ、悲鳴にも似た雄叫びを上げるフルエザは、何度か体を痙攣させた後、そのまま力尽きた。
フルエザが力尽きたと同時に辺りを覆っていた霧が晴れ、満天の星空が姿を現す。
『私たち姉妹が力を合わせればどんな敵も楽勝よ!』
絶命したフルエザからそれぞれ刃を引き抜き、付着した血を同時に払う2機のエグゼキュシオン。
その上空を禍々しい紫色の彗星が、夜空を切り裂きながら飛行していたことに誰も気づかなかった。