彼女の素性
この作品は、全て妄想であり、創作です。
もちろん、浩二に彼女が居るのだろうと考えたことは何回もあった。
私は浩二との最初の食事の時から、主人が日本に何年も居ないのは今に始まった事じゃない事や、国政が危ない場所を移動してる時はむやみに遊びに来るなっと言われている事、-それ以前に小学生の娘が臆病で長時間の飛行機に乗りたがらず、今まで主人の現場に行った事は無いのだが- そういうのも関係してかなんとなく、淡々とした友達のような夫婦である事、別に私はそれに不満だと思った事は無い事や、主人と出会ったいきさつなども簡単に浩二に話しをしていた。
浩二は自分の彼女歴を話してくれた事は確かにあった。大学時代の同級生で非常に利巧な人だった、強い人だったのであまりかまわなくても平気だと思ってお互い好きな事をやっていた、浩二は大学院進学が決まっていたが、彼女は卒業して就職だったので5月の連休に卒業旅行にでも豪華に行こうと思って計画を立て、どっちのプランにしようか?って聞こうとして呼び出したら、お互い大好きな友人のこのまま、お別れしましょと言われて愕然とした事・・・
をオモシロ、可笑しく話してくれたっけ。
『女性ってパフェ食べながら別れ話できるんですね、鈴木さん、どう思います?』
と、私はその時あんみつを食べておりゲタゲタ笑いながらその話聞いてたっけ・・・
考えてみるとその後の彼女の話は知らないや・・・
浩二は主人が日本に居ない事で、私は彼女の影が見えない事で、いつかは別れなくてはと思っていても、どこかまだ大丈夫だと互の罪悪感から目をそらしていたのだと思う。
私は、関係が始まった時から、浩二の転勤が決まったら別れるつもりでいた。どんなに会話と体の相性が良くても、これは一時的な恋かも知れないが、愛ではないと思っていたし、まして浩二から愛されているのかも知れないなどと、大それた事を考えるほど自信過剰でも無かった。逆に、年相応の浩二の周りに居るであろう女性達と比べられるのが怖くて、いつもちょっと遠慮していた。
しかし、予想に反してこんなにも早く別れの予感が立ち込めると、私はどうしていいのか分からず、と言うか、はい、彼女がいるんですね、別れましょ!ってな具合に自分自身に理性が働いてくれなくて愕然とした。
まずは、浩二に聞いてみねばなるまい。
現在の彼女なのか、片思いの子なのか、どの程度の関係の子なのか。
そして、彼女であるのなら、私と平行してこれからも付き合うつもりなのか、これで終わりにするつもりなのか。
『この写真、わざと車に残しておいたんでしょ?』
私は皮肉な言い方にならないよう、十分に語尾に気をつけながら優しく話し始めた。
浩二は暗い顔をして下を向いて、どう言い出していいか分からず、それでいて私をだましているような気がして黙っているのも苦しかった・・とぽつぽつ話始めた
彼女は浩二の4歳年下で、大学院時代に家庭教師をしていた教え子の姉であること、裕福な家庭の子で家庭教師以外の時もしょっちゅう家庭に呼ばれて食事をご馳走になっていた事、父親は有名自動車メーカーの部長、母親は華道教室をしていて、彼女は将来華道教室を継ぐこと、その母親が浩二をいたく気に入り、ほとんど婿扱いだった事、浩二の実家はあまり裕福でなく、そんなお嬢さんなら大歓迎で、1日も早く結婚して欲しいと両家が合意していて、気が付いた周りから固められてしまっていたなど・・・・
もちろん、世話になった人達から逃げるつもりなどない、東京本社に戻ったらきっちりその子と身を固めなくてはならないだろうな・・・と思っていた事。
ただ、彼女は育ちの良さのせいかわがままで、1対1でいると子守をしているように疲れる事、彼女も浩二を自分のものだと思っているのか最近までほとんど連絡もよこさなかった事、しかし、先日の祖父のお葬式でまた両家でその話がぶり返し、彼女の家庭のほうで急に浩二への干渉が色濃くなって来たと話してくれた。
そっか・・・あるあるだよね。
彼女や彼女の親にしたら、東京本社ならともかく、地方で何をやっているかわからない浩二に不安を覚えても不思議はあるまい。
彼女22歳。まだまだ純粋な年齢なんだから。
浩二の彼女の正体がはっきりしました。私はどうしたらいいのでしょう。綺麗に身を引けますかな?