異譚者編ー3
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ガルディアン第4支部管轄内ー廃都市オルイラ。
薄い霧が包み込む廃都市オルイラにフルエザと数体の侵略者が戦闘中との情報が入った。
それを受けたガルディアン第4支部は、保有する4機のエグゼキュシオンを現地へ向かわせた。
ガルディアン第4支部が全戦力を投入できたのには理由がある。
ガルディアン第4支部から比較的近くに位置するガルディアン第9支部が、護衛を派遣してくれたからだ。
ガルディアン第9支部は、自身の戦力を危険に晒さず、ガルディアン第4支部にフルエザを討伐してもらう魂胆だ。
『目的地に到着しましたポストル准尉。切り離しのタイミングは任せます』
ガルディアン第4支部から廃都市オルイラまで距離が離れているため、パイロットと機体は大型輸送機で現地に運ばれた。
大型輸送機は、機体が着地し易いよう低空飛行に入り、安全な場所で滞空する。
「了解」
返事を返したポストルは、機体のコックピット内で緊張や不安を抱き、両手でコントロールグリップを握り締める。
「出撃します!」
ポストルの言葉に呼応するように機体のツインアイカメラが紫色に光り輝く。
そして、大型輸送機の固定アームから切り離された機体が、廃都市オルイラへ降下を始める。
ポストルは、機体の各スラスターを吹かし、降下測度を落とし、コンクリートの地面に機体を上手く着地させた。
『上手いわねポストル』
「あ、ありがとうございます」
ポストルと同じく自身の機体を地面に着地させたニコルから褒められ、真剣だったポストルの表情が僅かに緩む。
『……なんか変』
「えっ?」
通信回線で聞こえたマリヴィナの言葉に疑問を抱いたポストルは、コックピットモニターで外の景色を眺める。
眺めてすぐポストルも廃都市内の異変に気がつき、驚いた表情で異変を見渡す。
「く、草が枯れてる!?」
『それだけじゃないわ』
草木が毒々しい色に変色し、枯れているだけでなく、野生動物の息絶えた亡骸が多数散乱している。
「一体何が……」
『今言えるのは侵略者の仕業じゃないってことだけね』
ニコルの言う通り侵略者は、人間以外の生物や自然を意図的に襲ったりしない。
人類との戦闘で意図せず破壊しても自身の血液でそれを復元し、以前よりも豊かな自然環境を生成する。
しかし、ポストルたちの前に広がる光景は、侵略者が自然に齎す恩恵とは真逆だ。
『こちらタージュ、赤ちゃんを見つけたぜ』
一足先にフルエザを発見したタージュは、フルエザの位置情報を各機体に転送する。
タージュ機から送られてきた位置情報を頼りにポストル、ニコル、マリヴィナの3人は、自身の機体を目的地へ移動させる。
目的地へ到着した3機は、それぞれ自身の機体を朽ちた高層ビルの後ろへ隠す。
「前に比べて成長してる」
薔薇のような赤黒い筋が全身を覆い、規則的に脈打つのが確認できる。
フルエザから神々しさは失われ、禍々しい龍の如き体と立派な双翼を手にした。
ポストルが切り落とした翼をすっかり再生し、以前よりも頑丈そうな禍々しい翼をしている。
しかし、腹部や尻尾など所々に透き通った部分が見られ、まだ成長し切れていないと見て分かる。
『あいつ仲間を食ってんのか!?』
「侵略者が侵略者を捕食するなんて聞いたことない」
鋭い爪が生えた前脚で弱った獲物を押さえつけ、その首元に噛み付き、生え揃った黒い牙で血肉に食う。
フルエザが食する血肉は、紛れもなく侵略者であり、青黒い返り血で口周りを汚す。
今まで侵略者が侵略者を襲ったり捕食したりするところは目撃されていない。
異なる個体が同じ異空間の狭間から同時に出現しても同様だ。
そのことから侵略者は、仲間意識が非常に高く、異なる個体でも互いを仲間と認識し、決して争うことはないとされている。
しかし、フルエザは、仲間であるはずの侵略者を容赦なく食らう。
廃都市オルイラに集結した数体の侵略者は、全てフルエザに倒され、悲惨な状態で倒れている。
「もしフルエザが異空間の狭間を活性化させたのだとしたらその理由は、侵略者を食べる為!?」
フルエザが異空間の狭間を活性化させた元凶ならその理由はポストルが考察した通りかもしれない。
『くる!』
マリヴィナの言葉を聞き、その場にいた4機が素早く回避行動に移る。
何故なら、フルエザが侵略者の亡骸を4機がいる方向へ投げ飛ばしてきたからだ。
フルエザは、これまでの侵略者よりも危険を察知する能力が高く、マリヴィナの強い力を感じ取ったのだ。
『各機、攻撃を開始!フルエザを仕留めるわよ!』
「「「了解!」」」
フルエザは、口部の隙間から侵略者の青黒い血が入り混じった唾液を垂れ流し、威嚇するように喉を鳴らす。
戦闘態勢に入る4機のエグゼキュシオンは、それぞれ装備された武装を手に持ち、構えるとフルエザに立ち向かう。
対してフルエザは、4機のエグゼキュシオンを睨み、風圧のある咆哮を轟かせるのであった。