強襲、シド
「……うーん、まあ、相変わらずといえば相変わらずなんだけど」
「そうですね………」
「何と言いますか………」
三人揃ってどうしたものかと考える。そう、今は徒歩で移動しているのだけれど、会う魔物はアルヴァさんが蹴散らしてるんだよね。ジリアンさんが気付いて、アルヴァさんが倒して、通り抜けようとした魔物は凛花さんに斬られるといった様子。ほとんど流れ作業だよね。で、怪我をしたらコルネリアさんが治すという、普通ならどうしようもない布陣だった。これ、魔族の中でもかなり強くないと突破できないんじゃないだろうか?
まあ、勇者のみんなが頑張っているから、僕とカトレア、シルヴィアさんは暇を持て余している状態なんだよね。僕も手を貸した方がいいのかもしれないけど、下手に手を出すと邪魔になりそうだし。どうしようかな、となるわけなんだけど。
「ふう、終わった……それにしても、ジリアン。あんた、働いてるの?」
「はあ!?働いてんだろうが!感知してんの、誰だと思ってやがる!」
「感知してからも働きなさいよ。覗き魔のくせに」
凛花さん、怒ってるみたい。大丈夫なのかなあ?あとジリアンさん、まだ覗きしてたんだ。シルヴィアさんを見ると、ため息をついて頷いてた。どうやらほんとのことみたい。治そうとすれば、凛花さんもあそこまで怒らないと思うんだけどなあ?
「それにしても、騒々しいな」
「クロ、あんまりひどいこと言っちゃ駄目だよ?魔物を倒すのは、ほとんどみんなに頼っちゃってるんだから」
「ふん、そんなことは当然だろう」
「クロ………」
クロの自己中っぷりに脱帽せざるを得ないよ。育て方、間違えたかなあ?首をひねってうんうん唸っていると、カトレアから声を掛けられた。
「ユート様?大丈夫ですか?」
「大丈夫って、何が?」
「いえ、唸っていたので……もしかしたら、疲れているのかと」
「いや、クロがこんなになっちゃったのって僕のせいなのかな、って。というか、カトレア?なんですぐに疲れたかどうかになるのさ?」
いくらなんでも、心外なんだけど。そうは思うものの、カトレアはさも当然といった表情で返してくるのだった。
「それはユート様はよく無理をしますし。ちゃんと確認しなければ、どこかで倒れてもおかしくないじゃないですか」
「え?無理なんかしてないけど?」
「自分が無理だと思ってなくても、他人の目から見たら無理してるんです!」
ぴしゃりと言いつけられちゃった。こうなると、カトレアは梃子でも動かないんだよね。困ったなあ………
「いや、お前が言うことちゃんと聞いてりゃいい話だろがよ。そっちの嬢ちゃんの言うことは間違ってねえぞ?」
ジリアンさんにまでダメ出しを受けました。そんなに無理してるかなあ?なんとなく釈然とはしなかったけど、一応頷いておいた。そうしないと、また怒られそうだったしね。
※ ※ ※
「えーっと、あと何日くらいで着くかな?」
「そうですね。このまま何事もなければ、今日には着くでしょう。そうすれば、ゆっくりと休めるはずですよ」
僕の質問に、シルヴィアさんが答えてくれる。そっか。遠いようで、意外と早かったなと思う。ここまで着くのに掛かったのは、5日くらいだし。少なくとも、王国と帝国よりはよっぽど近いよね。
「そういえば、連邦って場所にゃあ何があんだ?珍しいもんでもあんのか?」
「この近くでは珍しいものがありますね。なんでも、温泉というところがあるそうです。お風呂の大きなものだとか。入るだけでも効能があるそうですし、羽を伸ばすにはいい場所だと思います」
温泉……お城のお風呂もかなり大きかったと思うんだけど?あれよりも大きいのかな?どれだけ大きいんだろう?でも、温泉と聞いて凛花さんは嬉しそうな表情になっていた。コルネリアさんとジリアンさんも。
「温泉か。確かにいいかもね。なんだか地球を思い出すかも」
「お風呂があるのはいいですよね!早く行きたいです!」
「そうだな、いいもんだ」
「……ジリアン、今度覗いたら殺す」
「ナ、ナンノコトダー?」
ああ、また覗こうとしてたのか。懲りない人だなあ、と思う。まあ、なんにせよみんな楽しそうでよかった。そう思いながら、食事を続ける。ここのところは見張りをしなくていいからか、朝御飯を食べているときに眠いなんてことはないんだよね。でも、他の人には悪いなって思っちゃう。クロが代わりに働いてるからか、誰も文句は言わないけれど。
食事を終えて、移動を開始しようかと立ち上がったところで、クロの様子が変化する。どうしたんだろう?
「クロ?どうしたの?」
「……来るか。ちょうどいい、こちらも貴様には恨みがあるのだからな」
いきなりこれから向かう方とまったく違う方を向いて、威嚇を始めるクロ。何かおかしいと思い、そちらを見ていると、何かが接近しているのがわかる。みんなもそれに気付いたのか、それぞれ戦う準備を始めた。砂埃を上げ、僕たちの前で止まったその影は……
「……シドさん?」
僕たちが捕まえたはずの獣人だった。