携帯電話の夜
この作品は、全て妄想であり、創作です。
それからちょくちょく浩二は携帯に電話をよこすようになった。
別にいつもたいした話でかかってくる訳ではないのだが、毎回妙に話が盛り上がり、1時間以上話しこんでしまうのがざらだった。浩二は私のちょっとしたどうでもいい質問にもひとつひとつ答えてくれてけっして馬鹿にしなかった。私は私で浩二と話し出すと不思議に話しが止まらないのだった。それこそ、くだらない内容も多かった。紅茶好きとコーヒー好きな人の見分け方とか苗字と名前がバランスがいい人は金運がいいとか、美人にも不美人にも慣れすぎると何も感じなくなると言うがあれは嘘だとか、霊感のある人同士はなぜか引き合うとか。プレステ....(昔は流行っていた)のマリオカートはやっぱり運転のうまい人がうまいのか?いやあれをやってる人はほとんど免許持ってないよね?とか・・・人が聞いたらこれは子供同士の会話か?てな具合。
浩二の仕事終わるのも遅いし、私もさすがに娘が寝てからってことでだいたい夜の11時から12時がホットラインタイムだったが、私達はそれが楽しくて楽しくて、馬鹿みたいに携帯でしゃべっていた。そう、中高生の恋愛のように。
私は不思議だった。高校も地元の共学校だったし、短大時代、OL時代もいわゆるお友達の男子はけっこう回りにいた。まあ結婚前の主人ともそんなに話し込んだこともないが人並みのデートを繰り返して結婚したし、実家の弟とも仲良いし、一般人として自分がそんなに男性との会話が少ないと感じたことは一度も無かった。しかし、浩二と話すようになってから、今まで38年生きて来てこんなに男性としみじみ喋ったことが無い気がしたのにはちょっと驚いた。どの人ともちゃんとメインになるような会話はその都度してきたのだ、たぶん。でもこの雑談と言うか、女子同士で話すようなさまざまな内容のおしゃべりっていうのが始めての経験だった。しかも2人で話しが途切れないのだ。あと私が気に入っていたのは浩二が妙なシモネタ的な事を言って話を盛り上げたりしなかった事だ。
最初、浩二も実家のお母さんや姉さんと仲が良いと言っていたので、ああ、これは女家族の中で育ったからか?と思っていたのだが、聞いてみると家族にはもちろん、大学時代など回りの女友達からも浩二は無口だと思われている事が多かったとの事で、これまたへ~と言ってしまった。私も最初の浩二の印象は確かに大人しそうな人に見えたっけ。
私は思い切って、なんだか浩二と話しが途切れないのが不思議だと言ってみた、すると浩二が私の質問や回答が面白いと言った。飽きないと。
そっか~、もしかして会話の相性がいいってやつなんだろうか?なんて漠然と思った。、今までは、どんな人とでもこの人が自分は好きか嫌いかどうかだけで判断し、会話の相性が良いかどうかなんて考えてみたことは一度も無かった事に気づいた。
そんなある日、浩二が言って来た。
『こんなにしょっちゅう携帯で話てるんだったら、会って話ませんか?その方がなんとなく楽じゃないですか?』
う~ん、私もそう思っていた。会って喋ると気恥ずかしいところもあるだろうが、電話だけじゃ気が済まなくなるのが人間ってとこだろう。
私達は土曜日のランチに待ち合わせる事にした。
これはもしかして浩二の事を好きになってしまったのだろうか?自分でも良く分からなかった。
いや、まさかね。相手は自分と干支が一緒の12歳下なのだから。
すっかり浩二の話と夢中になってしまった私。次に会ってしまって大丈夫かな?