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魔族襲来

 「これは……いったいどういうことなのでしょう!?いきなり魔族が現れるなどと………!」

 「……あり得ねえ可能性じゃあねえわな。最初に戦ったカルラはスキルで一軍を隠してたしな」

 「それに……あまり考えたくはありませんが、転移能力を保持している可能性もあります。実例もあることですからね………」


 連邦長に呼ばれ出されてから、十数分。連邦長の部屋にはこの国の重鎮たちと、私たちが集まっていた。ユート様とカトレアさんは参加することができないようだったので、宿の人たちに誘導されて避難を始めているはずだった。正直ユート様のことはまだ心配だが、カトレアさんがいるからにはおとなしく避難をしているはずだ。

 そんな中、重鎮たちはかつてない危機に混乱しきっていた。それもそうかもしれない。魔族がいきなり現れるなんてことは、これまでに知られていなかったからだ。


 「そ、そんな!?そんなことがあり得るのですか!?」

 「ど、どうすればいいのだ!姿が見えないものに対抗することなどできるはずもない!」

 「転移能力だと……どこに逃げればいいというのだ!すぐに追いつかれてしまうのではないか!」


 重鎮たちの声が飛び交う。もはや、死にたくないという感情だけが彼らを動かしているのだろう。この場から一刻も早く逃げだそうとする人もいれば、恐怖で体がすくみ、動き出せない人もいた。


 「静まりなさい!今の私たちには勇者様方がついているのだ!」

 「そ、そうだ。そうであった」

 「勇者様、どうか我らをお救いください!」

 「お願いいたします!」


 彼らを鎮めたのは連邦長だった。けれど、落ち着いたところで救ってほしいと願うのは自分たちばかりであった。それがどうにも納得がいかない。責任を持たなければいけない立場であるのに、まず願うのは自分たちの安全なのだろうか。


 「……私たちにできることをしましょう。あなた方は自国の民を一人でも多く避難させることに力を注いでください」

 「わかりました。よいな、できるだけ多くの民を救うのだ!」

 「「「「はい!」」」」


 慌ただしくなり始めた部屋を後に、私たちは外へと駆け出すのだった。


※               ※               ※

 「こりゃあ、ひでえな………」

 「もう戦場なのだ。仕方ないだろう」


 外に出て目の前に広がっていたのは、来たときに見ていた美しい街並みではなかった。壊され、あちこちで火が燃え上がっている地獄のような場所だった。あちらこちらで悲鳴が聞こえ、泣いているような声も上がっている。この光景を前に平然としていられているのはアルヴァ様だけで、他の人は大なり小なり反応をしていた。

 ジリアン様は顔をしかめている。凛花様は口を手で押さえ、コルネリア様は目を見開いて、声も出ないようだった。私もこの状況には無力感で苛まれている。もっと早く気付くことができていれば………


 「あっ………!」


 唐突にコルネリア様が声を上げた。驚いてそちらを見向くと、どこかに向かって駆けだして行ってしまった。他の方々もそれに気付いた様子で、すぐに後を追う。追いついた先では何故走り出したのか、その理由があった。


 「だ、大丈夫ですか!?」

 「うう……痛い……痛いよぉ………」


 瓦礫の下に足を挟まれてしまった子供がいた。彼女はこの子に気付き、駆け寄ったのだ。必死にどかそうとしているが、力が足りないのかびくともしない。


 「……仕方ねえ、あんまりやりたかねえが……狂暴女、そいつの足を切り落とせ」

 「なっ……ふざけてるの!?どかせばいいじゃない!それとも何!?この子を見捨てる気!?」

 「ちげえよ。ここで時間を掛けりゃ、どこかで救えたはずの命が失われるかもしんねえ。今は一刻を争ってんだ、そんなことをしてる暇はねえ!」

 「だからって言って………!」

 「大体、何のための回復魔法だ!治しゃいいだろうが!」

 「今回はジリアンの意見が正しいな。多くを救いたいのなら、そうした方がいいだろう。勿論、犠牲が広がってもいいのなら瓦礫をどけるが」


 凛花様は少し躊躇していたが、光の剣を出現させてその子の足を斬った。コルネリア様はすぐに魔法を使い始める。足もすっかり元通りになり、子供は目を丸くしていた。


 「あ、あの……これって………」

 「もう大丈夫ですよ。それよりも早く逃げてください」

 「そうだな。ここはもう危険だ」


 ジリアン様が警戒態勢に入った。ということは……

 不意に上空から一体の魔族が現れる。鷲が人になろうとすれば、こんな姿になるかもしれない。前に戦ったカルラに似ているが、体格も大きさもカルラをはるかに超えていた。実力から見ても、こちらの方が上だろう。


 「ほう……勇者か。ちょうどいい、俺が倒して名を上げるとしよう」

 「はっ、そういうあんたは八魔将みてえだな」

 「いかにも。我が名はガルーダ、大空を支配するものよ!勇者よ、覚悟するのだな!」

 「早く逃げて!ここはもう安全じゃありません!」


 コルネリア様が叫ぶ。子供が駆け出したのを見送ると、ガルーダと名乗る魔族はこちらに向かって突撃してくる。あまりの速さに対応できなかった私とコルネリア様は吹き飛ばされてしまう。大怪我をしなかったのはなんとか回避しようとしたからだった。

 連邦をかけた戦いが幕を開けた。

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