超大型編ー4
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ガルディアン第3支部管轄内ー廃都市ベツマデフ。
ユノ機、サラリエ機の2機から麻酔を打ち込まれたペラロネは、女性の叫び声にも似た鳴き声を上げ、激しく暴れ回る。
恐らく体内に流し込まれた麻酔が、全身に麻酔が回り始め、襲い来る眠気を必死に振り払おうとしているのだろう。
「麻酔がこのまま効いてくれれば……」
もし捕獲作戦が失敗した場合、作戦を討伐に切り替えるよう司令のテモワンから指示は受けているが、できれば初の捕獲を達成したいと誰しもが思っている。
「っ!?」
誰しもが固唾を飲み、ペラロネの様子を窺う中、コックピットモニター越しから様子を見ていたシレディアの体が身震いした。
自身が人工適合者であるが故、他者よりも機器察知能力が長けており、本能的にペラロネから危険を感じ取ったのだろう。
他の人からすれば麻酔が効き、苦しんでるようにしか見えないが、シレディアにはここにいては危険だという確信がある。
その理由を上手く言葉にできないが、この場から少しでも離れるよう周りに促すため、急いで通信回線を開き、慌てた口調で言葉を発する。
「みんな急いでここから離れて」
通信回線を通して聞こえたシレディアの言葉にその場にいる誰しもが戸惑いの表情を浮かべる。
そんな中、ペラロネの巨大な口部が開き、そこから青黒い稲妻を帯びた熱線を照射し、荒れ狂いながら周囲の建物を溶かし、辺り一帯が焼け野原と化す。
数十秒後に熱線は止み、誰よりも早く回避行動に移り、地面に伏せたことで上手く熱線を回避できたシレディア機が、瓦礫の中から立ち上がる。
「み、みんなは……っ!?」
機体のツインアイカメラを通し、コックピットモニターに映し出される光景が、シレディアから言葉を奪う。
熱線の熱により、廃都市を灼熱の火が包み込み、熱気や黒煙が漂う廃都市に横たわる数機のエグゼキュシオン。
シレディア機以外の機体は、ペラロネが放った熱線を回避できず、全て大破してしまった。
幸いにもコックピットは無事だが、機体の損傷具合からしてパイロットは、少なからず怪我を負っているだろう。
「ポストル……ユノ……」
自分にとって大切な存在であるポストルやユノが、敵の攻撃で負傷したのではないかと思った瞬間、シレディアの中で何かが引き千切れるような音がした。
コントロールグリップを握るシレディアの両手に力が入り、スーツの伸縮する音が、静かなコックピット内に響く。
「よくも!」
シレディアは、生まれて初めて激昂し、普段の彼女から想像もできない鬼の形相を浮かべ、コックピットモニター越しにペラロネを睨む。
一方、一気に邪魔者を排除できたことに満足したペラロネは、女性の笑い声と低い怪物の雄叫びが混じり遭った不気味な鳴き声を上げる。
その鳴き声がシレディアの火に油を注いでしまう。
「コロス……!」
シレディアの綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、侵略者の血を思わせる青黒く邪悪な色へ染まる。
呼応するように機体のツインアイも同じ色へ変化し、燃え上がる炎の中、禍々しい光りを放つ。
同時に獣の雄叫びにも似たエグゼ・リアクターの駆動音が、焼け野原の廃都市内に響き渡る。
シレディアに秘められた特殊な力が何らかの理由により目覚め、人工適合者専用機に予め仕込まれていた特殊なシステムが発動したのだ。
それにより、並列稼働するエグゼ・リアクター2基の出力制限が解除され、限界までエグゼ・リアクター2基の出力が急激に高まり、機体内で発生した高熱が、黒い装甲の隙間から排出される。
パイロットであるシレディアは、自身の能力や機体に組み込まれたシステムの存在すら全く知らない。
発動した今も怒りに我を忘れているため、その力の発現に気づいておらず、ただ己の怒りに任せ、意図せず力を発動させているのだ。
今の彼女は、自身で制御できないほどの怒りに支配され、ペラロネを確実に殲滅・破壊……殺すことしか頭にない。
「殺ス!」
邪悪な色に変貌した瞳で、コックピットモニターに映る強敵を睨み、シレディアはコントロールグリップを乱暴に押し倒す。
地上用スラスターの推進力も相まり、目にも止まらぬ移動速度でペラロネに接近する。
目の前で起こったシレディア機の凶変に困惑するペラロネに対し、シレディア機は両手に持つエグゼツインブレード2本をペラロネの巨大な口部に突き刺す。
それだけに収まらず、強引に刃を口部の奥へ沈ませ、青黒い血に塗れた鋭い刃が、喉に突き刺さる。
口内から溢れ出た青黒い血液が、邪悪に瞳を輝かせるシレディア機の黒い装甲に降り注ぐ。
「殺ス殺ス!」
怒りと破壊衝動に支配されたシレディアは、コントロールグリップを乱暴に動かし、いつも冷静沈着な彼女からは想像もできないほど荒れ狂う。
「死ネ!」
ペラロネの巨大な背中に飛び乗ったシレディア機は、マニピュレーターでペラロネの皮膚や血肉を強引に引き千切る。
痛みから悲鳴にも似た鳴き声を上げ、人間の女性のような上半身が反転し、両腕でシレディア機を抑え込み、まるで獣のように荒れ狂うシレディア機の動きを封じ込めた。
細い腕に見合わない怪力で締め付けられ、シレディア機の黒い頑丈な装甲が鈍い音を立てながら軋む。
「邪魔ダ!」
シレディアの怒りに呼応するかのように青黒いツインアンカメラが輝きを増し、強引に両腕を振り解く。
そして、女性のような上半身の腹部に素早く狙いを定め、手刀で腹部を貫き、体内の臓物を引き摺り出す。
ペラロネの痛々しい鳴き声が辺りに響き渡り、可哀そうに思えてしまう程、痛々しい状態だが、元からシレディアには侵略者に対する慈悲など一切ない。
「死ネ!」
臓物を雑に放り投げたシレディア機は、人間の女性のような頭部を鷲掴み、強引に首をへし折った後、胴体から頭部を引き千切る。
片手で掴んだ頭部を放り投げた後、ペラロネの背中を両腕で破壊し、引き千切った血肉を辺りに放り投げ、黒い装甲を侵略者の返り血で汚す。
荒れ狂うシレディア機を止めようと弱々しい触手が襲ってくるが、それを全てマニピュレーターで受け止め、乱暴に引き千切る。
荒々しい連続攻撃に自慢の再生能力が追いつかず、ペラロネは徐々に弱りを見せていく。
背中の皮膚や肉を剥ぎ取られ、丸見えとなった体内に脈打つ臓器を発見したシレディアは、その臓器に狙いを定める。
「コロシテヤル!」
殺意剥き出しのシレディアは、機体の右腕を操作し、その臓器をマニピュレーターに掴ませた。
そして、強引にそれを引っ張り上げ、そのまま体外へ引き摺り出す。
最後は、シレディア機の右手で臓器を握り潰され、生命機能を失ったペラロネは、悲惨な状態で力無く地面に崩れた。
グロテスクな死を迎えたペラロネの亡骸を踏みつけ、邪悪に瞳を輝かせるシレディア機は、まるで悪魔のようだ。




