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ユートの過去

 「ユート様、温泉があるそうですよ?入りますか?それとも、食事にしましょうか?街に出れば、出店があるはずですし………」

 「…………」

 「ああ、それとも休みますか?ここまで徒歩で来たことですし、疲れたでしょう?」

 「……カトレア」

 「はい、何でしょうか?」

 「もう……いいよ。僕について来なくて」


 ハッと息を呑むような音がする。きっと、カトレアのものなんだろう。ぼんやりとだけど、そう思った。


 「あ、あの、冗談は………」

 「冗談じゃないよ。本当にそう思ってるんだ」


 顔を上げることはできなかった。それができるだけの気力なんて、残っていなかったから。だから、カトレアがどんな顔をしているかわからなかったんだ。


 「どうして、ですか……私は、何かいけないことをしてしまったのですか………?」


 返って来た声が掠れていた。ようやくのろのろと顔を上げれば、カトレアは涙をこぼしていた。


 「気に入らないことがあったのなら治します……だから、だからお願いですから……そんなことを言わないでください………」


 途切れ途切れではあったけれど、なんとか声を絞り出している。正直、泣いていないのが不思議なくらいだった。最後にぽつりと呟いた言葉で、カトレアがどうしてここまで追い詰められているのかに気付いた。


 「私を……また、一人にしないで………」

 「別に……カトレアが嫌いなわけじゃないよ」


 それでも、やっぱり座り込んだままだった。もう立ち上がるのも億劫なのだ。


 「それなら、どうして………?」

 「一緒にいるべきじゃないんだよ、僕たちは。一緒にいれば、絶対に不幸になる」


 そう、別にカトレアのことは嫌いじゃない。むしろここまで付き合ってくれ続けたわけだし、好意を抱いているのだろう。でも、だからこそ近くに居ちゃいけないんだ。

 僕の様子と言葉に違和感を感じたのか、カトレアが涙を拭う。そして、姿勢を正して僕に問いかけてきた。


 「どうしてそんなことが言えるんですか。理由がないと離れることなんてできません」

 「そう……なら、話すよ。過去に何があったのか。どうしてこんなことになっているのか」


 カトレアが無意識に唾を飲み込む。その音がやけに大きく聞こえた。


 「まずは何から話せばいいのかな……ああ、そうだ。僕がどうして生まれたのかがいいかな」

 「はい、そこからお願いします」

 「じゃあ、話すけど……そもそも僕は、人間じゃないんだ」


 その言葉にカトレアは目を見開く。そして、何度も首を横に振った。


 「そんなの、あり得ません!ユート様はどこからどう見ても………!」

 「人間だ、って?それはそうだよ。そうなるように、設計(、、)されたんだから」

 「せっ、けい………?」

 「そう。僕の正体は、人間たちが超能力を扱えるように一から創った、普通じゃない人間。人造人間とでも言えばいいのかな。とにかく、シルヴィアさんや凛花さん。勿論、カトレアなんかともまったく違う存在なんだよ。あそこにいた人たちは、僕たちのことをホムンクルスって呼んでたかな」


 ホムンクルスは人間の見た目をしている。脳みそもあるし、知覚系運動系の神経も人間とまったく同じ。けれど、違うところも色々とある。

 例えば、消化器官がないことだったり。

 例えば、薬を打たれなければすぐに死んでしまうことだったり。

 例えば、生殖器がなかったり。

 例えば、見た目がずっと変わらなかったり。

 例えば、感情がなかったり。

 例えば……超能力を扱えたり。

 僕の話を聞いて、カトレアは顔を青くしながらも言い募ってくる。


 「それでも!だからと言って、別れるまではしなくていいはずです!私は、ユート様が人間じゃないからと言って………!」

 「態度を変えることはない、ってこと?」

 「そうです!」


 カトレアの瞳を見れば、まっすぐであった。嘘をついてはいないのだろう。まあ、カトレアならそう言うかもしれないとは薄々感じてはいたのだけれど。


 「……すごいね、カトレアは」

 「……?それは、どういうことでしょうか?」

 「僕をホムンクルスと知っても態度を変えようとしなかった人は、知っている中で二人しかいないよ。カトレアで三人目だ」

 「は、はあ……だって、ユート様はユート様ですし………」


 カトレアは困ったような顔をしている。ホムンクルスだと知っても、今まで一緒にいたことで情が移ってしまったのかもしれない。うん。あの人たち(、、、、、)もそうだった。ホムンクルスだからと言って、道具のように扱うのはどうなんだって、真っ向から対立してたんだっけ。


 「ですから、ユート様と別れる理由には………」

 「理由はそれじゃないよ。僕からすれば、そんなことは些細なことにしか過ぎないから」

 「さ、些細なことですか………」

 「カトレアはさ。先生のことを覚えてる?前に話したと思うけど」

 「は、はい。ユート様を育ててくれた、優しいお方ですよね?」


 その言葉に頷く。そして、それが大きく関わっているんだ。


 「カトレアは死ぬことは怖くない?」

 「それは……勿論、怖くないとは言い切れませんが………」

 「だからだよ。だから一緒にいちゃいけない」

 「どうしてですか?」


 一度息を吸い込み、大きく吐く。そして、もう一度口を開いた。


 「僕は先生を……あの人を殺しているんだ」

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