生誕編ー2
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ガルディアン第4支部管轄内ー開拓地。
数十キロ離れた場所から舞い上がる砂埃に気づいたポストルは、腰に携帯していた双眼鏡を手に取り、それを覗き込む。
クレアシオン社製の機体を独自改造したのであろう5機のエグゼキュシオンが隊列を組み、ポストルたちがいる方向へ接近している。
その機体の右肩にはクリミネルを示す特徴的なエンブレムがマーキングされており、存在感を放つ。
「クリミネル!?」
「な、なに?!」
「ま、まさかあの物体を狙って!?」
ポストルが察した通り、クリミネルの目的は発掘された物体である可能性が高い。
もし発掘された物体が侵略者の卵ならクリミネルも喉から手が出るほど欲しいだろう。
研究成果を手土産に支援者を増やし、ガルディアンとの立場を逆転させ、クリミネルが優位に立つことができる。
ましてや今のガルディアンの組織運営能力は、極端なまでに低下している。
この千載一遇のチャンスをクリミネルが黙って見過ごすはずがない。
『2人とも早く機体に乗って』
マリヴィナの言葉に従い、ポストルとタージュは、急いで自身の機体の元へ戻り、コックピットから伸びるロープを使い、機体へ乗り込む。
ポストルは、コックピット座席に座り、自身の機体を起動させ、コントロールグリップを両手で握る。
「クリミネルめ!」
ミソンプやサラリエを含め、ガルディアン第3支部の犠牲者を思うとクリミネルに対し、並ならぬ憎しみと怒りがポストルの中に込み上げる。
機体のツインアイカメラが紫色に発光し、コックピットの前面モニターに外の景色が投影される。
発掘された物体を調査していた研究員たちは、マリヴィナの連絡を受け、慌ててその場から避難を始めた。
「クリミネルの部隊を止めるよ」
「了解です」
「了解……っ!?」
敵部隊の足止めに動き出そうとしたその時、突如稲妻を帯びた青黒い閃光が大地を切り裂き、そのまま天まで伸びる。
「な、なんだ!?」
突然の出来事に驚いているのは、ポストルだけではなく、その場にいる全員が驚きから硬直してしまう。
稲妻を帯びた青黒い閃光の正体は、高濃度に圧縮された熱線だ。
照射元は、侵略者の卵と期待を寄せる物体……その内部から放たれた。
予期せぬ出来事に侵略者の卵と思わしき物体を揃って凝視する。
「生まれる」
「えっ?!」
通信回線を通して聞こえたマリヴィナの言葉にポストルが困惑するのも束の間、楕円形の物体に亀裂が走る。
その隙間から青黒い蒸気が漂い、轟音と共に殻のような破片が辺りに勢いよく飛び散る。
大量に舞った砂埃の中、双翼を持つ巨大な生物のシルエットが浮かび上がる。
数十秒後、空気に混ざるように砂埃が消え、侵略者と同等の全長を持ち、粘液塗れの透き通った体表の巨大生物が姿を現す。
綺麗に透き通った体表は、体内の臓器や血管が目視できるほど透き通っている。
生物の見た目は、例えるならまるで神話や伝説に登場する双翼の龍のようだ。
神々しくも邪悪さを秘めた生物にポストルの全身から嫌な汗が溢れ出す。
本能的に目の前の生物が、これまで出会った生物の中で最も危険だと察したからかもしれない。
「あ、侵略者なのか!?」