夜明け編ー4
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ガルディアン第4支部基地内ー機体格納庫。
タージュと別れたポストルは、機体格納庫を訪れる。
時間を利用し、シュミレーターで特訓しようと考えたからだ。
ガルディアン第4支部は、防護壁内側の収容規模が小さく、収容人口が少ない為、侵略者から狙われる頻度は少ない。
その為、ガルディアンが管轄する領土の中でも比較的安全な場所と言える。
しかし、ガルディアン第4支部のパイロットは、実戦慣れしてないという評価を受け、弱小支部扱いを受けている。
その評価を覆す為にも精進を重ね、実戦で最善を尽くせるようにしなければならない。
「これから特訓?」
ポストルは、背後から少女の声で話しかけられ、その方向へ顔を向けた。
そこには頭にカチューシャをつけた紺色ショートヘアの少女がいた。
彼女の名前は、マリヴィナ・コルジュリア。
年齢は15歳で階級は中尉だ。
何処となくシレディアと似た雰囲気と面影を持ち、クールな性格から彼女の感情が掴みにくい。
ポストルとお揃いの黒いパイロットスーツが、マリヴィナの華奢な体をぴっちりと包み込む。
「それくらいしかやることないので」
「そう」
ポストルの答えにマリヴィナは、聞いておいて興味なさげな返事を返し、人差し指で自身の癖毛をいじる。
2人の間に沈黙が流れ、気不味い空気に包まれたポストルは、遠慮がちに口を開く。
「ま、マリヴィナ中尉は?」
「……今シュミレーター終わったところ」
普段、自身の感情を表情に出さないマリヴィナだが、今はポストルでも分かる程、表情に暗い影を落としている。
マリヴィナが何か悩み事を抱えているのではないかと思い、ポストルは彼女に尋ねる。
「何かあったんですか?」
その問いかけに反応したマリヴィナは、青を基調とした自身の機体を無言で見上げる。
彼女の機体は、二コル機と同じく青を基調とし、量産機をカスタムしたエグゼキュシオンだ。
熟練パイロットに与えられる機体で、カスタム機ということもあり、量産機の中でも性能は高い。
「今日は上手く機体と心を通わせられなかった」
ポストルは、まるでエグゼキュシオンに心があるかのようなマリヴィナの意味深な発言に首を傾げた。
そもそもエグゼキュシオンに心などあるはずがなく、人の心を読み取るシステムなども存在しない。
「あなたが『あの子』を操縦できるのは、シレディア大尉を想う気持ちがあるからかも」
再び意味深な言葉を残し、その場から去るマリヴィナ。
ポストルは、彼女にはミステリアスな部分があると内心で思いながら彼女の背中を見送った後、自身の機体を見上げて独り言を呟く。
「シレディアを想う気持ち……」
ポストルがシレディアに対し、特別な感情を抱いているのは明確な事実であり、ポストル自身も自覚している。
しかし、それが人工適合者専用機を操縦できる理由だとポストルには考えられない。
「ただの偶然だと思うけど」
ポストルが元シレディア専用機を初めて操縦したのは2ヶ月前まで遡る。
クリミネルから襲撃を受けるガルディアン第3支部基地内でユノや負傷したタージュと運良く合流できたポストルとシレディア。
4人は基地から脱出し、ガルディアン第3支部基地外部で敵を足止めするアルビーナ機と合流することを決めた。
ユノは、負傷したタージュを自身の機体へ乗せ、一足先に基地内から脱出。
ポストルは、シレディアと一緒に彼女の機体へ乗り込もうとしたが、そこにクリミネルの歩兵数人が現れる。
クリミネルの歩兵が撃ったライフルの弾丸が、不運にもシレディアの左肩に命中してしまう。
幸いにもパイロットスーツのお陰で弾丸の速度が、少しだけ弱まり、比較的軽傷で済んだが、機体を操縦できる状態ではなかった。
ポストルは、負傷したシレディアと機体へ乗り込み、コックピット座席に座り、コントロールグリップを握る。
人工適合者ではないポストルが操縦した場合、エグゼ・リアクターの高出力に体が耐えられず、操縦できないまま意識を失う危険性があった。
最悪な場合、重度の後遺症が残るかもしれないという恐怖がポストルを蝕み、コントロールグリップを握る手が震え出す。
しかし、何があっても彼女を守ると心に誓ったポストルは、コントロールグリップを握り締め、シレディア専用機を起動させた。
結果、体に何も異常は起きず、そのままシレディア専用機を受け継ぐこととなった。