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到着、サクラ連邦

 「よくぞ参られました、勇者様方、シルヴィア姫殿下。あなた方を迎え入れることができ、本当に幸運だと思っております」

 「ありがたきお言葉です。ところで申し訳ないのですが、本日泊まれるような宿はないでしょうか?なるべく、人がいないような場所がよいのですが………」

 「おお、それなら一つの宿を貸し切りにいたしましょう!何、勇者様方を迎え入れることができるのなら、宿にとっても名誉となりましょう」

 「それは……すみません、お世話になってもよいでしょうか?」

 「勿論ですとも。そういうことなら、案内させましょう」


 そんな会話がどこか遠くで聞こえるような気がする。目の前にいる人が誰なのか、ここはどこなのか。少し前までだったら気にしていたことが、気にならなくなっている。前までは見るものすべてが明るく映ったはずなのに、今では何を見ても心が動くことはなかった。


 「そういえば失礼になるのかもしれませんが、そちらの方々は?話では勇者様方は四人で、シルヴィア姫殿下が共に行動しているとのことでしたが………?」

 「……実は、魔族との戦いを手伝っていただいた方なのです。その渦中に魔族の攻撃を受けて、心に深い傷を………」

 「なんと、それは!なるほど、確かにそれなら療養が必要でしょうな」

 「はい。申し訳ありませんが、この方のためにも宿を使わせていただけないでしょうか?」

 「そういうことならば、快くお引き受けいたしましょう。この国で名物の温泉に浸かり、ゆっくりなさってください」

 「ありがとうございます」


 再び移動が始まったけれど、僕は結局何も言い出せなかった。いや……話す気力もなかったんだ。


※               ※               ※

 「ほんとにいいところだね。結構高いんじゃないの、ここ?」

 「そうでしょうね。恐らく一泊するだけでも、平民の方が一年を過ごせる金額になるでしょう」

 「はわわ、そんなところに来ちゃって大丈夫なんでしょうか………?」

 「むこうの方が用意してくれたので、構わないはずですよ。それに、勇者様たちにいらしていただけるというのは誉れでもあるのです」


 コルネリア様を安心させるために、笑いかける。コルネリア様もそういうことならと、安心して荷物を置き始めた。


 「誉れ、ってやっぱり宣伝とかに使われるのかな。勇者が泊まった宿とかで」

 「それは仕方ありませんよ。そのくらいなら甘んじて受けるとしましょう」


 確かに凛花様なら、そのようなことはあまり好きではないのだろう。けれど、ユート様のことを考えるならこれは仕方のない処置だったと言える。私が顔を曇らせたのに気付いたのか、コルネリア様が声を掛けてくる。


 「ユート君のことですか?」

 「……はい。何があったのかと思ってしまいまして」


 あんな表情や取り乱したところなど、私は見たことがなかった。それに、それを起こしたのがユート様だったということにも。私の知っているユート様はどちらかというと、あまり感情を発現させない人だったように思える。勿論、だからと言って悪い人ではないのはわかる。それどころか、普通に優しい人なのだ。

 そこで思い出す。ユート様の腕の傷を。あの魔物の言葉を。もしかしてユート様は……


 「おーう、邪魔すんぞー」

 

 ノックもせずにジリアン様が部屋に入ってくる。いつも通りと言えばいつも通りなので、凛花様も睨んでだけで済ませた。後ろを見ると、アルヴァ様もそこにはいた。


 「一応言っておくが、やっぱりユートの方にゃ変化がねえ。死んでるみてえになってんよ」


 困ったような表情で髪を掻くジリアン様。その言葉を聞いて、私はやはりかと気分が沈む。


 「あの嬢ちゃんがついてるから、何かあればすぐにわかるだろうが……当分はあいつの状態をどうにかするのが先決だろうな」

 「そう、ですね。ですが、どうしてああなったのかがわからない以上………」

 「いや、そっちについちゃ大体の予想はついてる。あんたら、あの黒い波動を受けたとき何が見えたよ?」


 ジリアン様の言葉に驚きながらも、あのときのことを思い出す。あのときは確か、ゾラン兄上を思い出したはずだ。


 「ま、内容までは詳しく話す必要はねえが……大体、嫌なことを思い出したんじゃねえか?」

 「それは……そうですね」

 「私もそうだったかな」

 「わ、私もそうでした!」


 他の人の答えを聞いて、ぼんやりとだが効果の予測が立つ。あれはきっと……


 「恐らくあの黒い波動はそいつにとっての嫌なこと、トラウマでも思い出させんだろうな。んで、何かを思い出しちまったらしいあいつは………」

 「あんな状態に、ってことね……こういうことは疎いから役に立てそうにないんだけど………」


 凛花様が額を抑える。


 「私も今回は役に立てそうにもないな。流石にケアといったものは苦手だ」


 アルヴァ様も首を横に振る。まあ、この人はそう言うだろうと思ったのだが。


 「にしても、理由がわからなきゃ対処のしようがねえ。嬢ちゃんなら、心当たりとかあるかもしれないが………」

 「あの、もしかしたらなんですが」


 言っていいものかと躊躇していたが、自分一人ではどうにもならない。意を決して口を開いた。ユート様の怪我のことについて、話したのだ。それを聞いて、部屋の空気が変わった。


 「何それ……どう考えても狂ってる、そんなの………」

 「そんな……そんなの、ひどすぎます………」

 「予想以上の状況だな、おい………」


 ユート様の抱えている問題は想定外の重さとなり、私たちに圧し掛かってくるのだった。

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