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関係編ー2


2


ガルディアン第3支部基地ー中庭。


自身の携帯端末を右耳に当て、誰かと通話しているポストルを偶然見かけたシレディアは、背後から彼に近づく。


タイミング良く通話を終えたポストルは、深く息を吐き、安堵した表情を浮かべ、右手に持っていた携帯端末を制服のポケットに入れる。


「ポストル」


突然背後からシレディアに声をかけられ、反射的にポストルの体が反応し、目を丸くして素早く後ろに振り返り、声の主を確認する。


「し、シレディアか」


「誰と電話してたの?」


シレディアの質問から自分が通話していたところを見られたと理解し、彼女の質問に回答する。


「お義母さんと話してたんだ」


「おかあさん……」


シレディアは、ポストルの『お義母さん』という単語に反応を示し、感情が表情に出ていないが、声の高低から何処か寂し気だ。


彼女にはテモワンという義父はいるが、母親はいないため、母親がどのような存在なのか分からず、『お義母さん』という単語に反応したのだ。


「実の母親じゃないけどね」


「えっ?」


「話したことなかったね」


ポストルとシレディアの2人は、近くのベンチに座り、桜の木を前に会話を始める。


その会話でシレディアは、ポストルの両親が侵略者アントリューズに食い殺され、運良く今の義母に引き取られたこと。


そして、義母の反対を押し切り、エグゼキュシオンのパイロットになったことを知った。


悲しい過去を持ちながらも純粋で優しいポストルにシレディアは、彼により好印象を抱く。


「そんなことが」


「パイロットになってから一度も連絡してなかったからお義母さんと会話するが気まずくて」


「ならどうして電話したの?」


シレディアからの問いに『お義母さんが毎日愚痴っているから』と答えようと思ったポストルだが、キャラバンへの印象が悪くなると考え、別の答え方をする。


「アルビーナ大尉からお義母さんが心配してるって聞いたから」


「アルビーナ大尉が?ポストルのお義母さんって第2支部にいるの?」


「あぁ、第2支部の司令だよ」


「キャラバン司令がポストルのお義母さんだったの!?」


ガルディアン第2支部の司令がまさかポストルの義母だったとは知らなかったシレディアは、珍しく目を丸くして驚いた表情を見せた。


「シレディアも知ってるんだね」


「うん、テモワン司令が優秀な司令だって話してたから」


ポストルは、自分が褒められている訳ではないが、テモワンが自身の義母であるキャラバンを高く評価してくれていることに喜ぶ。


「お義母さんをそう評価してくれているなんて嬉しいよ」


ポストルの義母がガルディアン第2支部の司令だと知ったシレディアは、僅かに微笑んで口を開く。


「わたしが第2支部に異動したらポストルのお義母さんに会える」


「確かにそうだね」


友人たちと別れるのは寂しいが、ポストルのお義母さんに会えるという楽しみが生まれ、シレディアの重たかった気持ちが少し軽くなる。


「そういえばシレディアとテモワン司令は、いつもどんな会話をするの?ユノ中尉から月1くらいで食事会してるって聞いたけど」


以前シレディアからテモワンと親子関係にあると聞き、2人の関係性を知っているポストルは、興味本位から2人が普段どのような会話をしているのか気になる。


彼からの問いに少し間を空け、シレディアは口を開く。


「シュミレーターの結果と体の調子を話してる」


あっさりとしたシレディアの問いにポストルは、物足りなさのようなものを感じた。


「……そ、それだけ?」


「うん」


親子の会話というより上司と部下の業務報告に近い会話にポストルは、思わず苦笑いを浮かべた。


「他に何を話していいか分からない」


シレディアは、ガルディアン第3支部に所属して以来、義父であるテモワンにどう接していいか分からず、密かに悩んでいるのだ。


それはテモワンも同じであり、年頃の娘であるシレディアにどう接していいか分からず、どうしても堅苦しい話題しか切り出せない。


娘のシレディアを守れず、危険な戦場で戦わせている罪悪感から踏み込んだ話ができないでいる。


「それにポストルみたいに司令を『お義父さん』って呼んだこともない」


親子関係にも関わらず、1度もテモワンを『お義父さん』と呼んだことがない。


テモワンが嫌いとか苦手とかではないが、いざ本人を前にすると無意識に畏まった態度になってしまう。


そんなシレディアの言葉を聞いたポストルは、自身の顎に手を当て、色々脳内で考えた後、例として提案を挙げる。


「例えば自分について話してみるとか?」


「自分の話?」


「あぁ、自分の好きな食べ物とか友達とこんな会話したよとか」


「迷惑にならない?」


シレディアは、いつも多忙なテモワンにポストルが提案したような内容の話をするのは、迷惑になるのではないかという消極的な考えになる。


そんな彼女の隣に座るポストルは、自信に満ちた表情で言葉を返す。


「迷惑になるはずないよ。だってテモワン司令もシレディアのこと知りたいはずだし」


自信に満ちたポストルの表情を見たシレディアは、安心したのか優しい笑みを浮かべる。


「今度、司令に話してみる」


「あぁ、結果報告を楽しみにしてる」


風に揺られる桜の木を前に微笑み合う2人であった。

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