関係編ー3
3
ガルディアン第3支部基地内ー第2格納庫。
シュミレーターを終えたミソンプは、機体の電源を落とし、薄暗いコックピット内で悲壮感を漂わせる。
自分の本心を押し殺し、上からの命令に従わなければならない立場に憤りを露わにする。
その気持ちがシュミレーターの結果にも影響し、いつものような好成績を出せなかった。
「私は……」
クリミネルに人工適合者の1人として生み出され、能力が低いと判断された同胞が次々に処分されていく中、ミソンプは努力と能力が認められ、生き抜くことができた。
ガルディアン側の立場からすれば非道な組織に見えるが、自分に衣食住を与えてくれた組織であり、その恩から命令に逆らえない気持ちが強い。
しかし、クリミネルが欲するシレディアを確保のため、ガルディアン第3支部基地を襲撃し、関係ない人を巻き込み、犠牲にする作戦には納得できない。
もし命令に逆らえば待っているのは死しかないのは分かっているが、大切な人を巻き込みたくないというのがミソンプの中に芽生えた本心だ。
「ポストル」
表情に影を落とし、生まれて初めての好意を抱いた人物の名前を呟いたミソンプは、ゆっくりと開閉ボタンに指を伸ばし、コックピットのハッチを開ける。
「お疲れ様」
「ぽ、ポストル!?」
まさか思い浮かべていた人物が、出待ちをしているとは思ってもいなかったミソンプは、目を丸くしてあからさまに驚いた。
「お、驚かせてごめん」
ミソンプと出会ってから初めて彼女が驚いたところを見たポストルは、驚かせてしまったことに申し訳なくなる。
彼からの謝罪を聞き、いつもの冷静さを取り戻したミソンプは、座席から立ち上がり、機体から降りてポストルの隣に立つ。
「謝らなくていい」
その返しにポストルは、シレディアの顔が一瞬脳裏に過る。
実は、以前からシレディアとミソンプの性格や態度に似たものをポストルは感じていた。
さっきの返しもシレディアがしてきそうな返し方であったため、ポストルの脳裏に彼女の顔が過ったのだろう。
「……」
ポストルの顔を見て安心したのか一瞬だけ抱えていた悩みを忘れてしまったが、再び思い出し、ミソンプの心を締め付ける。
普段あまり自分の気持ちを表に出さないミソンプの表情に影があると察したポストルは、栄養ドリンクを手渡しながら尋ねる。
「何かあった?」
「えっ?」
「いつもより元気がないように見えたから」
「あんたは……」
変な時だけ察しが良いポストルに溜息を吐き、受け取った栄養ドリンクにストローを刺す。
察しが良いなら自分の気持ちに少しくらい気づいて欲しいと本音を言いたいところだが、それを本人に言っても仕方がない。
ミソンプが自分に何を言いかけたのか気になるポストルは、首を傾げて不思議そうに彼女を見つめる。
「何でもないわ」
「そ、そうか」
ポストルは、もしかして意図せずミソンプの気分を害すようなことをしてしまったのではないかと困り顔で自分の後ろ髪かき乱す。
「わざわざ私が機体から出てくるの待ってたの?」
「仕事も早く終わったし、ミソンプと一緒にご飯食べたいなって思ったから」
「今日はシレディア特尉はいない?」
ミソンプから鋭い目付きで睨まれたポストルは、蛇に睨まれた蛙のような気分を味わい、自然と額から冷や汗を流しながら口を開く。
「きょ、今日はいないけど」
「本当に?」
疑心暗鬼なミソンプは、ポストルの顔を覗き込むようにして詰め寄る。
「あ、あぁ」
嘘はついていないが、ミソンプに詰め寄られ、至近距離で彼女の殺気がポストルを襲う。
彼の表情や反応からして偽りはないと判断したミソンプは、詰め寄るのを止め、いつもの冷静沈着な表情に戻る。
「なら、一緒に食べる」
「良かったってお、おい!?」
ミソンプは、強引にポストルの右手を引っ張り、簡易階段を降りて食堂までの廊下を歩く。
「そ、そんな急がなくても」
「あんたとの時間を大事にしたい」
意味深なミソンプの言葉にポストルは、違和感を覚えるが、思わず鼓動が高まってしまう彼女の発言にポストルの顔が真っ赤になる。
「ご飯食べたら私の部屋に来て」
「えっ?!い、いきなりな、なんで?!」
ミソンプがどうあがいてもガルディアン第3支部基地にいる全員を救えない。
しかし、ポストルだけでも救いたいミソンプは、クリミネルに頼み込み、彼を仲間に入れてもらうしかないという考えに辿り着いていた。
身勝手な考えであり、ポストルがそれを良しとしないのは重々理解しているが、ミソンプは彼を守るために動き出す。
事が終わるまでポストルを自身のそばにおいて置き、彼の身の安全を保障するため、彼を部屋に誘ったのだ。
「あんただけは私が」
その時、ガルディアン第3支部基地内に侵略者の出現を知らせる警報音が鳴り響き、続けてオペレーターの緊迫した声が流れる。
『異空間の狭間から侵略者が出現!パイロットは至急ブリーフィングルームに集合してください!』
まるでミソンプの作戦を台無しにするかのような侵略者の襲来にミソンプは、怒りから舌打ちをした。




