偽り編ー4
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ガルディアン第3支部基地内ー中庭。
シレディアのガルディアン第2支部異動が決定したその日の夜。
シレディアのガルディアン第2支部異動するという情報は、ガルディアン第3支部に所属する全員に知れ渡った。
突然の知らせにユノは、我を忘れて取り乱し、自分もガルディアン第2支部に行くため、テモワンの自室に押し入り、直談判する事態が発生した。
残念ながら彼女の申し出は、受け入れられるはずもなく、テモワンに却下された。
ユノがシレディアに対して抱く異常なまでの好意が、再びガルディアン第3支部内に露見した。
「少しの間だけど寂しくなるな」
月明かりの下、ポストルとシレディアは、中庭の木製ベンチに座り、肩を並べて会話する。
テモワンとガルディアン第2支部司令との交渉により、シレディアの新専用機体が完成した後、機体と共にシレディアは、再びガルディアン第3支部所属に戻ることになった。
しかし、それが分かっていてもすぐそばにいた存在が遠くに行ってしまうのは寂しいだろう。
「わたしもポストルに会えないの寂しい」
シレディアの本心を隣で聞いたポストルの心拍数が急激に上昇し、顔が真っ赤に染まる。
平常心を取り戻すため、慌てて首を左右に振り、動揺しながら口を開く。
「め、迷惑じゃなかったら毎日連絡するよ!」
「うん、待ってる」
月明かりに照らされ、神秘的な存在感を放つ桜の木を名残惜しそうに見つめるシレディア。
そんな彼女の視線を辿り、ポストルも一緒に桜の木を見つめる。
「また一緒に桜を見たい」
「あぁ、必ず一緒に見よう」
ポストルの返事を聞いたシレディアの頬が意図せず赤く染まる。
もじもじと両足を動かす彼女に気づき、疑問を抱いたポストルは首を傾げて尋ねる。
「どうかした?」
「お、お願いある」
「お願い?」
「て、手繋ぎたい」
シレディアの大胆な発言にポストルは、座っていたベンチから飛び上がり、大袈裟に思えるほど驚く。
「し、ししししシレディアさん!?」
シレディアは、黒いパイロットスーツに包まれた華奢な手を動揺するポストルへ伸ばす。
彼女の積極的かつ大胆な行動にポストルの心臓は、今にも張り裂けそうだ。
「お願い」
シレディアとしては、別れる前に友達であるポストルの温もりを感じておきたいのだ。
「わ、分かった」
緊張から震えるポストルの手と華奢なシレディアの手が重なり合う。
互いの温もりが伝わり合い、恥じらいながらも2人の心が安らぎ、自然と2人に笑みが零れる。
その現場を物陰から見ていたサラリエは、唇を噛み締め、嫉妬に満ちた負の表情を浮かべた。
*
同時刻。
暗い一室で耳に装着するタイプの小型無線通信機を使い、誰かと会話する1人の少女。
「コードCが第2支部に……新型機開発の噂は本当だったということか」
ボイスチェンジャーを使っているため、声が機械的かつ感情が掴めない。
万が一ガルディアン側に盗聴されていた場合、声から通話相手を特定されるのを防ぐためだ。
そのため、声だけでは性別を判断できないが、喋り方からして男性だろう。
「第2支部へ移動する前に彼女を手に入れたい」
「シレ……コードC捕獲のために第3支部を襲撃するのですか?」
人工適合者として生み出されたシレディアは、当初『コードC』という実験番号で呼ばれていた。
今の『シレディア・テナプロメッサ』という名前は、保護者であるテモワンが名付けた。
「彼女を手に入れるためだ」
「そこまで手間と戦力をかける必要はないかと」
「情が移ったのではないだろうな?」
その言葉に図星の少女は、返す言葉を無くし、俯いて黙り込む。
「お前たち人工適合者に感情など必要ない」
人工適合者として生み出された少女は、幼い頃から兵器として戦うためだけの訓練と教育しか受けてこなかった
故にいつしか自分自身の存在価値は、道具のように上からの命令に従い、戦うだけしかないのだと思い込むようになった。
ただ利用されるだけの毎日を過ごしていたが、ある少年との出会いが少女の心境に変化を齎した。
「作戦は追って連絡する。お前は黙って従えばいい」
「……了解」
会話を終えた少女は、右耳に装着していた小型無線通信機を外し、脱衣所へ向かう。
制服を脱ぎ、下着姿になった少女の下腹には、クリミネルの一員であることを示す刻印があった。
「ポストル……私は」
表情を歪め、苦しげにそう呟いた少女は、彼から貰ったピンク色のリボンを解き、三つ編みの髪を下ろす。