偽り編ー3
3
ガルディアン第3支部基地内最上階ーテモワン自室。
モガディシオを討伐してから1日が経過した朝。
シレディアは、テモワンから直接話したいことがあると言われ、ガルディアン第3支部基地の最上階にある彼の自室を訪ねた。
普通なら支給された制服を着用し、部屋を訪ねるのが相応しいが、相変わらず彼女の服装は、パイロットスーツのままだ。
テモワンの自室の前に到着したシレディアは、金属製のドアを軽く数回ノックした。
「入っていいぞ」
ドアの向こう側からテモワンの声が聞こえ、シレディアは金属製のドアを開けた。
「失礼します」
一礼してから室内に入ったシレディアは、テモワンに勧められ、革製のソファーに腰を下ろした。
中途半端な仕事をテモワンが片付けているのを待っている間、暇なシレディアは、座ったまま辺りを見渡す。
周りに置かれている本棚には、難しい題名の本ばかりが並べられており、木製机の上は様々な書類で埋め尽くされている。
司令官かつ支部長の業務がいかに大変か誰が見ても分かる光景だ。
部屋の片隅には、シレディアが幼い頃に遊んでいた玩具やぬいぐるみが詰め込まれた箱がある。
もうシレディアが遊ぶことはないと分かっているテモワンだが、親心から捨てられないのだ。
(いつもなんか落ち着かない)
シレディアは、辺りを見渡した後、心中でそんなことを呟いた。
現在に至るまで何度もテモワンの自室に訪れているはずだが、室内に漂う独特な緊張感と静けさに慣れない。
彼女が生まれた研究所がクリミネルの襲撃に遭う前日から1年間、この室内でテモワンと過ごした経験はあるが、もう昔のことだ。
1年間テモワンと過ごした後、シレディアは、ガルディアン本部所属となり、過酷な訓練と肉体強化を施され、エグゼキュシオンのパイロットとして育てられた。
12歳を迎えた彼女は、テモワンが指揮するガルディアン第3支部所属となり、現在に至る。
シレディアがガルディアン第3支部所属となった理由は、テモワンがガルディアン本部に彼女を自身の管理下であるガルディアン第3支部所属とするよう何度も申し出をしていたからだ。
当初ガルディアン本部は、貴重な戦力を手放したくないということからテモワンの申し出を却下していた。
しかし、ガルディアン本部ばかりが安定した戦力を保持し、各支部の戦力が弱体化している現状から彼の申し出を受け入れた。
「呼び出してすまない」
仕事を片付けたテモワンは、申し訳なさそうにシレディアへ謝罪し、彼女の向かい側に置かれたソファーに腰を下ろす。
「いえ」
周りから怖い司令と評判のテモワンを前にしても表情を変えず、シレディアは冷静に言葉を返す。
「早速だが本題に入ろう」
そう言ったテモワンは、ソファーの上に置いてあった業務用タブレットを手に取り、人差し指で画面を操作する。
タブレット端末にとあるデータを表示し、その画面をシレディアに見せるため、テーブルの上に置く。
「これは?」
タブレット端末の画面に表示されたデータを見たシレディアは、興味津々な眼差しでタブレットを手に取り、首を傾げて尋ねた。
画面に表示されているのは、何処となくアルビーナ機の面影が残る新機体の詳細なデータだった。
専門用語やスペックなど素人が見ても理解できず、頭が痛くなってしまうような内容だ。
「単刀直入に言うとお前の第2支部異動が決まった」
普段、あまり感情を表に出さないシレディアだが、その言葉を聞いた瞬間、目を見開き、驚きを隠せない。
「理由は、その画面に表示されているお前の新専用機が完成に間近だからだ」
新型機として、ガルディアンの依頼を受け、クレアシオン社が開発を進める新しい人工適合者……シレディア専用機。
資金が乏しい中、ガルディアン本部がシレディアのため、新機体の開発をクレアシオン社に依頼していたのには理由がある。
ガルディアン幹部たちは、数年前からシレディアの力が今よりも高まり、いずれ現機体では彼女の能力に追従できなくなると予測していたからだ。
シレディア本人に自覚はないが、彼女の能力数値は、日々上昇しており、ガルディアン幹部たちの予測通りだった。
唯一予想外だった点は、ペラロネとの戦闘後、原因は不明だが、シレディアの能力値がさらなる上昇を見せた点だ。
シレディアの力を世に見せつけ、他勢力の抑止力としたいガルディアンは、クレアシオン社に新専用機の開発を急がせた。
クレアシオン社にとっても有意義な話であり、優秀なパイロットが新型機を操縦し、自社の機体性能を世に示すことで、今よりも需要を高められるだろう。
また、ペラロネとの戦闘でシレディアが意図せず特殊なシステムを発動させことにより、貴重な戦闘データを得られた点も大きい。
これを機にクレアシオン社は、機体開発だけではなく、システムの量産と改良にも着手していく方針だ。
その方針にガルディアン側は、クリミネルにシステムのデータが渡るのではないかと不安を抱いている。
しかし、新機体の開発を優先してもらい、機体及び武器開発費用も特約価格でお願いしているため、立場的にあまり強く言えない。
「これがわたしの新しい機体……!?」
シレディアは、タブレット端末の画面に表示されている新たな機体に見入る。
本機は、機体系列的にはアルビーナ専用機の姉妹機に該当し、アルビーナ専用機同様、エグゼ・リアクター3基を搭載している。
インナーフレームは、アルビーナ専用機の基礎設計データを流用し、シレディアの戦闘スタイルに合わせ、調整と改良を加えたものを採用。
機体の装甲は、アルビーナ専用機の装甲を流用し、人工適合者の能力に対応した新規開発の装甲だ。
現シレディア機の戦闘実績データを新専用機に反映しているため、新専用機も近接戦闘に主眼を置いている。
カラーリングは、シレディアのパーソナルカラーに合わせ、黒を基調としたカラーリングにする予定だ。
「現機体ではお前の能力に追従できないようだ」
シレディアがペラロネとの戦闘後、機体が思い通りに操縦できなくなった理由。
それは現専用機がシレディアの能力に追従できなくなったからだ。
「最新の整備環境が整っている第2支部で、パイロット込みのテストや調整が必要とのことだ」
ガルディアン第3支部の整備環境では、システムの調整等に時間やコストが掛かってしまう。
そのため、次世代機の整備環境が整っているガルディアン第2支部で、新専用機を完成に導く必要がある。
「1週間後、アルビーナ大尉と共に第2支部へ異動だ。準備しておけ」
テモワンの言葉を聞いた瞬間、シレディアは、モガディシオとの戦闘中にアルビーナが言っていた『あなたを迎えに来たわ』という言葉の意味を理解した。
正直シレディアは、慣れ親しんだガルディアン第3支部から離れるのは、気が進まないが、上からの命令には従わなければならない。
それに合わせ、現機体では、侵略者と満足に戦えないが現状だ。
「了解しました」
さらなる強敵との戦いに備える意味でも自身の新機体を完成に導き、戦う力を得るため、シレディアは、本心を押し殺し、書類に承諾のサインをした。




