ほのを
果て無く続く並木道の
朱に赤に臙脂に山吹に
ざざざざ
北の山から木枯らしが下りてくる
目覚めたばかりの冬の風は
渓谷の陰に透き通る石清水の冷凛の
森閑の木立を切り裂き煌めく朝陽の
ぼとり 落ちたトチノミの響きの
全てに連なる若さである
出会いの秋は
誰より美しく着飾る
優美に憧れの王冠を頂き
その黄金の眩さ!
白麗の若者は
始まりの純情に染まり
震える魂を捧げるだろう
しかし
彼の熱は氷の冷たさで
想うほどに求めるほどに
凍える風は吹き荒び
かつての「ほのを」を
次第に細く弱らせていく……
季節は交感する
それはまるで恋のように
やがて速やかに一方を残して終わる
春を残して冬は旅立ち
夏を残して春は去り
秋を残して夏は逝き
……
今、冬が秋から離れていく
冬がすっかり成熟すれば
老いた秋は恋を失うだろう
すべての季節は
残され
そして
消えていく
そのことが
ひたすら悲しいから
わたしは
季節と 季節の間に
立ち尽くしてしまう
けれど
新たな季節たちは
振り返らないだろう
(移り気なものたちだから)
朧月の下で散り急ぎ
濃密な闇夜のなかで蹲り
「ほのを」となって燃え上がり
音立てて落ちる氷の滝となり
最後の恋を待ち望むだろう
ある時期、季節と季節は同時にあると思うのです。秋の終わりと冬の始まりのように。そのことが、悲しい恋のように思われたのです。降るものと昇るもの。散るものと散らすもの。どちらでもなくて、どちらでもある季節に揺れてしまうのは、色づいた梢だけでなくて。