今度生まれたら
この作品は、全て妄想であり、創作です。
週二回のパソコン教室の仕事にもだいぶ慣れてきた。
私の担当する生徒さんは、ほとんどが60代後半のお年寄りで、年賀状に画像を入れたり、住所を印刷したり、ワードで簡単な文章を作ったり。
たまに熱心な方だとブログを更新したり。
簡単そうなことでも、結構教えるとなると、なかなかコツがいり、私も最初の頃はテキストの復習を欠かさなかった。
その後、娘も部活に塾に大忙し、送り迎えやお弁当作り、学校役員のお付き合いにご近所とのお付き合い、主人が不在なので、そちらの実家や親戚の法事も私が1人で出ねばならずと、浩二とあんな時間を過ごした事はまるで、幻だったんじゃないか?と思えるぐらい、日々の用事に追われた。
浩二から譲り受けた車も、すっかり私色にそまり、毎日活躍してくれている。
かすかに残って居た浩二の残り香も、もう無い。
今年になって一度だけ浩二から電話があった。
結婚の報告かと思ったら、意外な言葉だった。
会社を辞めて、関西に帰る事にしたから何となく挨拶しとこうと思ってとの事。
辞めて、医学部を目指して勉強やり直すそうだ。
彼女も彼女の実家もえらくご立腹だが、まだ、別れてはいないそうだ。
私と別れた後も、どうしても結婚の決心が付かず、会社に入ってみてやりたく無い仕事をしながら結婚するより、納得行く仕事をしてから人生決めようと思ったらしい。
へぇ。
あなたは、まだまだ青春してたいんだね?と思ったが勿論、言わなかった。
でも、勉強熱心な浩二ならきっといい医者になれるだろう。
あの狂ったような浩二との逢瀬を思い出すたび、浩二も私も現実から逃避したかったんだろうなと思う。
何が不満とかじゃなくて、人はちょっとしたきったかけで道を踏み外して苦しむんだろう。
浩二の弱さもズルさも卑劣さも頭の回転の良さも私を何かと褒めてくれた事も、愚かな私と過ごしてくれた事も、みんなひっくるめて精一杯愛した。
もしかしたらこんな経験しなくてのんびりあのまま、暮らしてかも知れないし、その方がまともな人間だったとは思うが。
輪廻なんてのが本当にあるのなら、今度生まれたら浩二の大学の同級生になってみたい。
そして浩二と思いっきり、論議を交わす。
勉強は勿論、政治とか経済とか。
文学や映画や音楽。
ラーメン論争。
私達はいつもみんなでワイワイ大騒ぎしてる。
そんな中で、浩二は私を選んでくれるだろうか?
会話が途切れなくて、こいつといると最高だって思ってくれるだろうか?
自分の隣にいるのはこいつしか居ないって思ってくれるだろうか。
そして結局、浩二の周りの見えない女の影に苦しんでひっそりと泣いているんだろうか。
若い彼に苦しんだ私の話はこれで終わりです。
作品の登場人物にモデルはありません。
全て筆者の想像です。




