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赤き処刑人編ー1


1


ガルディアン第3支部基地内ー中庭。


超大型の侵略者アントリューズ、ペラロネとの戦いから1週間が経過した。


暖かい朝日が降り注ぐ中庭で、シレディアは木製ベンチに座り、意味もなく桜を見上げている。


ペラロネ殲滅後、他の支部から救援に駆けつけた部隊により、ガルディアン第3支部のパイロット全員が救助され、無事にガルディアン第3支部基地へ帰還できた。


しかし、ペラロネを単独撃破したシレディアは、意識を失った状態で機体のコックピットから救出され、それから4日も目覚めなかった。


ガルディアン第3支部に所属する医師の見解では、限界まで達したエグゼ・リアクター2基の高出力にシレディアの体が限界を超え、その反動で意識を失ったのではないかとしている。


当時の情報から導き出した見解のため、実際の原因は今のところ不明だ。


また、後遺症として軽い記憶障害が見られ、システムが発動してからのことを一切覚えていない。


そのため、自身がペラロネを単独で撃破したことも覚えておらず、周りから聞いて初めて知った。


「やっぱりここにいたんだね」


横からポストルの声が聞こえ、シレディアは桜から視線を逸らし、声がした方向へ顔を向ける。


「ポストル」


無表情だったシレディアは、彼の姿を見るなり緩み、心を許した人にしか見せない笑みを浮かべた。


検査続きでゆっくりポストルと顔を合わし、会話することもできなかったため、こうして彼の顔を見れて嬉しいのだ。


ポストルを含め、ペラロネとの戦闘で機体が大破したものの幸い全員が軽傷で済み、現在では全員が仕事に復帰している。


しかし、ペラロネとの戦闘で大破した機体は、今も修理が続いており、現在、出撃可能な機体はシレディア機しかない。


「やっとゆっくり話せるね」


彼女の隣に座るポストルは、切り分けられたリンゴが乗った小皿を両手に持っている。


珍しい食べ物を持ってきたことに少し驚いたシレディアは、軽く首を傾げて彼に質問する。


「それどうしたの?」


「リンゴが手に入ったからシレディアと食べなさいって食堂の人が特別にくれたんだ」


炊事係の女性が、シレディアの体調を心配するポストルを気遣い、入荷したばかりのリンゴを切り分け、彼に渡したのだ。


果物や野菜は、肉や魚に比べれば生産性が高く、手に入りやすい食材であるため、人々の口にも入りやすい。


とは言え、侵略者アントリューズに生活域を奪われる前に比べたらそこまで高くない。


ガルディアンに果物が入荷するのは、月に1~2回程度だが、職員全員の口に入るほどの数は、なかなか手に入らない。


何故なら、食料の配給は、防護壁内側と外部居住区で暮らす住民を優先して行われているからだ。


そのため、ガルディアン内ではまず医務室に患者がいればそちらを優先して果物や野菜を配膳し、残りを一口サイズよりも小さく切り、職員たちへ配膳される。


ポストルは、爪楊枝が刺さった一切れのリンゴをシレディアに手渡す。


「ありがとう」


ポストルから爪楊枝が刺さった一切れのリンゴを受け取ったシレディアは、早速そのリンゴを一口食べ、滅多に味わえないリンゴの甘さが口に広がる。


「わたしが眠ってた時、ポストルが毎日お見舞いに来てくれたってドクターから聞いた」


シレディアが意識を失っている間、ポストルは毎日欠かさず、暇さえあれば彼女のお見舞いに訪れていた。


因みに彼に負けず劣らずユノもシレディアのお見舞いに通い、ポストルと会う度、一方的に彼へ敵意を向け、医務室にユノの怒号が鳴り響いていたらしい。


「シレディアは大切な友達だから」


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい」


可愛らしい笑みを浮かべるシレディアを見た瞬間、ポストルの頬が赤く染まり、思わず彼女に見惚れたことに動揺し、話題を切り替える。


「そ、そ、そういえば捕獲用拘束装置が作動しなかった理由が分かったよ」


「何だったの?」


「装置のシステムが予め破壊されてたって」


ペラロネ捕獲作戦にて捕獲用アンカーが自動で射出されず、手動による方法でも作動しなかった件について、調査の結果、捕獲用拘束装置のシステム全般が、人為的に破壊されていたことが判明した。


装置の設置に携わったのは、作戦に参加したパイロットと数十名のスタッフ、そして、作戦の立案者であり、作戦開始まで不慣れながらも現場指揮をしていたヴィス博士だ。


つまり、この中の誰かが人知れず装置を破壊したということになる。


「ここに裏切り者がいると考えて間違いないね」


「でも、侵略者アントリューズに味方しても意味ないと思う」


「いや、意味はあるよ」


どうしてポストルがそう言い切れるのか分からないシレディアは、首を傾げ、隣に座る彼を見つめる。


侵略者アントリューズの捕獲に成功すればガルディアンは、社会的に優位な立場を維持できるだろうし、今よりも支持者が増えるだろうからクリミネルのような組織からしたらそれは好ましくないはず」


「確かに」


「それに敵側の立場から考えると超大型の捕獲作戦に失敗して、超大型がガルディアンを壊滅してくれた方が都合がいいからね」


「自分たちの戦力を減らさないで済むから?」


ポストルは、シレディアからの問いにリンゴを味わいながら無言で頷く。


侵略者アントリューズを捕獲できていればガルディアンは、これまで以上に権力を誇示できただろう。


それに続いて今よりも世論が味方となり、支援者たちもそれに同調し、疲弊したガルディアンは立ち直り、強固な管理体制と戦力を保持できる。


クリミネルの目的がガルディアンを滅ぼすことだと仮定した場合、ガルディアンが今以上の権力を誇示するのは好ましくない。


「あくまで俺個人の考えだけどね」


クリミネルの目的がどうであれ、ガルディアン第3支部内に裏切り者がいるのは確実となった。


自身が所属するガルディアン第3支部内に裏切り者がいるという事実を噛み締め、ポストルは暗い表情を浮かべた。

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