異譚者編ー2
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ガルディアン第4支部基地内ー2階廊下。
機体格納庫を後にしたポストルは、落ち着かない様子で鉄の廊下を意味もなく行ったり来たりしていた。
「落ち着きなさいポストル」
背後からニコルに声をかけられたポストルは、足を止めて彼女がいる方へ振り向く。
「だってこうしてる間にも異空間の狭間から次々と侵略者が出現しているんですよ!それなのに俺たちは何もできないなんて」
現状に納得がいかないポストルは、自身が抱く不満と怒りをニコルにぶつけてしまう。
ニコル自身もポストルと同じ気持ちであり、彼の気持ちを十分に理解しているが、冷静に言葉を返す。
「気持ちは分かるけど私たちが騒いでもどうにもならないわ」
痛いところを突かれ、返す言葉がないポストルは、悔しげに唇を噛み締め、自身の拳を握り締めた。
「張り詰め過ぎていたらいざという時に力が出ないわよ」
「す、すみません……感情的になって」
ポストルは、申し訳なさそうな表情で謝罪した後、ふとあることを思い出す。
それはマリヴィナが口にしていた『あなたもニコルと同じお人好し』という言葉だ。
彼女の言葉から考え、ニコルとマリヴィナの間に何かあるのではないかと思い、話題を切り替える意味でもニコルに尋ねる。
「そ、そういえばニコル姉さんとマリヴィナ中尉って第4支部で知り合ったんですか?」
ニコルは、ポストルがどうして急にそんな質問をしてきたのか多少疑問を抱くが、彼からの質問に答える。
「マリヴィナは、私がここに所属して2年くらい経ってからここに配属されたの」
ニコルは、片手に持っていた栄養ドリンクを一口飲み、喉を潤すと話しを続ける。
「マリヴィナが第4支部に配属された理由は、私とマリヴィナが家族……姉妹になったからなんだけど」
「ニコル姉さんとマリヴィナ中尉が姉妹!?」
初めて聞いた事実に隣で目を丸くして驚くポストルにニコルは苦笑いする。
「あれ?話してなかったっけ?」
「は、初耳ですよ」
人工適合者として生み出されたマリヴィナは、ガルディアン本部の保護下にあった。
しかし、人工適合者という出生のせいで彼女は、周りから非人道的な扱いを受けてしまう。
彼女へ暴力を振るう者や性行為を強要する者など、自分たちの欲を満たす為、マリヴィナを道具として扱った。
ガルディアン上層部は、そんな現状を知りながら見て見ぬ振りをしていた。
上層部ですらマリヴィナを道具として扱い、死んだら代わりの人工適合者を作ればいいという考えだったからだ。
人権を無視した劣悪な環境にいたマリヴィナの瞳からいつしか光が失われ、軽度の失声症を患った。
「俺たちと同じ人間なのにどうしてそんな酷いことを!何も悪いことなんてしてないのに!」
ポストルは、罪のない人工適合者に対する非道な扱いに眉間にしわを寄せ、拳を握り締めて怒りを露わにする。
人工適合者も自分たちと同じ人間であるにも関わらず、人工適合者を差別し、非人道的な扱いをする人たちのことを理解できないのだ。
幼い頃からそんな扱いを受け続ければ誰だって人間不信に陥り、心を閉ざしてしまうだろう。
「話を聞いた私は、すぐにマリヴィナと家族になりたいって第4支部の司令に申し出たわ」
「それで2人は姉妹になったんですね」
「なかなか本部は許可してくれなかったけどね」
ガルディアン本部が許可を出さなかった理由、それは人工適合者という強力な戦力を手放したくなかったから。
また、当時は半人前だったニコルにマリヴィナの保護者など務まらないと判断したからだ。
ニコルは、何としてもマリヴィナを救う為、率先して危険な戦場を潜り抜けた。
その後、ガルディアン本部は、ニコルの優秀な功績を認め、ニコルとマリヴィナが姉妹になることを承諾。
こうしてマリヴィナは、ニコルと姉妹関係になり、ガルディアン第4支部所属となる。
しかし、ガルディアン第4支部で初めてマリヴィナと対面したニコルは、言葉を失った。
何故なら、マリヴィナの髪は酷く乱れ、身に付けているパイロットスーツからは異臭が漂っていたからだ。
「だからあの時……」
あの時は、どうしてニコルの名前が出てきたのか疑問だったが、ニコルの話を聞いてその理由を理解した。
「以前より話すようになったけどマリヴィナの心は閉じたまま。私にですらまだ完全に心を開いてくれないし」
「きっと心を開いてくれますよ!」
自信ありげなポストルを見てニコルは微笑む。
「そうだと嬉しいわ」
良い雰囲気を一瞬で壊すように嫌なアラートが鳴り響き、2人の顔から笑みを奪う。
『緊急事態発生!フルエザが活動を再開し、廃都市オルイラへ移動中!』




