赤き処刑人編ー4
4
同時刻。
廃都市アイエラメント上空を飛行する大型輸送機。
大型輸送機の機体格納庫内で、固定アームに接続された赤いエグゼキュシオンが、静かに起動の時を待つ。
その機体の薄暗いコックピット内で、細くも引き締まった美脚を組み、退屈そうに待機する金髪ツインテールの少女。
彼女の名前は、アルビーナ・フォルデーヌ。
シレディアと同じ研究所で生み出された人工適合者だ。
年齢は14歳と若いが、飛び級で大尉まで昇格した逸材であり、ガルディアンの中でも3本の指に入る凄腕パイロットだ。
「目的地に到着しましたアルビーナ大尉」
大型輸送機を操縦する男性パイロットの声が、通信回線を通してアルビーナ機の静かだったコックピット内に流れる。
「了解」
アルビーナが男性の言葉に応答したのと同時に大型輸送機が滞空飛行に入り、大型輸送機の機体格納庫ハッチが両開きになる。
組んでいた足を下ろしたアルビーナは、臍下辺りまで開けていた赤いパイロットスーツを首元まで閉じ、女の子らしい華奢な両手でコントロールグリップを握り締め、自身の機体を起動させる。
「アルビーナ・フォルデーヌ、行動を開始するわ!」
呼応するように機体のツインアイカメラが黄緑色に輝き、赤きエグゼキュシオンが起動。
アルビーナ機を固定していたアームが、ほぼ同時に全て解除され、轟音が響き渡る戦場へ落下を始める。
「あれが今回の獲物ね」
バックパックのサブアームに装備していた『エグゼ・レールガン』を機体の両手が掴む。
エグゼ・レールガンは、クレアシオン社の工房で開発された試作武装であり、性能実験を兼ね、クレアシオン社が、ガルディアン第2支部に無償で提供したものだ。
エグゼ・レールガンを構えたアルビーナのツインアイカメラが、エグゼ・レールガンに備わったスコープを覗き込む。
それが機体のコックピットモニターへ反映され、アルビーナの透き通るような水色の瞳が標的を捉え、エグゼ・レールガンの照準を合わせる。
狙いが定まり、舌舐めずりをしたアルビーナは、コントロールグリップの引き金を引く。
それと同時に機体の人差し指が、エグゼ・レールガンの引き金に最後の力を加え、銃口から稲妻を帯びた特殊な弾丸が放たれた。
予期せぬ上空からの攻撃に電磁バリアを展開する暇などなく、正確なアルビーナの射撃が、モガディシオの背中から腹部にかけて貫く。
「い、今のは!?」
突然の出来事に驚いたシレディアは、素早く機体の頭部を上空へ向ける。
「初めましてねシレディア・テナプロメッサ特尉」
機体の各地上用スラスターを全開にし、落下速度を落として2本の脚で地面に着地する赤き処刑人。
「赤い……エグゼキュシオン!?」
初めて目にする新型機に目を丸くして見入るシレディア。
シレディア機同様、腹部のコックピットを間に挟む形で搭載された人工適合者用のエグゼ・リアクター2基。
そして、背部に小型のものを1基搭載し、それら3基を並列稼働させることで、シレディア機を凌駕する性能と機動性を実現した。
技術者たちは、エグゼ・リアクター3基の並列稼働を『トライリアクターシステム』と呼ぶ。
機体システムは、アルビーナの能力に完全一致させた新規のものを採用。
装甲下のインナーフレームは、シレディア機を参考にし、アルビーナの能力及び戦闘スタイルに合わせて新規開発したものだ。
文字通りシレディア機を超えた次世代のエグゼキュシオンだ。
「あんたを迎えに来たわ」
通信回線で聞こえたアルビーナの言葉の意味が分からないシレディアは、コントロールグリップを握りながら首を傾げる。
「っ!?」
しかし、今はアルビーナの言葉の意味をあれこれ考えている暇はない。
何故なら、背中を撃ち抜かれたモガディシオが立ち上がり、キャノン砲を構えているからだ。
弾丸に貫かれ、穴が空いた腹部から青黒い血液が溢れ出し、地面に水溜りを作る。
さらに機械と融合した体に青白い閃光が駆け巡り、バチバチと音を鳴らしていた。
エグゼ・レールガンの一撃を受け、機械部分が破損し、電磁バリアを発生させる能力を失ってしまった。
「あたしがアイツを倒すわ!」
地上用スラスターを使って地面を滑るように移動し、一直線に敵へ接近していくアルビーナ機。
弱ったモガディシオは、アルビーナ機に目標を絞り、エネルギー弾や小型ミサイルを一斉発射。
アルビーナは、余裕な表情で機体を操り、全て回避しながら自身の機体をモガディシオの懐へ潜り込ませる。
「これで終わり!」
アルビーナ機は、モガディシオに対し、再びエグゼ・レールガンを放つ。
しかし、息の根を止めるには至らず、エネルギーを溜め込んだキャノン砲が、アルビーナ機に向けられる。
「これで本当に終わり」
飛び上がったシレディア機は、2本のエグゼツインブレードでモガディシオの頭部を切断した。
頭部を失った胴体は、力なく地面に倒れ、切断面から青黒い体液が噴き出し、辺りに飛び散る。
「あたしの獲物だったのに!」
シレディアに獲物を奪われたアルビーナは、不貞腐れた態度で足と腕を組み、コックピットモニターから漆黒の処刑人を細目で睨むのであった。