生誕編ー3
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ガルディアン第4支部管轄内ー開拓地。
双翼の生物を前にした各機体のコックピット内に警告を知らせるアラートが鳴り止まない。
コックピットモニターには『UNKNOWN』と赤い文字で中央に表示され、パイロットたちの恐怖を煽る。
双翼の生物は、機体に搭載されたシステムでは測定できない程の強大なエネルギーを持つ存在なのだ。
ポストルは、新たに現れた大いなる存在に恐怖し、全身が小刻みに震えて動けない。
何か言いたくても口が上手く動かせず、口をぱくぱくしながらコックピットの前面モニターを見つめる。
その時、クリミネルのエグゼキュシオン5機が、双翼の生物に対し、一斉にバレットアサルトライフルで射撃を開始した。
クリミネルのパイロットたちは、突然現れた未知の生物に恐怖し、自分たちへ害を成す前に排除しようとしているのだ。
放たれた無数の弾丸が、羽化して間もない双翼の生物を襲い、生まれたての柔らかい皮膚を貫く。
銃弾を浴び続ける双翼の生物は、少し離れた場所にいる5機のエグゼキュシオンに狙いを定め、尻尾に生えていた半透明の棘を払い飛ばす。
5機とも全ての棘を盾で防御し切れず、肩や腹部などに棘が突き刺さる。
盾や機体の数箇所に突き刺さった棘は、真っ赤に熱を帯びて次々と爆散した。
その影響で中破した5機に対し、双翼の生物は、口部から圧縮熱線が放ち、自身に危害を加えた5機を一掃する。
「あいつを倒す」
「了解!」
「りょ、了解!」
ポストルは、恐怖を押し殺し、マリヴィナ機の後に続き、自身の機体を前進させ、双翼の生物へ接近していく。
タージュ機は、2機を後方支援する為、所持していたバレットアサルトライフルを構え、双翼の生物に狙いを定める。
「め、目が開いた!?」
光に慣れ、閉じていた4つの目蓋が開き、まるでネコ科動物のような瞳が、接近してくるポストル機とマリヴィナ機を睨む。
「同時攻撃」
「はい!」
マリヴィナは、コントロールグリップのボタンを押し、機体の両手首に収納された超高周波ブレードを展開させる。
隣に並んだポストル機は、両腰に装備していたエグゼツインブレード2本を両手で引き抜く。
そして、2機がほぼ同時に武器を振り下ろすが、双翼の生物の長い尻尾で薙ぎ払われ、2機とも地面に倒れ込む。
各機体のパイロットである2人の体に衝撃による痛みが走る。
「ぐあ!」
「ぐっ!」
双翼の生物は、まず地面に倒れるマリヴィナ機を標的に動き出す。
双翼の生物の瞳は、マリヴィナ機のコックピット部分から青黒いオーラが漂っているように見えている。
マリヴィナがこの場にいる誰よりも高い能力を持ち、特殊な存在だと理解し、優先して排除しようとしているのだ。
「させねぇ!」
タージュは、双翼の生物の注意を逸らす為、コントロールグリップの引き金を引き、機体が持つバレットアサルトライフルを撃つ。
バレットアサルトライフルの弾丸が、双翼の生物の皮膚を貫き、双翼の生物がタージュ機へ頭部を向ける。
「赤ちゃんだからって容赦しな……っ!?」
タージュは、言葉を詰まらせ、全身に冷や汗が流れ出す。
何故なら、双翼の生物が向きを変え、体内に溜め込んだ圧縮熱線を自分に向けて放とうと口部を開いたからだ。
「あ、危ねぇ!」
タージュは、慌てて素早く機体を横に動かし、上手く圧縮熱線を回避することに成功した。
「この武器で!」
機体の体勢を立て直したポストルは、機体の右腕を動かし、バックパックのサブアームに装備していた新武装を機体に握らせる。
武装の名前は、黒き刃の太刀『侵滅』。
黒曜石を特殊加工して製造された刃は、従来の近接武器を凌駕する切れ味を誇る。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」
地上用スラスターで高く飛び上がり、落下速度を利用して黒い刃を振り下ろす。
タージュ機に気を取られ、油断する双翼の生物の左翼を骨ごと切断し、噴き出した赤黒い体液が黒い装甲を汚す。
「侵略者と血の色が違う!?」
ポストルは、双翼の生物の血の色が、侵略者と異なることに驚愕した。
侵略者の血が青黒いのに対し、双翼の生物の血は、人間の血液を少し濃くしたような色だ。
「ぐはぁ!」
血の色の違いに驚き、動きが止まってしまったポストル機は、双翼の生物の禍々しい右前脚に振り払われ、何度か地面を転がる。
右翼を切断され、怒り狂った双翼の生物は、空間を歪ませるほどの雄叫びを上げ、ポストル機に尻尾の棘を飛ばす。
「くっ!」
ポストルは、素早くコントロールグリップを引き、機体を立ち上がらせる。
エグゼツインブレード2本を駆使し、棘を弾き飛ばすが、その棘が宙で爆発し、舞い上がった爆煙と砂埃が、視界を奪う。
「くそ!」
舞い上がった爆煙と砂埃の中から姿を現した双翼の生物は、前脚でポストル機の両腕を拘束し、地面に押し倒す。
想像以上の強い力で機体の両腕が拘束され、基礎フレームを覆う黒い装甲が軋む。
「やらせない」
背後から現れたマリヴィナ機は、飛び上がると双翼の生物の背中に超高周波ブレードを突き刺した。
双翼の生物は、激痛に耐え切れず、ポストル機を解放し、悲痛な鳴き声を上げる。
「ポストル准尉!」
「はい!」
ポストル機は、透けて見える脈打つ臓器を狙い、侵滅を突き刺そうとする。
しかし、危険を察知した双翼の生物は、胴体を素早く横へ移動させ、致命傷を避けた。
「避けた!?」
ポストル機を前脚で投げ飛ばし、刃を引き抜いた双翼の生物は、逃げるように何処かへ去っていく。